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第一章 転移、そして自立
第四十三話 伊勢屋
しおりを挟む「「「乾杯」」」
9月も半ばになってやっと観音寺に用意した店が開店できるまでに改装が終わった。
なので、関係者を店に集め明日の開店を前に前祝をする事に成った。
店の改装にあたってくれた与作さんのところの組のみんなや、この店をやりくりすることになる茂助さんとお涼さん、それにいつものメンバーの俺と張さん、珊さん、なぜかついてくる葵と幸、と、藤林様のところのメンバーが集まっての祝いとなった。
明日以降は此処の常駐メンバーに商いを任せ、俺らは村に戻ることにした。
俺もだいぶここの開店に合わせて村を開けがちになってきており、村の様子が心配になっているのも事実だ。
「ところで、空殿、この店の名前は何とするのだ。
まだ聞かせて貰っていなかったはずだが。」
しまった。
まだ名前を考えていなかった。
そういえば今まで商っていたのは皆行商だったので、屋号など無くとも何ら問題はなかったのだが、流石に店を構えたのならば屋号が必要になった。
俺は、ネーミングのセンスは全くないのに困ったぞ。
村の名前を考える時にも困ってやけになって付けたのが三蔵だった。
いっそ天竺とでもするか。
………
さすがにまずかろう。
少し学のある人ならば外国の名前と直ぐに判る。
う~~~~む。
「伊勢の産物を扱うので、『伊勢屋』でいいんでないの。」
何気にこぼした一言に周りが一斉に反応した。
「「伊勢屋か、いい名前だな。」」
「伊勢屋って素敵な名前ですね。
それに何を扱っているのか分り易いですし、空さん。
いい名前です。
気に入りました。」
などと、ほとんどいい加減に付けた名前だが、評判が良かったのでそのまま屋号となった。
「で、明日から何を売るんだ。」
「一応、今まで何度も往復をして、焼き物と塩は沢山運んだから、当分は売り物に困らないとは思うが、最低でも7日に一度は此処と村との往復便は出すことにするよ。
なので、今日運んできた干物は売り切れても翌週には店先に並べられるので、多分主力は干物になると思う。」
「そうだな、前回の商いでも干物はすぐに売れたくらいの人気商品だったな。
それに、ここでは門前より高値で売れるので、実入りも大きいし、当分は干物で稼いでくれ。」
などとみんなで騒ぎ、翌朝には開店の手伝いに商品を店先に並べる手伝いをした後、常駐メンバーを残して村に引き上げていった。
2日をかけて村に帰ると子供たちが出迎えてくれたが、最近全然相手をしていなかったので、ご機嫌の悪い子供たちがちらほらいたのが何だかほっとした。
彼らも、戦乱から逃げ惑う生活が終わって心に落ち着きが出てきたのだろう。
子供らしいしぐさが現れてきたのは良い兆候だと思う。
これからの商品の運搬は伊賀から来た人たちが行ってくれる事になっているが、当分は最低でも俺が月一で通わなければならないな。
そういえば、大和の本多様のところと願証寺の上人様のところにも同様に月一で通う約束をしていたし、当分は忙しい事に成りそうだ。
どんどん任せられることは人に任せていかないとその内身動きができなくなりそうだ。
唯一の救いは、最近玄奘様がこの寺にいて下さる時間が多くなったことだ。
なので、村方の大人衆を引き連れてどこかに移動しても子供だけでないために安心ができる。
早く、上人様がここの住職として来て下さると、村の事を全部任せられるのにと身勝手なことを考えていた。
どちらにしても、ここも大きくなってきたので、どんどん人に任せていこう。
「珊さん、そろそろ珊さんの仕事を誰かに任せられませんかね。
いつまでも峠に入りびたりだと、正直、俺が困ることになりそうなのだけれど。」
「俺の仕事って、峠の整備関係か?」
「そうそう、それなのだけれど。
道の整備までやることになったでしょ。
そうなると1年やそこらではできそうにないから、誰かに任せて専門的にやってもらいたい。」
「なら、六輔辺りが適任かな。
彼なら、仕事はしっかり覚えたから大丈夫だと思うよ。」
「なら、彼にここから林の部落までの道の舗装を任せてみるよ。
大丈夫なら、峠に常駐してもらい、峠関係の仕事を一任しよう。
それで大丈夫かな。」
「それなら安心だ。
早速手配します。」
三和土を使って道を舗装してみる仕事を六輔さんに任せて、多分この日の本で最初の舗装道路を作ることにした。
仕事の前に六輔さんに道を平らにすると雨の日に滑るので、一定の間隔で道に小さな溝を掘ってもらうようにお願いしたら、道に三和土を盛った後に大きめの網を持ってきて乾いていない三和土の上に乗せ、縄文模様よろしく網目を道につけていた。
その発想力は素晴らしく、彼に道の舗装関係の仕事はすべて任せることにした。
そんなこんなで、久しぶりに長い時間村で過ごしていた。
完全に忘れていたが、寺の中に作った畑でとれた芋を子供たちが持ってきてくれた。
種芋から最初の収穫であるために主食を賄えるくらいには収穫はできなかったが、それでもかなりの量は収穫ができていた。
来年以降は、これらを使ってかなりの収穫が望めそうだ。
そろそろ農業にも力を入れていくか。
今我々の中で一番芋の生産に詳しいのが、ここにいる子供達だけなので、農業を任せるには子供になってしまう。
でも、俺がかかりきりにはできないし、真剣に考えていかなければ芋の生産も潰えてしまう。
成り行きに任せて全力で後先を考えずに行ってきたことのツケが早くも出てきた。
一挙に手を広げすぎた。
たまたま集まってきた人たちが優秀だったために、どうにかなったのだが、一旦落ち着いて整理をしないとならなくなってきている。
幸い農業は今年は終わりになる。
来年の春までに体制を整えれば大丈夫なので時間はとれる。
そうなると、近々で問題となるのは干物の増産だ。
観音寺の伊勢屋での売れ行き次第だが、増産の必要性が出てきている。
しかし、生産の方はなかなか増産できるわけじゃない。
第一肝心の魚の入手が今でも一杯いっぱいなのだ。
隣の部落には既にかなりの無理を言って魚を回してもらっているので、これ以上は自分たちで漁をしなければならない。
最初から隣の部落に魚の手配を任せることができて幸運だった。
でないと最初から漁をしなければならなく、以前に作った仕掛けでは収量も微々たるもので、とても干物の商売をする分は作れなかっただろう。
でも、それもそろそろ限界にきている。
今年いっぱいはできた分だけ売っていくことにしか対応はできそうにない。
門前での販売を少しづつ減らしていこう。
もともと商材の実験で始めたことなので、もめることのないように徐々に減らしていくしかないな。
この後は、色々と成長してきたための歪みの修正で時間を取られそうだ。
この三蔵の衆はどうなっていくんだろう。
我々が力を付けていけばいくほどあちこちに歪みが生じてきているような気がする。
基本、成るようにしかならないのだが、暫くは村で腰を据えて成り行きを見守るしかできそうにないな。
どうせ、もうじき秋の長雨の時期になるし、活動が制限される。
6月の梅雨の時にはここまで忙しくなるとは思えなかったのに、本当にあの時に最初の結婚式をしておいて良かった。
今の状況だと、とても彼らの結婚まで気が回らない。
来年も同じ時期に希望者を募ってやるか。
あ…俺の許可がいるんだっけ。
この件も張さんに任せよう。
彼女ならうまく回してくれそうだ。
どんどん任せられることは任せていくぞ。
俺は、面倒事のみ片していけば良い。
本当にどうなっていくんだろう……
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