わたしたちの庭

犬飼ハルノ

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フィリスの部屋

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 建物の中も豪華な設えにフィリスは息をのんだ。
 広いホール、重厚な内装、手入れの行き届いた花々が至る所に飾られ、ウエスト家の屋敷と大違いだ。

「まずは、貴方のお部屋へ案内しましょうね」

 ほっそりした手を差し出され、胸が止まりそうになった。
 目を丸くするフィリスに、夫人はああと呟き軽く肩をすくめた。

「馴れ馴れしかったかしら、ごめんなさい。実は娘たちとよく手をつないでいたから、その癖が出てしまったわ」

「いえ、そうではなくて。……あの、宜しければぜひ」

「ええ」

 そっと手をゆだねると、しっかりと握られた。

「さあ、こちらよ」

 母が亡くなって、大きなお腹を抱えた継母が妹と現れて。
 弟が生まれて屋敷を追われ。
 そんななか追いかけてきてくれたエマは優しかったけれど、あくまでも主従としての線を引いていた。
 フィリスの未来のために。
 十年ぶりだろうか。
 こんなにしっかり手をつないでもらったのは。
 長い廊下を歩きながら、フィリスは足がふわふわと浮いているような心地だった。

「まあ……」

 連れて行かれた部屋を見て、フィリスは思わず子どものような声を上げてしまった。
 黄色のつるばらをちりばめた柔らかい色の壁紙と、カーテン。
 ベッドも机もソファーセットも、どこか愛らしい女性向けの家具が配置されていた。
 明るくて、優しい空気で満たされている。

「いかにも急ごしらえでごめんなさいね。来月には注文した家具が届くことになっているからこれで我慢して頂戴」

「がまんだなんて、とんでもありません。とても素敵なお部屋をありがとうございます」

「そう? 気に入ってもらえてうれしいわ。ところで荷物はこれだけかしら」

 旅を共にしたスーツケース一つが既に運び込まれており、箪笥の前に置かれていた。

「……はい」

「……そう」

「あの、申し訳ありません。色々贈って頂いたのに」

「いえ、大丈夫よ。確認しただけなの。貴方はまだ十五歳。決定権がないことは承知しているわ」

「……ありがとうございます」

「いいのよ。ウエスト伯爵夫人の行状は高位貴族たちに筒抜けで予想通りよ。でも、ここまで堂々としていると度胸があるのだか、考えなしなのだか……」

 両家の当主たちが婚約の署名を交わし、国へ届け出を出してすぐに夫人が手配した仕立屋や宝飾屋が現れ、フィリスのドレスなど必要なものを作ろうとしたが、全て妹のマーガレットのものになった。
 フィリスは風邪を患い、寝込んでいるから一歳違いでよく似た容姿の妹を代理で採寸して良いはずだと継母が押し切ったのだ。
 そうやって作らせた数々のドレスを着て、マーガレットと継母は様々な社交の場へ繰り出した。
 突然羽振りが良くなったウエスト家を周囲がどのような目で見るかなど、お構いなしに。

「おおよその体型は把握していたから、とりあえずいくつか服は用意したの。こちらよ」

 連れて行かれたのは隣室で、そこは様々な服が吊るされていて、靴や帽子なども棚に置かれている。

「さらにこの奥にバスルームがあるわ。小さいけれど」

 美しいタイル装飾を施されたバスルームは清潔で、水の施設も完璧だった。

「すごい……。こんなに豪華なお部屋を私が使っても良いのでしょうか」

「もちろんよ。貴方にはその権利があるし、ぜひこの部屋を使ってもらいたいわ」

 戻ったメインの部屋をよく見ると、本棚にはたくさんの本が並べられ、裁縫用の机と椅子も用意されていた。

「こんなに居心地の良いお部屋をみるのは初めてです」

「そう。足りないものがあったら私や使用人たちに言ってちょうだいね」

 気が付けば、ソファセットにお茶と菓子が用意されており、そこへ座るように促された。

「さあ、座ってちょうだい。少し話しておかねばならないことがあるの」

 控えていた侍女たちはみな、退室していく。

「はい」

 フィリスは素直に腰を下ろし、正面に座るグィネス・ブルーノ伯爵夫人の顔を見上げた。
 
 


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