29 / 54
28
しおりを挟むレオナルドは瑠衣が行ってしまうと、執務室で行ったり来たりして瑠衣の事ばかり考えていた。
彼女の残り香が体に残っていて仕事のことなどちっとも手に付かなかった。
おまけにあんな事をしたばかりに、あの快感を思い出して股間が疼いて仕方がなかった。
クッソ!こんな時にお前ってやつは…レオナルドは自分の体に腹を立てる。
だが、体は正直でもっと彼女を味わいたくてうずうずしてくる。
しばらくすると今度は道中瑠衣が無事か気になり始める。
ああ、やっぱり瑠衣をひとりで行かせなければよかった。せめて騎士隊の隊員でも一緒に連れて行かせればよかった。
それよりあんなプリンツ王国との策を瑠衣に預けなければよかったかもしれない。国王の機嫌でも損ねたら瑠衣が責められるかもしれないじゃないか。
レオナルドの心配は尽きることがなかった。
その夜、ジャックが隊員を連れて帰って来た。
「隊長、只今帰りました」
「ああジャックお疲れ様。それでどうだ?隊員たちは?」
レオナルドはやっと大事な仕事の事を思い出す。ああ、悪かったジャック、君に大変な仕事を任せていたんだった。
今までこんな大事な仕事の事を忘れるなんてなかった。瑠衣に恋するまでは…
「はい、全員連れて帰りました。隊長のおっしゃる通り井戸の事ははっきりした証拠があるわけでもないことは全員が納得してくれましたから、もう大丈夫です」
「そうか、ありがとうジャック。今夜はゆっくり休んでくれ、わたしは隊員たちに会って来よう」
「はい、失礼します」
「ああ、ジャックおやすみ」
ジャックは部屋を出て行った。
レオナルドは隊員たちの様子を見に彼らの部屋を訪れた。
「カルロどうだ?落ち着いたか?」カルロはリーダーのような存在で他の隊員たちから信頼されている男だった。
「はい、隊長すみませんでした。今伺おうと思っていた所でした」
「それで他のみんなは?」
「はい、みんなもうよくわかっていますので心配ありません。みんながあの井戸水のせいで苦しんだので、つい人間の仕業に違いないと思ってしまって…すみませんでした」
「ああ、よくわかる。でもひょっとしたら人間の仕業じゃないかもしれない。この屋敷は長い間誰も住んでいなかった。だから井戸も長い間使われていなかったはずだ。その間に井戸に不備があったのかもしれない。最初は良かったが何かのはずみでばい菌でも繁殖したのかもしれないからな」
「そうですね。わたしの考えが足りませんでした。すみません」
「これからは、何かあったらまず相談してほしい。俺もみんなの意見は尊重したいし見落としていることもあるだろう。だから頼んだぞカルロ」
「はい、隊長」
カルロはレオナルドに敬礼をした。
レオナルドは、隊員たちの部屋を後にすると、ひとりで散歩に出かけた。
もうすぐ満月だった。レオナルドは野性の血が騒いで気が苛立ち始めていた。
こんな夜にはあの洞窟でゆっくりしたいがそうもいかないだろう。
獣人たちはそれぞれの性質があって、レオナルドのように満月の夜に狼に変身する獣人もいれば、クマ獣人が興奮してクマに変身することもあるし、羊だってウサギだって驚いたりっして変身してしまう事もある。
だから誰もレオナルドが狼の姿で執務室にいようと驚く者はいない。
翌朝はやっとレオナルドは落ち着きを取り戻した。仕事を早めに終わらせて瑠衣を追いかけたい。そんな気持ちが湧いてきてレオナルドは一層仕事に熱が入った。
使用人のエマがいつものように朝食の用意をしてくれた。
レオナルドはいつも執務室で食事をとる。
その時使用人のエマが話をした。
「そう言えば隊長、例の井戸の事ですが、ずっと前に親戚ものが長い間使ってなかった祖母の家に行ったことがありまして、その時も家の外にあった井戸の水を使ったんです。そしてこの前のようにお腹をこわして大変な目にあったんです。わたしも年ですっかりそんなことを忘れていましたが、もしかして今回の事もそれと似たようなことかも知れませんよ」
「エマ、それで原因はわかってるのか?その家族が具合が悪くなったのはどうしてなんだ?」
「確か‥‥ネズミの死骸が井戸の中にたくさん浮いていたとかで、きっとばい菌がうようよしてたんですよ。そんな水を飲んだなんて、ああ…考えただけでぞっとします」
「そうか、よく思い出してくれた。早速井戸の中を掃除するよう手配する」
レオナルドはすぐに井戸の中を調べるように言いつけた。
その日は隊員たち井戸の中に入って中をくまなく調べた。レオナルドも立ち会って何度も井戸の中を調べさせた。
するとやはりネズミの死骸がたくさんあった。
これが原因か…
すぐに死骸を全部処分して井戸の中をきれいに掃除した。そしてレオナルドは隊員たちを全員集めて話をした。
「井戸の水はネズミのせいで汚れていたと思われる。そのせいで菌が繁殖して我々の体調を悪くさせた。井戸の掃除は出来たが、これからも水は煮沸して飲むようにしてくれ」
隊員たちが口々に言う。
「やっぱり人間の仕業じゃなかったのか」
「先走らなくてよかったな」
「これでやっと安心だ」
「まったくネズミって奴は…」などと…
でも隊員たちはこれで安心したようだった。
レオナルドも原因がはっきりして安心した。
だが、すべてが終わったのはもう日が沈んだころだった。
これで心配の種は解決できた。
そうとなったら今からでもエルドラに行きたい。レオナルドははやる気持ちを抑えることが出来なくなった。
その夜ジャックに2,3日騎士隊を留守にしたいと言った。
ジャックも渋々だが承知してくれたが出発は翌朝にして欲しいと頼まれた。いくら隊長でも夜に出かけるのは危険すぎるとジャックが言ってきかなかった。
レオナルドは明日の朝、馬でエルドラに向かうつもりでいた。明日はちょうど満月だが満月の日でも日中は狼に変身することはない。変身は太陽が沈んでから夜が明けるまでの間だ。夜までにエルドラにつけばなにも問題ないだろう。
それでも自分の本能が変身を促すときは別だったが…
翌朝、ジャックから聞いたのかいつもより早くエマが執務室に入って来た。
「おはようございます。隊長今日はまたいいお天気で」
朝食をトレイに乗せている。
「ああ、エマありがとう」
「さっき牛乳を配達にやって来たヤンが言ってましたが、エサムの町にまたロンダ副隊長が来られたそうで、何でも急ぎの用とかで」
「ロンダが?おかしいな。ロンダは昨日エルドラに帰ったばかりなのに?」
「そこの兵士が言うには、国王の妻になる聖女様によからぬことをした不届きなものがいるとかで、そいつを捕まえに行くらしいです」
レオナルドの耳がピンと立った。今なんて言った?聖女が国王の妻になる?瑠衣が?
「エマ!その兵士は確かに聖女が国王の妻になるって言ったのか?どうなんだ?」
「はい、ヤンが今朝兵士から聞いた話ですから間違いありませんよ。ヤンが言うには聖女様によからぬことをした不届きものを捕まえると兵士が言ったそうで、何でも国王が聖女を妻にするのに、たいそう気分を害されたとかで…」
「そのよからぬことをした奴が誰なのかわかるか?」
「さあ?そこまでは話しになかったですが…」
ったく、それは俺の事だろう?イエルクのやつ!なんて奴なんだ。俺が番の印をつけたのを見たんだな。レオナルドは歯ぎしりした。
「エマ聖女が誰か知ってるよな?瑠衣だ。瑠衣は無事なのか?」
やっぱり瑠衣をひとりで行かせるべきではなかった。こんなことをしている場合ではない。すぐにここを出なければ…
「瑠衣さまは無事のはずですよ。何しろ国王の妻になろうって言うんですもの。でもお部屋にずっとこもられていると兵士が言ったらしいですよ」
「そうか…ありがとうエマ。良く教えてくれた。もし瑠衣の事で何かあったらジャックにすぐに知らせてくれないか?」
「ええ、もちろんです隊長」
レオナルドはすぐに出発の用意を始めた。
聖女に良からぬことをしたものを捕まえるだって?クッソ!瑠衣を自分の物にするために俺を殺すつもりなんだな。そうすれば瑠衣を自分のものにできるからな。
瑠衣が国王の妻になりたいと言うはずがない。きっと瑠衣は閉じ込められている。
レオナルドは怒りに震えた。今夜は満月。レオナルドの最強の力が出せる日だ。
瑠衣待っていてくれきっと助ける。
レオナルドはすぐにヘッセンを出発した。
もちろんレオナルドはすぐに狼に変身して、猛スピードでエルドラを目指した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
41
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる