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しおりを挟む「ですが、国王は病に伏しておりまして」
ルカディウスが申し訳なさそうな顔をする。
「ええ、そう伺っておりますが、せめてお見舞いがてらお顔を見せていただくわけにはいきませんか?我が国としましては、プリンツ王国とは是非とも友好的な取引をさせて頂きたいと思っておりますので、お見舞いをさせていただきたく存じますが…」
レオナルドは彼の態度に違和感を感じた。
ルカディウスは渋い顔をしたが、レオナルドがあまりに言うので…
「そうですか。陛下も喜ばれます。お疲れのところ申し訳ございません」
「いえ、こちらこそご無理を言って申し訳ありません」
「では、1時間後でどうでしょうか?陛下に会われた後お食事でよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。では1時間後に」
レオナルドたちは宮殿に入って行く。部屋に通されてレオナルドはシャワーを浴びて支度をした。
彼は貴族の礼装であるフリル付きのシャツにウエストコートにトラウザーといういで立ちになった。
その頃瑠衣たちは、プリンツ王国に入って少しのところだった。今夜はプリンツ王国の街ローテで宿をとることになっていた。明日の午後過ぎにはロペに入れる予定だ。
「さあ、瑠衣さん今夜はここで宿を取りますので。ゆっくりしてください」
ロンダが馬車から瑠衣が降りるのに手を取ってくれた。
「ロンダさんありがとうございます。それにしてもイアスさんの病気がよくなって本当に良かったです」
宿に向かいながら話をする。
「ええ、瑠衣さんのおかげです。イアスは本当に元気になって今は看護の学校に通っているんです。病気の人の役に立ちたいとかで」
ロンダは嬉しそうに話す。
「あの…それで…聞きにくいんですけど、レオナルドの事はどうするおつもりで?」
「えっ?どうするって瑠衣さんとレオナルド、いえ、陛下はご結婚されるんですよね?瑠衣さんはおめでたと聞きましたが」
「ええ…もうそんなことが知れてるんですね…恥ずかしいわ」
「恥ずかしいなんて、おめでたい事ですから、もちろんイアスもお二人の事を喜んでいます。瑠衣さんなら喜んで祝福するって言ってますよ。安心して下さい。イアスはすっかり元気になりました。あなたのおかげです」
「そうですか。良かったです。あの…ロンダさん?もし…もしもわたしが力を失ったらどう思います?」
「力って?あの病気を治す力の事ですか?…‥いや、瑠衣さん冗談はやめてくださいよ。そんなことあるはずないじゃないですか。だって私は目の前で見たんですから、あなたの力は本物だって信じてますよ」
「ええ…ありがとうございます」
瑠衣はそれ以上何も言えなくなった。みんながわたしに期待している。その期待に応えられなかったらどうなるのだろう?
重い空気が瑠衣の心をまた暗くした。
ああ…わたしはどうすればいいの?
その夜宿に泊まっていた瑠衣は、うっかりお風呂で転んでしまう。
「いたっ!‥‥もう、転ぶなんて…」
瑠衣は自分でしたこととは言え、痛みに涙が出た。
立ち上がろうとして足首の痛みにまた転びそうになる。
いやだ…足首をひねったみたい。もう明日はロペに着くのに…
瑠衣は、何とかひとりで風呂を出て部屋に戻ると、ベッドに腰かけて足首を見た。
かなり腫れてきた見たい…
誰かを呼んで、貼り薬でも持ってきてもらおうか…待って、もしかしてまじないが効くかもしれないじゃない。女神はあんな事を言ったけど、ひょっとしたら…
瑠衣は手を足首にかざしてまじないを唱え始めた。
「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」
しばらくして足首を動かしてみる。
「いたっ!…」やっぱ無理じゃない。ううん、もう一度‥‥
「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」
今度は数分間まじないをし続けた。
だが、足首の腫れも痛みも全く治っていなかった。
やっぱり女神様の言った通りなんだ。
瑠衣はどうしようもなく落ち込んだ。この先レオナルドとわたしはどうなるんだろう?
その夜、瑠衣はこれからの事を考えて泣いてばかりいた。
翌朝、瑠衣は目覚めるとまだ足首は痛かったが、少し腫れはひいていた。
足首に細い紐をきつく巻き付けると顔を洗いに洗面台に行った。
顔を見て驚いた。目が腫れてひどい顔になっている。完全に泣き過ぎた。
ロンダが迎えに来た時瑠衣は顔に布を巻き付けていた。
「おはようございます瑠衣さん。昨夜は良くお休みになられましたか?」
「ええ、それが…」
ロンダが目を見て驚く。
「どうしたんですか?その目は…」
「ロンダさん…もう誰にも言わないでよ。レオナルドの事を思っていたら、どんどん心配になってそれで泣いてしまったの…」
瑠衣は何度も言い訳を考えた。だが、目を隠すことは無理だった。もう仕方がないわよ。泣いた事を話してもこれくらいならいいだろう。まじないが効かなかったことがばれてしまうよりましよ。
「ああ…なんて可愛い人だ。瑠衣さんは…レオナルドが羨ましいですよ。そう言うことならみんなに見られないうちに馬車に乗りましょうか」
ロンダが気を利かしてくれて、瑠衣を抱き上げた。
「ちょっと…ロンダさんやり過ぎですから…」
瑠衣は困ったが、脚が痛くて困っていたので助かった。
馬車にに揺られながらレオナルドに何と説明しようかと考える。
でも、着いたらすぐに彼にまじないが効かなくなったことを話そう。これ以上黙っているときっと困った事になる気がした。
その頃レオナルドは、国王に会うために部屋を訪れていた。もちろん護衛など付けていない。相手を信用させるためだ。
トラブロス国王は50歳過ぎの男で、身長もあり体つきもいい方だった。だが、この食糧難で国中が混乱していくうちに、色々な気苦労があったためか心の臓を悪くしてからというもの体力は衰え、体は痩せて目はくぼみ、あれほど勢力的で輝いていた黒く大きかった瞳はみる影もなくなっていた。
医者はゆっくり静養すれば治るとは言うが、いきなり起きる心臓の発作は、胸を締め付けもがくような苦しみで、トラブウロスはいつ死ぬかもしれないと怯えていた。
ルカディウスが国王の部屋をノックした。
「国王、アディドラ国の国王陛下がお見えになり、ぜひご挨拶をと申されまして、お連れしました」
トラブロスは、この国の伝統的な青色の長衣を着ていた。
「入っていただいてくれ」
「はい、失礼します。陛下お加減は?」ルカディウスが国王に聞いた。
「問題ない。さあ、どうぞレオナルド国王陛下。わたしがこの国の王トラブロス・アーベンだ。ようこそプリンツに来てくださいました。心からお礼を申し上げる」
トラブロスは自ら前に進み出てレオナルドと握手を交わす。
「わたしはアディドラ国の国王になりましたレオナルド・ヴェルデックと申します。どうか国王陛下よろしくお願いします。この度は突然のご訪問どうかお許しを、ですが、どうしてもご挨拶申し上げたく思いこんな時間に失礼しました」
トラブロスはリビングルームのソファーに腰かけるよう促す。
ふたりは向かい合わせにソファーに座るとルカディウスが飲み物を持ってくるように使用人に言う。
ふたりの間に緊張感が漂っている。
レオナルドは、顔色も悪くやせ細ったトラブロスに、うまく話が出来るかと少し不安になったが、国王に警戒されてはまずいと笑みを絶やさず、少し体を丸めるような姿勢を取った。
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