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しおりを挟むその時ドアがノックされた。
「失礼します」
入って来たのはロンダだった。
「おはようございます。国王陛下。瑠衣さん」
「おはよう。ロンダその国王陛下はやめてくれ!君とは今まで通り付き合いたい。せめてこんな場所ではレオナルドと呼んでくれないか?」
「はぁ…ですが…まあそれは置いといて。わたしが瑠衣さんの護衛をするようにと言われたのですが、馬車の支度は出来ていますのでいつでも出発できますとお伝えに来ました」
「ありがとう。荷物はマハルに頼んだが…」
「はい、荷物はマハルから預かりました。着替えや必要なものは揃えてあるそうです。道中よろしくお願いします。では私はこれで失礼します」
ロンダはそれだけ言うとくるりと向きを変えて出て行った。
「そう言えばレオナルド‥‥」瑠衣は言いかけたことを話そうとした。
「ああ、瑠衣までなんだ?」
「ああ、えっと…‥あのね、レオナルド、そういえばイアスさんの病気の事なんだけど」
瑠衣はこんな話をするつもりではなかった。
「瑠衣はイアスを知ってるのか?」
レオナルドが驚いた顔をした。
やっぱり婚約者の事を知られたから?そうよね。彼女はすごく可愛かったもの…もしわたしがいらなくなっても彼にはイアスが…‥
「ええ、牢に入っている時ロンダさんに頼まれて病気を治したの。きっとイアスさんは元気になってると思うわ。だから、もしわたしに何かあったら彼女を王妃にすればいいわ」
「何を言ってるんだ瑠衣?俺が他の女で満足できるはずないだろう?それにもしってなんだ?」
レオナルドの顔がまじになって恐い。
「ううん、もしも、万が一よ。だって…わたしはあっちの世界でも死んだし、こっちでも一度死んだのよ。いつ何があるかわからないじゃない。そう思わない?」
「それは誰だっていつ死ぬかわからないけど…でも瑠衣がいれば大丈夫じゃないか…いや肝心の瑠衣が死んだらどうしようもないか…何かあるのか?心配なことでも?」
レオナルドの目つきが鋭くなった。耳は尖りかなり緊張していることが分かる。
「ううん、何もないわ。ただ、ふとそんなことを思ったの。最近ずっとこんなことばかりあったからそう思うのかもしれないわ。わたしったらほんとに心配し過ぎね何でもないから気にしないでレオナルド…」
「瑠衣、俺に隠し事はしないでくれよ。そうでなくても3日ほどは君と離れ離れになるんだから…君に馬は無理だろうからなぁ…」
レオナルドは椅子から立ち上がると瑠衣を後ろから抱き締める。体を折って耳朶に唇を這わせてくる。
「そうね。無理ね…さあ支度しないと…」
瑠衣は体が彼を欲しがる前にと、椅子から立ち上がる。
「わたしも着替えたら、もう何時でも出発できるから」
「ああ、瑠衣、本当に何でもないんだな?」
レオナルドはなおも瑠衣の手を放そうとしない。
「もちろんよ、さあ、早くしなきゃ…」
瑠衣はレオナルドの見透かすような赤い瞳に、わざとおどけて舌を出す。
ああ、もうどうして…言いたかったことのひとかけらも言えなかった。
”本当はわたし力がなくなったの。もう聖女じゃなくなったけど、それでもあなたはいいの?”
たったそれだけの‥‥40文字ほど、10秒もあれば言えるのに…‥
瑠衣はどうしても聖女でなくなったことを言えなかった。
もう、わたしったら…意気地なし!ばか!能無し!ろくでなし!瑠衣は自分を何度も罵ののしった。
支度は整い瑠衣は馬車に乗る。周りをぐるりと近衛隊6人に囲まれてレオナルドはそれを見て満足した。
レオナルドは瑠衣の馬車に乗り込んできた。
彼は緊張しているらしく、耳が尖って顔もかしこまっている。
「瑠衣、これを受け取ってほしい」
レオルドは瑠衣の左手を取った。ルビーの指輪を薬指にはめる。
「どうしたの?こんな高価なもの…」
瑠衣は驚いた。いつの間にこんな…
「さっき、両親から届けられたんだ。この赤い指輪は我が家に伝わる伝統的な指輪で、花嫁に送られる指輪なんだ。今までは母が持っていたんだが、俺が結婚すると知って朝いちばんに届けてくれた。俺も瑠衣にこれをつけておいて欲しい。式はプリンツ王国から帰ったら正式にするつもりだけど…」
「じゃあ、これって結婚指輪って事?」
彼は嬉しそうにうなずく。
「ええ、レオナルドうれしい。ありがとう、大切にするから」
レオナルドの顔が近づいてふたりはキスを交わした。
「さあ、急がないと…瑠衣、俺は追い越して行くけど安心して来てくれ。先に行って手はずを整えておくから。プリンツ王国で少しゆっくりできればいいんだけどな」
「ええ、心配しないで、レオナルドこそ気を付けてよ」
「ああ、心配ない。書簡は送ってあるから、俺が行くことも知らせてある。話し合いで済むなら向こうも無駄な争いはしたくないはずだ」
「ああ…レオナルド、ほんとに気を付けてね」
瑠衣はレオナルドの手をぎゅっと握りしめる。レオナルドはもう一度瑠衣にキスをすると馬車をおりて離れた。
「さあ、出発するぞ、皆油断するな!」ロンダが近衛兵に掛け声をかけた。
馬車が出て行くのを見送ると、レオナルドと護衛兵3人は馬に乗り込んだ。
取りあえずヘッセンでもう一度補給をして、それからプリンツ王国に入る予定だ。
「さあ、俺達も行こう。まずはヘッセンに向かう。明日中にはプリンツ王国に入りたい」
「わかりました、陛下」
護衛兵が3人付き添ってレオナルドは出発した。
ものの30分もしないうちにレオナルドたちは瑠衣の馬車を追い越した。
レオナルドは瑠衣に合図を送った。瑠衣はレオナルドが見えなくなるまで手を振った。
その日の夕方レオナルドたちはヘッセンに着いた。そこで食料や必要なものを補給すると、すぐにレオナルドたちは出発した。
プリンツ王国の国境では、日暮れにもかかわらず書簡を送っていたこともあってアディドラ国からの使者であることを伝えると無事に国境を超えることが出来た。
国境を超えるとローテ川を渡り一路プリンツ王国の首都ロペを目指す。ロペまでは馬で丸一日かかる。
レオナルドたちは一刻も早くプリンツ王国との話し合いをするため、夜は野宿をして休んだが翌朝早くにはロペを目指して馬を進めた。そしてアディドラ国を出発して2日目の夕方にはロペに着いた。
レオナルドと護衛兵は王国の宮殿に入っていく。
「ようこそお越しくださいました。わたしはこの国の宰相をしておりますセルジュ・ルカディウスと申します。どうぞよろしくお願いします。アディドラ国、国王であらせられるヴェルデック国王。こたびはわざわざ国王直々にプリンツ王国にまでお越しいただきありがとうございます。さあ、部屋に案内させますのでどうぞ。まずは少しお休みになられて、明朝、話し合いを始めさせていただく予定ですので」
レオナルドは宰相の言葉では国王との謁見はないように思えた。
「ルカディウス宰相、お言葉ではありますが、まずは国王にご挨拶申し上げたいのですが」レオナルドはまず国王に挨拶したかった。
ルカディウスは国王の妹の夫だ。噂では国王の具合が悪くなってからは彼が国王の代理役を務めているらしい。ルカディウスはアディドラ国の獣人たちを蔑んでいた。
レオナルドは国王の具合が悪いことは知っていたので、瑠衣が来た時病気を治せることを国王に知らせておきたかった。
ルカディウスは一瞬だったが、眉をひそめた。
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