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第一章 転移、そして自立
第四十二話 活動方針の決定
しおりを挟む観音寺でいつも世話になっている寺を朝に発って八風峠に向かった。
今回は、目的が拠点作りの為、帰りは観音寺で余計な商品は買わずに持ち帰る荷は空であった。
なので、帰りは順調すぎるくらい順調で、峠にある我らの茶屋にはまだ日も高いうちに着いた。
峠の茶屋よりやや奥に入った所にある泉の周りでは、まだ珊さん達が作業をしていた。
「珊さん、お疲れ様です。
どんな感じですか」
「あ、空さん。
おかえりなさい。
今日の昼過ぎに、一軒できました。
今は、二軒目の土台を作っています」
「まだ、暫くは掛かりますね」
「え~、ここの整備だけでももうしばらくは掛かります。
でも、明日は一緒に村に戻りますよ。
材料が、無くなってしまいました」
「三和土の材料ですか。
そうですね、打ち合わせした内容ですと、かなりの量が使われますからね。
一度、きちんと計画を立てましょう。
また三蔵の衆総出での対応が必要になりそうですからね」
「我々も今日は終わります。
空さんは先に宿に戻ってください。
ここを片したら、我々も戻りますから」
その後は、珊さん達が戻ってきた後、夕食を摂り、明日に備えた。
明朝、早くには、ここを利用している商人たちで茶屋付近がごった返すので、我々は、ゆっくり朝食をとった後に茶屋を後にした。
この日も帰りの行程は順調で、日も高いうちに三蔵村に着いた。
帰ったことを早速留守番をして貰った玄奘様に報告し、峠の課題について簡単に玄奘様を交えて珊さんと張さんとで話し合った。
明日、藤林様が戻ったら、村方全員を集めて改めて話し合いをすることにしているが、自分の考えをまとめて、草案だけでも作っておきたかったので、雑談ついでに話し込んでいた。
そろそろ夕食の時間になろうかという頃になって、藤林様が戻ってこられた。
本当にほぼ一緒に戻ってきたことになる。
さすがは忍者だ。
移動が速い。
藤林様は、戻ってきて早々に新たな拠点となる店の確保ができたことを報告してくれた。
市には面しているが、最も奥に位置する場所に売りに出されていた店舗を比較的安く購入できたそうだ。
藤林様が話してくれたことには、造りは割としっかりした、そこそこの大きさの店であるが、建てられてから時間がたっており、そのまま利用するには厳しそうだ。
手を入れなければ店として使えなさそうだということだ。
内容的には、掃除の必要は言うに及ばず、壁などの漆喰は塗り直し、板の間は一部は張替が必要だということだ。
屋根については、念のために杉の皮などでの吹き替えはした方が良さそうだと教えてくれた。
地元の人に任せても良いが、かなりの経費が掛かるとのことで、これらは自分たちでやった方が良さそうだ。
なので、当面の課題は観音寺での店の改築と峠の部落の整備、それが済んだ後に茶店の増築と、付近の街道の整備だ。
これらはとても片手間ではできそうにない。
炭、塩、干物作りには人数を絞り、必要最低限でやってもらい、門前での商いも幸代さん夫婦に数人付けた位に絞り、人手を確保しなければならない。
与作さんのところの材木作りは一時凍結して、与作さんの組に観音寺での改築をお願いしよう。
漆喰は買うしかなさそうだが、三和土は浜で作るしかない。
それも、かなりの量が必要だ。
当分は手すきの人間に作って貰うしかなさそうだ。
子供達には畑の収穫を急がせて、それらの手伝いをお願いすることで、どうにかなりそうだった。
明日の朝にでも村方を集めて相談することになった。
明朝、早速村方に集まってもらい、話し合いがもたれ、俺の草案に沿って検討し、ほぼそのまま了承を得た。
俺は、観音寺に拠点ができる事で、常駐を置くことにして、その代表を茂助さんにお願いした。
商いの拠点のために計算の得意な、張さんの2番弟子のお涼さんにも茂助さんと一緒に観音寺で商いをして貰う事に成った。
茂助さんが言うには「自分は商いなどできない」というのだからしょうがない。
ついでに比較的よくできる子供達(と言っても13~5歳のすぐに大人になる世代の連中)も4人ばかり付けて共同で観音寺での生活をして貰う事に成った。
観音寺での店には藤林様の配下の忍者もついて貰える事に成ったので、安心して任せられる。
もし何かあればすべてを捨てても、ここに逃げ帰ってくればよく、茂助さんやお涼さんには、何度も話しておいた。
無くしたお金はまた稼げばよく、命だけは絶対に守ってほしいと、何もかも捨ててもいいから、危険が及びそうに成ったら、一目散に逃げてほしいとそれこそしつこいくらいにお願いをしておいた。
最後にはみんな笑っていたが、送り出す俺の方が一番心配していた。
今後については、新たにここにやってくる藤林様の御仲間に荷を運んでもらうようになった。
そこで、俺は、藤林様に聞いてみた。
「藤林様、荷運びの件はお任せしてもよろしいでしょうか」
「空殿、もちろんそれくらいは我々に任せてほしい。
大丈夫だ。
頑丈な連中ならたくさんいるから」
「ちょっと考えたのですが、藤林様の方で、いっそのこと馬借をやりませんか」
「馬借とな、となると馬が入用になるな」
「そのことなのですが、藤林様は、堺に伝手はありませんか」
「馬の入手を堺でと考えているのか。
堺には、手に入らないものは無いそうだが、馬などはかえって銭がかかるぞ。
それこそ、飛騨辺りまで出向けば手に入らないこともなさそうだが、馬は色々と制約がつきそうで面倒になるぞ」
「いえ、馬が欲しいわけではありません。
お隣の明国に『ロバ』という動物がいるそうなのです。
このロバは荷運びに活躍しているとかで、我々はこのロバを手に入れたいのです。
堺辺りだと明国と貿易している商人が沢山いるとか。
その商人に伝手があれば二組の番を買いたいのです。
同時に家畜として飼われている『ヤギ』も明国では当たり前に沢山いるそうだから一緒に買いたいのですが、どうにかなりませんか」
「う~~む。
相分かった。
色々と伝手を当たってみよう。
それらが入手出来たら、馬借の件を考えれば良いな」
「そうですね。先を急いでもしょうがないですから、それらを手に入れてから考えましょう。
当分は峠と観音寺での建材の運搬をお願いします」
「うむ、そうしよう。
荷運びは手の者に任せてくれ。
それに、各地に散らばった仲間を集めているが、本当に全員を集めてもいいのだな」
「はい、峠は完全に藤林様の御仲間にお任せしますし、三蔵寺の門前にも部落を作ります。
この門前の部落の長を藤林様にお願いします」
「え?いいのか」
「はい、当分はお仲間しか住まないとは思いますが、おいおいに他の出身の方も住まわせていきますが、それでよろしいでしょうか」
「それは構わん。
どうせ、方針決定は此処で今のようにして決まっていくだろう。
せいぜい世話役として頑張るとしよう」
「お仲間の方たちの統括も合わせて頼みます。
各地の情報の収集は我々が生き残るための重要な戦力です。
その長は藤林様しかおりません。
頼りにしております」
「空殿にそこまで信頼されているとなると心が引き締まる思いだ。
精一杯頑張ることをお約束しよう」
「ありがとうございます。
とりあえずは、今の願証寺の門前での商いが主力です。
ここは今まで通り任せておいて、他の者は村を挙げて協力して茶屋と観音寺での店作りをしていきます。
できれば、秋口までには目途だけでも付けたいです。
本格的な稼働は来年の春になるかもしれませんが、冬前には商いをしていきますので、それまでは全力で頑張りましょう。
私と張さんは今回のように観音寺での行商を店ができるまで続けていきましょう。
早速準備にかかってください。
よろしくお願いします」
「「「はい」」」 と言って村方の会合を解散させた。
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