悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる

文字の大きさ
23 / 45

23こんなはずじゃぁ

しおりを挟む

 
 ミモザとセルカークは診療所に戻って来た。

 朝が早かったせいで昼になったばかりだった。

 午後からは診療をするのでセルカークはせわしげに来ていたコートを脱ぎながらミモザに話をする。

 「残念だったミモザさん。元気出せよ。それで、これからどうするつもりだ?」

 「そうですね。先生にはほんとにお世話になりっぱなしで心からお礼を言います。でも、いつまでもくよくよしても仕方ありませんから、一から出直します。平民ですのでまず住まいと仕事を探さなくてはいけませんね。明日にでも住むところを探してここを出て行きますのでご心配なく」

 (だって、部屋はシルヴィの時に住んでいた家だし、いくら模様替えしてあるとはいえやっぱり嫌な事を思い出したりするのよ。確かにセルカークはあの頃とは変わったのかもしれない。でも、だからってシルヴィにした仕打ちがなくなるわけでもないんだから…まあ、彼は私がシルヴィの生まれ変わりだって気づいてもないでしょうし、それに怪我の事だって考えてみればどうせ女ともめたかなにかに違いないもの。まあ、今さら彼を責めるつもりもないけれど…)

 と思っているとセルカークが心配したらしい。


 「いや、若い女性の独り住まいは危険だろう。俺はここに住んでもらっても構わない。部屋は空いているしここで仕事を続けてもらっていいと思っている。もちろん君が良ければの話だが…どうだろう?」

 ミモザがはっと目を開く。

 「でも…そんな事は出来ません。それにあの男からおかしな勘繰りをされて先生すごく気分を害されたんじゃないんですか?本当にすみません。お世話になっておきながらあんなひどい事を…」

 (言いたくもなかったことを告白までして頂いて…)


 セルカークは慌ててそれを否定する。

 「そんな事ちっとも怒ってないさ。むしろミモザさんこそ嫌な思いをして辛かっただろう。すまん。君は疲れているのにこんな話をして、いいから今日はもう休んだ方がいい。ゆっくり風呂にでも入って…そうだ。夕食は一緒に食べに行かないか?」

 「ええ、でも先生は今から仕事をされるんでしょう?先生こそお疲れじゃないんですか?私もお手伝いしますから…そうだ。お昼を作ります。少し待っていてください」

 (まあ、この話はきちんと住むところが見つかってからにしよう…さあ、それよりご飯の用意をしなくちゃ!)

 ミモザは貧乏子爵家の出身なので、身の回りの事は幼いころからやって来た。使用人は最低限だったので食事の手伝いや掃除、洗濯なども出来る。

 父親は男は仕事があると全く家事を手伝うこともなかったのでミモザは母の手伝いを早くからするようになったのだ。


 ミモザはキッチンに行くとすぐに小麦粉でパンケーキを焼く。

 そうしながら鍋を火にかけて野菜のくずやベーコンの切れ端を切ってスープを作り香りづけにスターアニスをいれる。

 他にも肉を細かくしてこねて丸めて焼いてトマトソースで煮込む。仕上げに肉の上にチーズをのせる。

 いやなことを忘れようとミモザは一生懸命昼食作りに集中した。

 手早く出来て安上がりな昼食が出来ていく。

 ワンプレートにして盛り付けると見栄えも豪華で片付けも楽なのでミモザは子爵家にいた頃も良くこうやって昼食を作った。

 「先生。お昼にしませんか?」

 診察室の扉を叩いてセルカークに声をかけるとダイニングに戻ってスープを皿に注ぎ始めた。

 「もう出来たのか?早いな」

 セルカークは驚いたようで診察室から出てダイニングに入って来た。

 「何だかいい匂いだな」

 「スターアニスのスープですよ。疲れた時にいいんです。お口に合うかわかりませんが…」

 ミモザは少し照れ臭そうに言う。

 セルカークはスープの匂いを嗅ぐとその液体をスプーンで口に運ぶ。

 「ごくり。…うん、旨い。これは塩気と甘みが絶妙に相まっていくらでも飲めそうだな」

 彼はほんとに美味しそうにスプーンでスープを掬い何度も口に運んでいた。

 「気に入ってもらえてよかったです。さあ、パンケーキや煮込み肉もどうぞ」

 「パンケーキなんて何年ぶりかな…それにトマト煮込みか。これはうまそうだ。女性が作るとこうも美味しそうに作れるとは…まったく。参ったな」

 セルカークは嬉しそうに美味しそうにパクパク食べる。

 「ミモザさんも食べないと、俺が全部食べてしまうぞ」

 「ええ、張り切って作ったらお腹がすきました。うん、意外と美味しいですね。このスープ」

 自分で作っておきながらスープが美味しいって言うなんておかしい。と思いながらも楽しい食事をした。


 「片づけは俺が…」

 「いいえ、先生は仕事があるんです。これは私の仕事ですよ」

 皿を取り合いながらセルカークと楽しい会話が弾む。

 セルカークが診療室に戻って行くとひとりきりになって、あっ!と思った。

 (私ったらあんなに彼の事憎いって思ってたのに…彼に気を許すなんてどうかしてる。

 でも、今日はうれしかったな。何度も彼は私を助けてくれた。最後には自分の言いたくない身体の事まで暴露して。

 そこまでしてくれる男の人なんて初めてかもね。

 だからこんなに胸の奥がくすぐったくなるのかな?

 何だか私、彼が好きになりそうかも…

 ううん、冗談じゃないわ。彼は憎むべき相手で好意を抱く相手じゃないのに。

 私ったらほんと、どうかしてるわ。やっぱり相当疲れてるんだ)

 ミモザは手伝うつもりだったが、少し休むことにした。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾
恋愛
「魔法の無駄遣いだ」 そう言われて婚約を破棄され、南方の辺境へ追放された元・聖女エオリア。 けれど本人は、まったく気にしていなかった。 暑いならエアコン魔法を使えばいい。 甘いものが食べたいなら、全自動チョコレート製造魔法を組めばいい。 一つをゆっくり味わっている間に、なぜか大量にできてしまうけれど―― 余った分は、捨てずに売ればいいだけの話。 働く気はない。 評価されても困る。 世界を変えるつもりもない。 彼女が望むのは、ただひとつ。 自分が快適に、美味しいものを食べて暮らすこと。 その結果―― 勝手に広まるスイーツブーム。 静かに進む元婚約者の没落。 評価だけが上がっていく謎の現象。 それでもエオリアは今日も通常運転。 「魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ」 頑張らない。 反省しない。 成長もしない。 それでも最後まで勝ち続ける、 アルファポリス女子読者向け“怠惰ざまぁ”スイーツファンタジー。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

契約結婚のススメ

文月 蓮
恋愛
 研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

処理中です...