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しおりを挟むそのうち夜になったが、誰一人として部屋に入って来るものはなかった。
その夜の夕食を廊下で使用人が見張りの近衛兵に預けると、近衛兵が食事を持って部屋の中のテーブルの上に置いた。
瑠衣は思い切って声をかけてみる。
「あの…わたしいつまでここに?」
「話はしてはいけないことになっていますので‥‥」
近衛兵の兵士はそれだけ言うとすぐに部屋を出て行った。
その後も誰一人として部屋に入って来るものはなかった。
瑠衣はどうすれば逃げれるかそればかりを考えていた。
メイドでも来てくれれば少しは話でもして王宮の出入り口とか、国王の様子でも聞けるかもしれないのに、こんなに誰も部屋に来なかったらどうすればいいのかますますわからなくなる。
翌日の朝、別の兵士が朝食を持って来た。
「失礼します。さあ、聖女様食事です。しっかり食べてください。では失礼します」
兵士は騎士隊の服をきちんと着て姿勢を正して礼をすると出て行こうとした。
「ちょっと待って、お話があるの」」その男に声をかけた。
彼は聞こえないふりをして出て行こうとする。男の耳はレオナルドと同じような狼のような耳がある。その耳がひくひくと後ろに動いた。
瑠衣はわらをもつかむ思いで話しかけてみる。
「あなたお名前は?もしかしてその耳は狼獣人かしら?」
「わたしはあなたの警護をしているものです。それだけご存知ならば結構ですから…」
「でもずっと立っているのは大変でしょう?どうです。わたしが食べる間だけでも、ここで休憩でもしたらいかがですか?」
「そんなことは許されていませんので…」
「そうごめんなさい。あなたを困らせるつもりはなかったの」
「もういいですから食事をなさってください。食べ終わった食器はこのままにしておいてくださって大丈夫ですから」
すでに兵士は昨日の夕食の食器のトレイを両手に持っていた。
「あの‥もうレオナルドを捕らえに向かったのかしら?それに行ったのは誰かご存知じゃない?」
「それは存じませんので」
兵士は部屋を出て行こうとする。
瑠衣はすがるように言った。
「お願い、国王は番の印をつけたわたしを妻にするためにレオナルドを殺すつもりなの。だから、夫に…レオナルドに危険が迫っていると知らせなければいけないの。わたしをここから逃がして…お願いします」
「私たちは国王直属の近衛隊です。そんなことは出来ません。もう食事をしてゆっくりしてください。聖女様もお疲れになりますよ」
瑠衣はもうこれまでかとうなだれた。
もう、わたしったらどうかしてる。レオナルドに利用されているかもしれないのに、彼が殺されると思うと胸がつぶれそうなほど苦しくなるなんて。
瑠衣はふっと笑った。
違うったら、わたしは騙されてるんじゃないから、これはレオナルドのためじゃなくて、殺されると分かっていて黙って見過ごすことが出来ないからよ。そんなのわたし自身が許せないもの!
それに国王から逃げるためでもあるんだから!
その時外から兵士を呼ぶ声がした。
兵士は急いで出て行った。
瑠衣はじっとそれを見ていた。今なら見張りがいない。
瑠衣は昨晩からまじないを色々試してた。
するとやりたい言葉にウーンドウォートをつければ出来ることがあると分かった。
部屋のカギを壊して‥‥鍵穴に向かってまじないを唱える。
「シャッタリングウーンドウォート、シャッタリングウーンドウォート……ガチャ。」音がした。そっとドアを開けてみる。
やったわ。鍵が壊れた。
瑠衣は持って来たバックを手に取るとドアを少しだけ開けて外の様子を伺った。今だ!
瑠衣は部屋から飛び出した。
バッグに中にはレオナルドが持たせてくれたアディドラ国の通貨ドラが入っていた。
服装は来た時のままだったので、街に逃げ込めばすぐに人目につかなくなるだろう。何しろ瑠衣の服装は貴族たちが着るものとはかなり違っていたからだ。コットンやリネンは使用人やメイドが着るものだからだった。
とにかく王宮を出て街の中に紛れ込もう。そしてヘッセンに向かう馬車でも探して…瑠衣はまったくどうしていいかわからないまま行動を起こしたので、色々なことを考えながら王宮の中をうろついた。
すぐに兵士たちは瑠衣がいなくなったことに気づいた。
「聖女様出てきて下さい。お願いです」兵士たちは口々にお願いするように瑠衣を呼んだ。
彼らにとって聖女は神聖なるもので、捕えてられているとは思ってもないのだ。
瑠衣は広い王宮の中で完全に迷子になってしまい、とうとう兵士に見つかった。
兵士はどうしたものかと瑠衣をジャミル宰相のところに連れて行った。
「聖女様いけませんな。そんなことをなさっては、あなたには特別待遇で部屋を用意させたのに…仕方がありません。近衛兵、聖女様の安全が第一だ。ここは仕方がない牢屋に連れていけ!」
瑠衣は部屋に連れて来られた時からずっとジャミル宰相にまじないをかけていた。
「聖女を解き放てウーンドウォート、聖女を解き放てウーンドウォート‥‥」
全く効き目はない。
瑠衣はかなりの体力を消耗したらしく、体が重くて辛い。
「お願いです。わたしを解放してください」
「それは無理です。あなたがわたしの言うことを聞いて下されば悪いようにはしません。どんな贅沢でもかなえてあげましょう」
ジャミル宰相は瑠衣に微笑んだ。
瑠衣は力尽きたようにぐったりとなった。
そこに兵士が入って来た。
「聖女様はいらした部屋にこんなものが‥‥」
兵士が持って来たのは、壊れたブラシや鏡だった。
「聖女様、まさかあなたがこれを?」
ジャミルが目を見張った。
「すぐに聖女様を東の牢獄に…」
兵士が聖女を心配してか言った。
「ですが、ジャミル宰相。そんなところに聖女様を?」
「お前らがしっかり見張らないからだろう。もし聖女様に何かあったらどうする?イエルク国王は許しては下さらないぞ!」
「わかりました」
近衛兵たちは仕方なく瑠衣を東の塔にある牢獄に連れて行った。
「聖女様すみませんがここで我慢してください」
兵士は申し訳なさそうに瑠衣を牢屋に入れる。
中は土を固めたような壁と土間で簡易ベッドが置いてある。トイレには申し訳程度に仕切りがあった。明り取りの窓が高いところにあってそこにも鉄格子が入っていた。
「お願いわたしを逃がして…わたしが国王のものになってもいいの?」
「ですが、言い伝えでは聖女様は国を治めるものと結ばれると、だから国王はあなたを妻にするんです」
「でも、わたしはもう別人の者なのよ。ほら、ここを見て」
瑠衣は必死で肩口を見せる。
「今時番の印なんて…」
兵士は笑った。
「これって夫婦の印じゃないの?」
「確かに、昔はそんな印を女につけていたものです。ですが今では女がそんなことをするのを嫌がって…そうですね。狼獣人はまだそうかも知れませんが…」
若い兵士は笑いながらそう言いながら去っていった。そして別の兵士が今度は三人も見張りについた。
何よ、レオナルドったらあんな事言ってたけどこの印にそんな意味ないんじゃない…もう、わたしったらばかみたい。
それでも瑠衣は逃げ出すために何度か兵士に話しかけてみる。だがいくら話しかけても彼らは一切口を利いてくれなかった。おまけに扉の前に立っていて鍵を壊すまじないもかけれなかった。完全に鍵を壊したことを見破られている。
瑠衣は次第に気力を失っていった。こんなに見張られていては何も出来ない。
簡易式ベッドに横たわるといつの間にか眠っていた。
その朝レオナルドは大急ぎでヘッセンを出た。ロンダが自分を捕まえるとわかった以上街道を行くわけにはいかない。元からレオナルドは森を向けて行こうと思っていたが…
彼は騎士隊の本部から離れるとすぐに狼に変身した。そしてエルドラに向かって走り出した。一刻の猶予もないとばかりにレオナルドは時速80キロのスピードで走り続けた。
レオナルドは夜の闇に紛れて瑠衣を助け出すつもりだった。
そして予定通りに、太陽が沈むころエルドラの街にたどり着いた。
エルドラは周りを森に囲まれて東西南北の道は南の一本の道に集まって行く。王宮はその一本道の一番奥にあり、後ろはすぐに森が広がっていた。
レオナルドはゆっくりと森を抜け出すと、瑠衣の匂いを追った。彼女の匂いをたどればどこにいても見つけ出せる。レオナルドは嗅覚には自信があったので、何も心配していなかった。瑠衣さえ見つければ後は問題ない。
一番心配なのは彼女が無事かどうかだった。
”瑠衣どうか無事でいてくれ!”
レオナルドは心の中で祈りながら瑠衣を探した。
そしてようやく瑠衣の居場所を突き止めた。
よりによってどうして東塔なんかに…あそこには牢獄しかないはず?
レオナルドの胸は引きちぎられそうになった。
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