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しおりを挟む瑠衣は支度を終えると執務室に急いだ。もしかしたらあの迎えのロンダ副隊長が待ちくたびれて待っているかもしれない。
いつもなら寝室側から入るが、あえて廊下に出て執務室のドアをノックした。
「はい、どうぞ」
「失礼します。隊長、支度が出来ました」
「瑠衣、いきなりどうしたんだ?なんだか他人行儀じゃないか」
「いえ、わたし今まで隊長に甘えすぎていました。事情がはっきりした以上きちんとしなくてはいけないと思いますので」
「そんなことする必要はないんだ瑠衣。俺は今まで通りがいい。ベッドで戯れたり、一緒に笑ったり、キスをしたり…もっともっとやりたいことがある」
レオナルドはわたしの手をぎゅっと握りしめてそっと唇を寄せた。その瞳は一点の限りもないように澄んで見えて、思わず胸キュンだ。
「いえ、あなたの立場もありますから…」
「でも俺の気持ちはわかっているんだろう瑠衣?」
レオナルドの端正な顔が近づいてくると、心臓が一斉に騒がしくなる。さっき彼に焦がれる気持ちに蓋をしたばかりなのに…ああ‥欲望がふつふつと湧き上がって来る。こんなにレオナルドが欲しいと思うなんてわたしったらどうかしているとしか思えない。無理だと思うほど彼が恋しくてたまらない。
ああ…もう、一度でもいい彼に抱かれたいと思ってしまう。
瑠衣は唇をかみしめる。
今はそんな事を言っている時じゃないのよレオナルド!
「そんな事よりロンダ副隊長はどちらに?」
「僕を呼んだ?」ドアが開いてロンダ副隊長が入って来た。
「こちらは?」ロンダは幼く見える瑠衣を見た。
「はい、こちらが聖女を言われている橘 瑠衣さんです」
「初めましてロンダ副隊長。支度は出来ましたのでいつでも出発してくださって結構よ」
「いや、待ってくれ!瑠衣はまだ医師を診察を受けないと。体調が良くなかったんだ。丸一日以上の馬車の旅はかなりきついからね。いいですよねロンダ副隊長?」
「ああ、そうだな。途中で倒れられてはこちらも困る。では僕は騎士隊の訓練場にでも顔を出してこよう。終わったら訓練場にいるから知らせてくれ」
「はい、誰か。ロンダ副隊長を訓練場にお連れしてくれ!」
すぐに隊員の一人が執務室に入って来た。
「ロンダ副隊長ご案内します」
ロンダ副隊長は隊員について部屋を出た。
「レオナルド、もうどうして余計なことを言ったの?わたしは大丈夫って言ってるじゃない!」
「そうかな?」
レオナルドが近づいてくる。
「何するつもり?」
「こうなったら俺と契りを結んでもらう」
「そんな事したくない。あなたって最低!」
瑠衣は後ずさりしながらレオナルドに悪態をついた。ほらきた。やっぱりそんな事だと‥‥
レオナルドが後ろから瑠衣の体に飛びつくように彼女を捕まえる。
「るい…」彼の唇がうなじに触れた。
「だめ…」
頭ではやめなさいって言ってるのに…心はやめてほしくないって思っている。こんなの矛盾してる。
「ずっと瑠衣が欲しかった。俺は君にしかこんな感情を抱いたことはないんだ」
「まあ、上手なのねレオナルド。そんな事言っても信じられないから、リリアンとか言う女性だってあなたを追いかけて来たじゃない」
「リリアン?ああ、彼女は母が勝手に選んだ婚約者候補の一人であの時初めて会ったと言ったはずだ」
「でも、わたししか好きになったことがないなんて…あなたいくつ?」
「俺は30歳になった。瑠衣よく聞いて、狼族獣人は生涯にただ一人の女性しか愛さない。その女性を生涯愛するんだ。もちろん交わるのはただ一人の女性とだけだ」
瑠衣はとうとうわたしの頭はおかしくなったと思った。
レオナルドに後ろから手をまわされて胸の前で彼の手を意識して、それでなくても心臓がぴくぴく震えているのに…
「レオナルド?冗談はやめて!わたし急いでるから…」
彼の手をどかそうとする。
「行かせない!」
レオナルドの声がきつくなって、まわされた手が力強く瑠衣を抱き締める。耳朶に唇を近づけるとレオナルドが話の続きをした。
「冗談に聞こえる?俺は愛の告白をしたつもりなのに…瑠衣を俺の生涯の番にしたいんだ。そうなれば国王だって君に手出しは出来ない」
えっ?今確か…”番つがい”って聞こえたけど?鳥とか獣が、いわばあの夫婦になるって言う事かしら?でもそれが愛の告白ってどういう事?
「番ってなに?レオナルド?」
瑠衣は彼の腕の中で向きを変えた。レオナルドと向かい合わせになる。
「ああ、人間で言えば夫婦?そう結婚かな。瑠衣、言っておくけど恋人以上の関係だよ」
彼は真剣そのものだ。耳はピンと立って瞳は見開かれている。唇は緊張のせいか少し開き気味で時々下唇を噛んだりしていて…
瑠衣はもう混乱した。思わず…
ああ…わたしもあなたが好きって言いそうになる。
でも…あまりにも唐突すぎる。出会って間もないのに、そんなこと良く言えるわ。彼はおかしい…
「あのねレオナルド、わたしたちまだ恋人でもないし…友達くらいの関係なのよ。それをいきなり夫婦になるって?あなたどうかしてるから…」
「でも、瑠衣はどうしても国王に会いに行くって聞かないじゃないか。だったら俺の印をつけておくしかないだろう。人間ならマーキングとでも言うのか?」
くっ!俺の印?マーキング?…人のこと、おしっこかけるみたいに…もうどういうことなの?子供みたいに…
まあそんなに言うならマーキングでも何でも…
「じゃあ、マーキングしてよ。そうすればレオナルドは安心なのよね?わたしだって国王のものになるつもりはないから…」
「い、いいのか?本当に?瑠衣?俺のものになってくれるって事なのか?」
何かおかしいことを言った?レオナルドの驚きぶりに瑠衣は動揺する。そう言えば番になるとか、夫婦って事だとか…?
彼の耳はフルフル震えて尻尾はばっさばっさと空を切っている。
「えっ?レオナルド。それってわたし達が結婚するって事なの?今ここで?」
「ああ、その通りだ。結婚式の様な儀式的なことはやる獣人もいるが、ふつうはふたりの合意で体を交わる行為をするのが番の契りを交わすって事だから…」
「体を交えるって…」
瑠衣は真っ赤になる。レオナルドからされた愛撫を思い出した。修仁とのセックスはいつも乱暴で無理やりしているような感じで愛しあう行為ではなかった。
だが彼の行為はまさに瑠衣が求めていた愛の行為だったから…
突然、体の奥がきゅっとなって、蜜口がずくんと疼いた。
「瑠衣?最初に言っておくけど…その…あの…俺は…交わりは初めてなんだ。だから君を満足させれるか心配で…それに時間もあまりなさそうだし…とにかく頑張るから」
「レオナルド…?初めてなの?」
いつもは自身たっぷりの彼が恥じらうように顔を赤くする。おまけに耳は折れてすごく可愛い。
「そんなに見つめないでくれ…これでも本で勉強したんだが、緊張ですっかり忘れた…はぁ…」
その瞬間、瑠衣の心の壁は崩壊した。
知らなかった。ずっと彼を疑っていたけど、まさかそんなにわたしの事を思ってくれてるとは…
「ああ…レオナルド、わたしをあなたの番にして」
瑠衣は思わずレオナルドにしがみついた。
「瑠衣、今すぐ欲しい。もう待てない」
レオナルドとぴたりと重なると、瑠衣のお腹に彼の硬くなったたくましいもの押し付けてくる。
その猛りはぴくぴくと震えているようにも感じる。
彼の興奮が伝わってくると花芯が潤っていくのがわかり瑠衣は太腿をすり合わせた。
どちらからともなく唇が重なった。熱くなった唇を互いに触れ合わせるだけで、もう膨らんだ思いは弾けそうになってしまいそうなほど、欲望は爆発的に膨れ上がった。
”ああ、今すぐ欲しい。そうでなければ死んでしまう。”互いの声が脳に響くようにこだまする。
「るい。俺のベッドに行こう」
レオナルドは瑠衣を抱き上げると寝室に急いだ。
レナルドは瑠衣をベッドにおろすと、自分の上着を脱ぎ捨てた。
一度ゆっくりと深呼吸をすると瑠衣の前にひざまずいた。
「瑠衣、君を生涯愛すると誓う。君だけを愛する」
そっと瑠衣の手の甲にキスをする。
「レオナルド、わたしもあなただけを愛するわ」
ああ…これって本当に夢じゃないのね。本当にレオナルドとわたし結婚する。
瑠衣の心は、まるでお花畑のように美しく花開いた。
「瑠衣俺のものになってくれるね?」
「ええ、あたなのものになりたい」
レオナルドが瑠衣を引き寄せ誓いの口づけをした。
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