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しおりを挟むレオナルドはやっと唇を離すと言った。
「いいから瑠衣、俺の言うことを聞いてくれ。イエルク国王は君を無理やり奪うかもしれない。もしかしたら閉じ込めてしまうかも知れないんだぞ。君だけで行かせられるわけがない」
「大丈夫よ。そんなこと出来るわけないわよ。一国の国王なのよ…」
「もう、どういえばわかってくれるんだ。いっそ今すぐ君を奪ってしまいたい。それすれば君はもう俺のものだ。例え国王でも奪うことは出来ない。言い伝えもそうだった。最初に出会ったものと結ばれると…」
瑠衣はレオナルドが何を言っているのかすぐに分かった。
もう、わかってるんだから…やっぱりそうよ。彼はわたしを手放すのが惜しいんだ。
えっ?でも、ちょっと待って‥‥
もしそうなればレオナルドが死ぬ事になるんじゃなかった?
そんな事させない!
瑠衣の脳の片隅で声がした。
レオナルドの気持ちがどうであろうと、彼はわたしにとって大切な人なんだから。
瑠衣は言葉を失う。
ああ…なんて恐ろしい事を…わたしはまた同じ過ちを犯すつもり?またしても嘘つきな男に恋したの?
修仁の嘘はあからさまだったけど、レオナルドのこの態度を見ていると彼の嘘は底知れない怖さがある気もしてくる。
「いつまで待たせる気だ!わたしは王の使いで来たんだぞ。いいから今すぐに隊長に合わせてくれ!」
廊下で大きな怒号がした。
そしてドアが開いて大きな男が入って来た。耳は半月のように丸く黒い、おまけに目の周りも黒くて、まるでパンダみたいだ。
「これは隊長失礼した。いつまで待っても誰も出てこないから、すまん。あっ!お客様だったか?」
大きな男は頭をかきながら照れた。
大きな体のわりに意外と優しい。さっきまでの怒号が噓みたいににっこり笑った顔がまた可愛い。
「ロンダ副隊長。君か…この女性が国王に会いに行く人だ。でもちょっと待ってくれないか、彼女は体調が悪くて休んでいたんだ。明日まで待ってもらえると助かるんだが…」
「明日?それは無理ですよ。国王から急いで連れてくるようにって厳しく言いつけられてるんです。そんなに待てませんよ」
「そうか。じゃあ、もう少し支度の時間をくれないか?」
「ええ、それはもちろんいいですけど。それより僕はおなかが減ってるんです」
「わかったロンダ副隊長。食堂に行って何か食べるものを出してもらってくれ、食事している間に用意をするから」
「はい、隊長。お願いします」
レオナルドは厄介な迎えが来たと思った。ロンダとは親同士が仲がよかったので子供のころからの顔見知りだ。子供の頃はよく家族ぐるみので付き合いをしていたものだ。彼は普段はすごく人当たりのいいクマ獣人だったが、一度機嫌を損ねればもう手が付けられなくなる。レオナルドはそんなロンダが苦手だった。それに王族の遠縁で王宮の警護をしている近衛隊の副隊長だ。今、彼の機嫌を損ねればそのことがすぐに王に伝わるのは目に見えていた。
レオナルドはため息をつい瑠衣を見た。
「あの、わたしすぐに支度しますから」
瑠衣はレオナルドの話も聞かずにバスルームに駆け込んだ。
レオナルドは瑠衣を追ってバスルームまで追って来た。
ドアをぱたりと閉めると瑠衣の両手を取った。そして近づいて声をひそめて話を始めた。
「瑠衣、待ってくれ君を一人で行かせたくない。明日まで出発を遅らせるよう時間を稼ごう」
「そんな事…あなたが来れるかなんて、明日も無理かもしれないじゃない。それにもう決めたの。わたし国王に会って戦争をしないように頼んでみるつもりだから、心配ないから!」
「そんなにうまく行けばいくとは思えない。さっきも言っただろう?イエルク国王は独裁者だから、国のためとかみんなのためになんて思っていない。イエルク国王は自分の利益しか考えない男なんだ」
「それでもやるしかないわレオナルド。もう出て行って、わたし早く支度をしないと」
瑠衣はレオナルドを追い出そうと手を放してドアを開ける。
レオナルドはドア越しに瑠衣の体を心配する。まだ片方の手は握られたままだ。
「それで瑠衣、本当に体は大丈夫なのか?」
レオナルドはどこまでも優しかった。彫刻のような厳しい顔の中の瞳は心配そうに瑠衣を見詰めている。瑠衣の手を彼の指先が離したくないと何度も優しく行き来している。
わたしはそんなレオナルドが好きだ。
「レオナルドわたしの心配なんかしなくていいわ。わたしだって自分の体調くらいわかっているから!」
無理やり彼の手を引き離してぴしゃりとドアを閉めた。
彼に握られていた手にそっと唇を寄せる。唇で彼の指先の後をたどる。彼の熱が伝わって来るとそれだけで体の芯が過熱してしまう。
レオナルドの優しい思いが流れ込んで来ると瑠衣は思わず両手で自分の体を抱きしめた。
瑠衣は急に悲しくなった。
どうしてあんなことを言ったの?本当はうれしいくせに…彼はわたしを心配してるのに…
もう、ばか、ばか、ばか!何度同じことを繰り返すつもり?いい加減にしなさいよ。そんなの嘘に決まっているじゃない。彼を追い出して正解よ!目を覚ましなさいってば。男は信じてはいけないって…わかってるはずよ。
瑠衣の脳の中で、まるで天使と悪魔が言い争うみたいな声が響く。
のろのろと服を脱いでバスルームに入った。バスタブのお湯の栓を開いて湯を入れながら先に体を洗う。石鹸はラベンダーの香りで、それをたっぷり泡立てる。そしてシャワーをしてバスタブにゆっくり浸かった。
ああ…すごくいい気持ち。こんな気分は久しぶりだ。
リラックスしたせいか気分も落ち着いて来た。とにかくイエルク国王に会って戦争をせずに話し合いをするように頼もう。わたしが神様の使いだと信じてもらえればきっとうまくいくはず…
それにしても、わたしが神様の使いなんて笑える…
瑠衣はお風呂を出ると急いで支度をした。鏡の前で髪にブラシをかけ髪を整えると辺りを見た。
ここには化粧品はないらしい。もともと濃いグリーンの大きな目、鼻は小鼻ですっくりしていて口も小さく頬がふっくらしている。ベビーフェイスといえば聞こえがいいが童顔の顔立ちの瑠衣だったので、すっぴんだと幼く見えてしまう。
こんな素顔をレオナルドの前にさらしていたなんて、いや、もっとひどかったに違いない。これじゃレオナルドに嫌われてしまったかも…
わたしったらまた彼の事を…もう、なに考えてるのよ。
そうだった。急がなくちゃ!
瑠衣は気を取り直してバスルームに置いてあった服を着始めた。。
下着はコットンの大きな下着でブラジャーはなかったがキャミソールみたいな前が紐で締め付けれるようになっている…これってコルセット見たいな?
瑠衣はそれを手に取って体に巻き付けて紐で胸をきゅっと締め付けた。そしてその上に薄手のリネンのシフトドレスを着て、続いて小さな花柄のベージュ色のすっきりしたワンピースを着た。首元は小さな襟が着いて腰まではウエストラインにぴたりと沿っている。ウエストから下は緩やかなフレアーできっとこれがこの時代の普段着みたいなものなのかも…
これにエプロンとホワイトブリムをつければメイド喫茶のメイド服みたいだ。
”ご主人様お帰りなさいませ!”なんて言いそうになる。
ったく!
違うわ。これは近世のヨーロッパ女性みたいな服で… 足首まであるスカートのすそを持ってくるりと回ってみる。
片足を斜め後ろに引きもう片方の膝を折り曲げるとまるでカーテシーじゃない……
やっぱり女神の言ったことは本当なんだ。これは現実なのよね…
わたしはあっちの世界では死んでしまったなんて女神に言われても100%信じてはいなかった。
でも、もう現実として受け入れるしかないんだ。
この世界でやっていくしかわたしの生き残る道はないのだから…
そうとなればなおさら、わたしのやるべきことはイエルク国王に会うことなのだろう。
瑠衣は自分の頬を両手でぴしゃりと叩いた。しっかりしなきゃ!
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