わたしたちの庭

犬飼ハルノ

文字の大きさ
3 / 7

グィネス・ブルーノ伯爵夫人

しおりを挟む
 大きな鉄の内門が開く。
 すると、堅牢で豪華な屋敷の正面に大勢の人が整然と並んで立っているのが見えた。

「え……」

「先ぶれが行っておりますので。使用人全てではありませんが」

 馬車が止まり、扉が開く。

「フィリス様。お手をどうぞ」

 この旅で護衛を務めてくれていた騎士たちを束ねていた男性がステップの前に立ち、手を差し出してきた。

「ありがとうございます」

 最初は馬車の乗り降りの作法が分からず戸惑ったが、道中、侍女と彼らが丁寧に教えてくれ、なんとか板についてきたように思う。

「ようこそ、ブルーノ家へ。長旅でさぞお疲れでしょう」

 使用人たちを後ろに従え、道の真ん中に立つ貴婦人はおそらく、グィネス・ブルーノ伯爵夫人。
 プラチナブロンドの髪を優雅に結い上げた、まるでエルフの女王のように美しい女性だ。

「初めまして。ウエスト伯爵家の長女、フィリスと申します。この度は様々なお心遣いいただきありがとうございます」

 深く腰をかがめ、首を垂れた。

「丁寧な挨拶をありがとう。でも、これからはこのような挨拶は不要よ」

 気が付くと、夫人が目の前にいた。
 両腕に優しく手をかけて立つことを促される。
 すらりと背の高い女主人をフィリスは見上げた。

「息子の婚約者ですもの。貴方はこれからこのブルーノ家の一員よ」

 そう言って笑った目元はドレスの色と同じ深い青。
 思わず見とれてしまった。
 そんなフィリスに優しく笑いかけた後、夫人は使用人たちへ身体を向け、宣言した。

「さあ、皆さん。この方が次期当主夫人よ。私同様に、誠心誠意仕えてちょうだいね」

 夫人に倣って、フィリスは背を伸ばして両手をウエストの前に置き、彼らを見渡した。

「はい。奥方様」

 一斉に使用人たちが頭を下げる。
 ざっと音がして、空気が動いた。

「フィリス様。これからどうぞよろしくお願い致します」

 おそらく執事、または家宰だろう。
 初老の男性が代表して口上を述べると、全員それに倣った。

「フィリス様。これからどうぞよろしくお願い致します」

 驚いて、フィリスは目を見開く。
 ウエスト家で誰かに頭を下げられた記憶がない。

「フィリス嬢」

 夫人からの囁きに我に返る。
 深呼吸を一つつき、お腹に力を入れ、声を出した。

「挨拶をありがとうございます。フィリスです。こちらこそよろしくお願いします」

 姿勢を直した使用人たちはみな、フィリスのおぼつかない挨拶をまるで幼子を励ますような優しい微笑みを浮かべていた。
 視線の温かさに、身体から力が抜けていく。

「貴方を心から歓迎ます。本当に、よく来てくれました」

 フィリスは、胸の奥から込み上げてくる熱いものをこらえた。

 まるで、夢のよう。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

完結 私は何を見せられているのでしょう?

音爽(ネソウ)
恋愛
「あり得ない」最初に出た言葉がそれだった

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

たのしい わたしの おそうしき

syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。 彩りあざやかな花をたくさん。 髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。 きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。 辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。 けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。 だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。 沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。 ーーーーーーーーーーーー 物語が始まらなかった物語。 ざまぁもハッピーエンドも無いです。 唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*) こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄) 19日13時に最終話です。 ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

処理中です...