悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる

文字の大きさ
22 / 45

22セルカークの独り言

しおりを挟む

  セルカークは騒ぎ立てて近衛兵に連れ出されて法務院の一部屋に連れて行かれここで待つように言われた。

 まあ、牢に入れられなかっただけでも良かったとしなければ吐息をついた。

 珍しく自制心を失い声を荒げたがそれも無理はないと苦笑した。


 それからセルカークはミモザと初めて会った時の事を思い出していた。

 ミモザはいきなり階段から脚を踏み外して慌ててその腕を掴んだ。思わず自分も落ちそうになって必死で脚を踏ん張ったな。

 あの時は天使が舞い降りて来たのかって思った。

 「ふっ」ばかみたいだ。

 キラキラ輝く髪の上には天使のわっかがあるんじゃないかって。

 瞳は吸い込まれそうな碧で、思わず見惚れた。

 この俺が…あり得ないだろう。ずっと心を閉ざして来た。

 あれからずっと…俺にはそんな資格はないってわかってる。

 おかしな気分になったのを立て直して彼女の手当てをした。

 軽い捻挫だと分かってホッとしたのも束の間だった。

 それに彼女があのキャメリオット公爵家の人間だと知って驚いたが、さらに夫が迎えに来てひどい態度で彼女を連れ帰るのを見て驚いたって言うか気分が悪かった。

 女性にあんな扱いをするなんてあの夫はどうなってるんだ!って怒りさえ覚えた。

 そんなことがあったからかもしれないが…

 翌日どうしようかと思いながらもやっぱり気になって眼鏡を届けた。

 するとひどい目にあっていると言って助けを求めて来られた。

 俺は戸惑った。そりゃそうだろう。

 でも、そんな彼女を放っておけるはずがなくて診療所に連れて帰るとさらに驚くことが待っていた。


 クリスト・キャメリオット。いやキャメリオット公爵家はかなり世渡りのうまい貴族として名を馳せていた。

 6年前この国で疫病が流行った時の事だ。

 それは5日病と呼ばれた。咳が出始めすぐに胸を患い高い熱が出て5日ほどで亡くなる恐ろしい病だった。

 感染力はすさまじくあっという間に国中に広がった。

 王都はもちろんあちこちの領地で治療や薬を求めて人々が診療所や薬屋に殺到した。

 そこでキャメリオット家が製造していた咳止め薬が5日病に効果があるとわかりあちこちから注文が入った。

 キャメリオット家はまず自分の領地の人間と王家の為にその薬を確保した。

 それから貴族の中でもキャメリオット公爵家の派閥に入ると言った貴族に優先して薬を売った。

 そしてキャメリオット公爵家の人気を上げるために王都のある教会や診療所にも無料で薬をくばった。

 ちょうどその頃、宰相をしていたブラント・パシレオス公爵が高齢のため退任することになっていて次の宰相の候補にパシレオス公爵家の嫡男のレオンの名とクリスト・キャメリオットの名前が挙がっていた。

 それが関係あったどうかは今もはっきりとはわからないが、パシレオス公爵家関係の貴族や領地には薬が届くのがかなり時間がかかった。

 当時のキャメリオット公爵家に言わせれば、国内や国外からの原料が手に入らず生産が追い付かず申し訳ないと国王に申し出ていた。

 そのせいでパシレオス公爵家や我がペルサキス様の父や母、使用人、領地の人間。それにシルヴィの実家のペルヘルム子爵家のご両親も亡くなった。

 そしてクリスト・キャメリオットが宰相に収まったのは言うまでもなかった。


 それからも兄が父の跡を継いで国防院の最高司令官になるときもかなり横やりが入ったと聞いたし、法務院にもキャメリオット公爵家に関わりのある人事が行われていると聞く。

 それは国内の薬草や薬剤のほとんどがキャメリオット公爵家に委ねられているからだろう。

 キャメリオット公爵家のご機嫌を損なえば病気や怪我をした時治療を受けれなくなる可能性があるのだ。

 誰もそんなリスクを冒したくはないだろう。

 皆があいつに媚び諂う。言いなりになっている事にクソ面白くないと思っていた。


 それをどうだ?

 ミモザは女のくせに正々堂々とあいつを論破した。

 国王にだって言い返して、俺がつい声を荒げて彼女を応援したくなっても無理はない。

 気づいたら自分で自分の弱点を晒していた。

 ミモザは俺が不能だと知ってどう思っただろう。

 いや、それがどうして気になる?

 俺はシルヴィを赤ん坊を死に追いやった非道な人間なんだ。

 女性に対して好意を抱いたりすることは決して許される事ではない。

 それははっきりわかってるだろう。

 セルカークは胸に沸き上がる思いに戸惑いそんな思いに蓋をした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?

gacchi(がっち)
恋愛
名ばかり公爵令嬢のアリーは生贄になるために王宮で育てられていた。そのことはアリーには秘密で。ずっと周りに従順になるように育てられていたアリーだが、魔術で誓わされそうになり初めて反発した。「この国に心も身体もすべて捧げると誓いますね?」「いいえ、誓いません!」 たまたまそれを見ていた竜王の側近ラディに助けられ、竜王国に働きに行くことに。 アリーは名前をリディに変え、竜王国で魔術師として働く予定だったが、どうやら普通の人ではなかったようで?

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。

恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。 そして、屋敷から出ると決め 計画を実行したら 皮肉にも失敗しそうになっていた。 そんな時彼に出会い。 王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす! と、そんな時に聖騎士が来た

処理中です...