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 翌朝、眩しい光が窓から注ぎ込んでレオナルドは目を覚ました。瑠衣はきっと疲れたのだろう、まだぐっすり眠っていた。

 レオナルドは瑠衣の唇にそっと口づけると、静かに起き上がった。


 シャワーを浴びると昨日の服を着た。アディドラ国では毎日着替えるという習慣はない。シャワーを浴びるのでさえ一般庶民にとったら夢のような話だ。上着は着ないでシャツとズボンだけはくと廊下に出た。

 近衛兵が立っていたのでジャミルがどこにいるかを聞く。そして食事を持ってきてほしいと頼んだ。

 何しろ昨日はほとんど食事が出来なかったのでレオナルドは腹が減っていた。

 近衛兵はすぐに走り去った。


 しばらくして使用人がリビングに食事を運んできた。

 「あはようございます。国王殿下。わたしは王宮の使用人係のマハルです。どうぞよろしくお願いします。他に何か御用は?」深々とお辞儀をされる。

 レオナルドは椅子に座っていたが、使用人の態度にひっくり返りそうになる。

 「いや、マハルよろしく頼む。でも国王陛下は言い過ぎだ。せめて…」

 「では陛下とお呼びしますので…後で王妃のお着替えも持って参りましょうか?」

 はっ?

 レオナルドは何も言えなくなって話を続ける。

 「ああ。そうだな。しばらく旅に出る事になる。ふたりの支度を頼む」

 「はい、わかりました。もちろん馬車ですよね?」

 「ああ、そうだな」とうなずくとマハルはお辞儀をして部屋を出て行った。

 レオナルドは背中がくすぐったい気がしたが、国王となった以上そういうことにもなれなくては…はぁ…何だかとんでもない間違いをした気もしたが、もう後に引くことは出来ないからな…‥


 レオナルドはこうもしてはいられないと瑠衣を起こすことにした。

 「瑠衣?起きれそうか」

 瑠衣は昨日のごたごたと激しい運動ですっかり疲れていたが、何やら熱い視線を感じて目を開いた。目の前にレオナルドの見惚れるような顔に覗きこまれているではないか。バシバシ瞬きをするとぱっちり目が覚めた。

 いきなり心臓バクバク状態に陥った。

 「おはようございますレオナルド…あの、わたし…もうやだ。そんなに見ないでよ」

 「どうして?君は美しいのに…」

 レオナルドの手が伸びてきて瑠衣の乱れた黒髪をそっと撫ぜ耳の後ろに押しやる。

 「そうだ。わたし、シャワーを…」

 こんなの…やだ。わたしまだ裸じゃない。気づいてまた慌てる。

 「もう、レオナルド見ないで…」

 「もうすべてを知ってるじゃないか。とってもきれいだよ瑠衣…また欲しくなりそうだ」

 「…‥」瑠衣は足早にバスルームに駆け込む。


 瑠衣はすっかり正気に戻った。熱めのシャワーを浴びながら彼とプリンツ王国に行くことを考えた。彼と一緒に過ごせるんだ。

 そう思うとまた体の芯が疼いてきた。

 やだ!

 でも…もし何かあってまじないをかけるようなことがあったらどうしよう…聖女じゃないってばれたら?もうレオナルドはわたしを必要としなくなるかもしれない。

 体を伝うお湯は熱いのに、ぶるっと震えがくる。

 彼はこの国の国王になったのに…わたしはふさわしくないって言われたら?

 もしイアスがいいって言ったら…でも彼女なら立派な王妃になれるかも…

 レオナルドに拒絶されたらわたしは身を引くしかないじゃない。

 どうしてわたしって、こんなに自分に自信が持てないのかしら…だってレオナルドはすごくイケメンで国王でこれからは欲しいものは何でも手に入るのよ。聖女じゃなくなったわたしなんか、何の価値もないかも知れない。

 でも、お腹の子供は絶対に渡さないから…


 レオナルドはテーブルのお茶を飲んでいるとドアがノックされた。

 「レオナルド国王陛下おはようございます」ジャミルが入って来た。

 「おはようございますジャミル宰相。わたしの事はもっと簡素に呼んでくっれないか?」

 「はい。では陛下と、昨日はゆっくり休んでいただけましたか?今日から忙しくなりますので、朝食もしっかりお召し上がりください」

 「ああ、それで、どのような手はずで?」

 「はい、書簡は昨夜早馬で送りましたので、今朝議会の招集をしまして早速イエルク国王の退任とレオナルド・ヴェルデックを国王と認めることを閣議で承認しました。よって陛下が国の代表と言うことで付き添いの警護と一緒に馬でプリンツ王国に行っていただきたく思います」

 「いきなりか?」

 「もちろんです陛下。きちんとした手はずと整えて国王として行っていただくのが筋というものです。プリンツ王国も国王自らおこしとあれば話し合いもスムーズにいくはずです」


 「そうだなジャミル。それで、瑠衣は?わたしは一緒に行こうと思っていたのだが」

 「聖女様は女性です。馬で2日、それもかなりのスピードですので…馬車で行かれた方が楽なのではと思いますが…」

 「ジャミル、昨日わたしが瑠衣と一緒に行くと言った時反対しなかったじゃないか。また、わたしを騙すつもりじゃないのか?」

 「とんでもありません。昨日はあなたが国王にならないと言われたから仕方なく…もう国王になられた以上あなた様を騙すようなことは絶対にありません」

 「では瑠衣が先に出発するのを見送る。瑠衣には絶対に安心できる手練れを付けてくれるんだろうな?」

 「もちろんです。レオナルド国王も失うわけにはいきませんし、聖女様も同じです。おふたりとも我が国にとってはなくてはならない人なんですから」

 「では、瑠衣が出発してからわたしは出発するからな。それで手はずは?」


 ジャミルは食料の備蓄の寮やどれくらいプリンツ王国に援助できるかなどをいろいろ考えていた。それにアディドラ国に必要な石炭量や鉄鉱石、布を織る機会もあれば助かるし、その技術者にも来てもらいたい。などなど、色々助け合えることがあった。

 これだけあればお互いの国の行き来も頻繁になるだろう。そのためにも獣人と人間との間の格差がないようにしなければ、レオナルドは獣人が人間と同じ扱いを受けるように話をしようと決めていた。そうなれば互いの国で働けるようにもなる。アディドラの獣人もプリンツ王国に働きに行くこともできるようになる。農業が出来ない冬の間はプリンツ王国に出稼ぎに行くことだってできるようになる。プリンツ王国も獣人を使えば力仕事がはかどることにもなる。


 「ではジャミル宰相、1時間後に出発でいいですか?わたしは瑠衣を見送った後、すぐに馬でプリンツ王国に向かう事にする」

 「はい、すぐに準備にかかります。陛下。警護は5人ほど付ける予定ですがもっと多い方がいいでしょうか?」

 「そんなに多くてはプリンツ王国に警戒される。3人だ。それ以上はいらん。但し瑠衣には6人以上は付けてくれ」

 「はい、もちろんです。ロンダ近衛兵隊長をお供に付けます」

 「ロンダか、いいだろう」

 レオナルドはロンダの腕を知っている。彼なら冷静で安心できるだろう。



 瑠衣がシャワーから出てくると、昨日の着ていたドレスが置かれていた。それを着るとリビングに行った。

 ドレス姿の瑠衣を見たとたんレオナルドの顔が、とろっと甘い顔に乱れる。イケメンのとろけた顔を見て瑠衣はまた体が火照った。

 もう嫌だ…レオナルドったら…なによ。尻尾をぶんぶん振って…

 「瑠衣、すごくきれいだ。体の調子はどう?」

 レオナルドは瑠衣を抱きかかえるように腰を抱く。唇は耳元を行ったり来たりしながらわたしに吐息を吹きかけてくる。

 「ええ、もうすっかり元に戻ったから」

 「こんな姿を見去られたら我慢できなくなるじゃないか…瑠衣…ちゅっ!」

 突然唇に吸い付く彼はもう爆発しそうな勢いで…

 「もう、レオナルドったら、誰か入って来たらどうするのよ…」
 

 突然我に返ったレオナルド。耳をしゅんと折り曲げ大人しく椅子に座る。

 「それで赤ちゃんはどうだ?」

 「うふっ、レオナルドったら、気が早すぎ。だって本当なら妊娠に気づくのは2か月くらい先だもの。まだ、何も変化はないから大丈夫よ」

 「そうか、でも気を付けないとな。今は無理しないように…それでジャミルが瑠衣は馬車で行く方がいいと言ったんだ…‥でもきっと無理だよな。俺もそう思うんだから‥‥瑠衣は後から馬車でゆっくりプリンツ王国に来てくれ。護衛にはロンダ隊長を頼んだから安心だろう」

 「そうなの、あなたと一緒じゃないのね…」瑠衣はがっかりした。

 「瑠衣、さみしい?」

 「もちろんよ。でもあなたは国王になったからそんな事言えないわよね」

 レオナルドはたまらずまた唇を奪う。猛りを瑠衣のドレスにこすりつけ激しい絡み合いがしばらく続いた。

 「レオナルドったら…」

 瑠衣の唇ははれぼったくなって明らかに‥‥

 「構うもんか!俺はいつでも瑠衣といたいんだから…プリンツ王国から帰ったらもうずっと一緒だからな」

 一緒か…瑠衣はまた気が重くなる。

 「ねぇ、レオナルド…もしわたしが…」

 レオナルドの瞳はどこまでも優しく、ああ‥‥彼のすべてが愛しいのに…



 
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