名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

第四十一話 初めての店舗

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 紹介状を上人様に書いて貰った俺らは、翌日には、観音寺に向けて移動を始めた。
 当然ただの移動だけでは勿体ないので、観音寺での商いもするつもりで、ちょっとした人数での移動となった。

 今回の目的は観音寺城下に拠点を作ることなので、商いはついでだ。
 なので、当然藤林様を頭とする伊賀の方たちも一緒に来てもらっている。
 キャラバンの内訳は、商いの頭として張さんにお願いした。

 護衛に伊賀組の方たち、輸送担当に珊さんの組が当たっている。
 そうこれは我々の移動するほとんどが出払う事に成った。
 幸いに寺には玄奘様が来ておられたので、寺に残した子供たちの監督をお願いしておいた。

 八風峠への街道は日に日に賑わいを見せており、峠に着いた時には茶店に入りきらないくらいの人で賑わっていた。
 俺は重要なことを見逃していたのだ。

 この時代の移動には関所という難関がそれこそ各所にあって、その都度時間と銭を取られるのだ。
 しかしこの街道には、関所が無い。

 この街道はつい最近まで忘れられていた裏街道で、また、観音寺側は六角氏がしっかり支配していたが、その逆の伊勢の側は支配が山の際までは及んでなく、一種の権力の空白地帯となっていた。

 なので、当然道も整備されては無く、俺らが細々利用する分にはどうにか使えたが、利用する商人が増えてくると、道の劣化が激しくなってきた。
 どこかで一度きちんと整備する必要が出てくる。

 とりあえず、峠の茶店周辺の道の荒れ方が酷くなってきた。
 峠に新たに作った、俺ら三蔵村のための宿泊所に落ち着いたところで、少しみんなで話し合った。

「長、ここ数日で、ものすごい商人の利用がありました。
 既に、長に用意して頂いた木賃宿は連日満員で、増設の要望が出ております。
 ここらで増設の検討をお願いできないでしょうか」 と、ここを任せている権蔵さんから悲鳴にも近い要望が上がった。

「何ならいくばくかの銭を出すので、ここをもっと大きくできないかと言ってくる商人も少なからずあります。
 それと、簡単でいいのですから、一時的に荷を預けられる倉庫も欲しがっておられました」

「ここの賑わいは俺の予想をはるかに超えているな。
 でも当たり前か。
 関所による弊害を見落としていたからな。
 ここがさらに賑わうようだと、ちょっと我々が目立つな。
 まだそれは避けたいのだが、避けきれようか」

「空殿、それはすでに無理かと思うぞ。
 三蔵村はまだ大丈夫だとは思うが、ここは既に各勢力から目を付けられている。
 観音寺の六角氏は甲賀とも好を通じているので、ここが伊賀の影響下にあることまで掴んでいる。
 もっとも、三蔵の衆の存在は掴まれてはおらんがな」

「それならば、いっそ派手にいきますか。
 ここが悪目立ちをすれば、俺らには目が届き難くなりますよね。
 もっとも、伊賀の方が目立ってしまいますが……」

「空殿、それは構わんが、何か考えがあるのか」

「まず、ここを大きくして、ここに部落を作ります。
 規模的には、最初は浜と同じ程度で構いませんが、順次ここを強化していきます。
 藤林様、伊賀の方をここに呼ぶことはできますか」

「我らの仲間なら問題は無い。
 あと十数家族ならば問題は無い。
 すぐにでも呼べるが、どうする」

「珊さん、申し訳ありませんが、また、ここに残って、ここの整備をお願いできますか。
 例の家を…そうだ、泉のそばに15軒程度作って貰えますか」

「それは構わんが、大丈夫か」

「空さん、そんなに急に仲間を増やしても大丈夫なの。
 みんなが飢える事は無いの」 と珊さんや張さんまでもが急な膨張を危惧して意見を言ってくれた。

「珊さん、張さん、絶対はありませんが大丈夫です。
 俺に考えがあります」

「空殿、その考えとは何だ」
「はい、権蔵さん、ここを利用している商人にここ周辺の整備を大々的に伊賀村の方の協力で行うと触れ回ってください。
 そのうえで、道の整備もするので、ここを通る商人の方に協力のための銭を集めて貰えますか。
 その集まった銭を使って、ここ周辺の道を整備します。
 このままだと秋の雨期を過ぎたころから大八車では通れなくなるくらいに道が荒れます。
 多分、権蔵さんに協力を申し出た商人の方も同じように感じて危機感を持っているのだと思います」

「商人たちが素直に銭を出すかな」

「別に出さなければ、ここに関所を作ればいいだけです。
 そのための人も確保する見込みがつきましたしね。
 その銭があれば、増えた人も簡単に養うこともできますよ。
 大丈夫ですよ、全員とはいきませんが商人たちは銭を出しますよ。
 出した銭は結局のところ自分たちのためになって帰ってくることが分かってますから。
 それに、出さないとここを利用しにくくなりますしね」

「それもそうか、空殿、すごい考えだな」

「そうと分かれば早速触れ回るとしよう」

「藤林様、そういうことなので、お仲間の件をよろしくお願いします」

「整備にはどれくらいかかりそうかな」

「この周辺だけを考えておりますが、観音寺に着いたら例のご住職にお願いをして城の方に道の整備について話してもらいましょう。
 それを聞いて六角氏が整備してくれるかどうかは分かりませんが、少なくとも現状の確認だけはすることでしょう。
 我々は、ここの峠周辺と、あとは伊勢方面の整備を徐々にしていけば良いでしょう。
 この件を珊さんに任せたいのですがよろしいでしょうか」

「分かった、今の組でできるところから始めよう」

「すみません。
 しばらくは、ここが珊さんの組の拠点となりますね。
 最初は泉周辺の部落整備に取り掛かってください。
 なので、珊さんの組とはここで別れます。
 我々も、紹介状の件を片したら、戻りますので3~4日後にはここに戻ってきます」

 ここの峠の拠点が目立ってしまったので、隠すことなく行動を起こすことにした。
 もっともここの対外的な活動は伊賀村出身者となってしまって、藤林様に迷惑をかけてしまうかそれだけが心配だったのだが、藤林様には一笑に付された。
 なんでも、先の村内のごたごたで、村を出た藤林様の一派は各地に散っていたが、ここに集結できるのでかえって都合が良いそうだ。

 翌朝、俺らは、珊さんの組と分かれて観音寺に向かった。
 荷車は残った者たちが交代しながら引いていたが、ここからは下りばかりなので、全く問題にはならなかった。
 もっとも帰りは空荷になりそうだが、今回の目的は観音寺での拠点つくりなので、利益が出ればそれだけで良しとした。

 観音寺の城下に着いた俺らは、早速別れて行動を始めた。
 市での商いを張さんに任せて俺らはお世話になっている寺に向かった。
 俺と藤林様だけで向かうつもりだったのだが、何故だか今回は葵と幸も附いてきた。

 それを見ていた張さんが、なぜだか不満そうに俺をにらんできた。
 葵と幸はなぜだか勝ち誇ったかのような表情を浮かべニコニコしていたのだが、張さんの目が非常に怖かったので、俺は逃げるように寺に向かった。

 仕事以外での問題の持ち込みは勘弁してほしい。
 みんなで仲良くね……聞いている?……駄目だ、全然聞いていない。
 俺は、俺の話を聞いていない二人を諦めて、仕事に掛かった。

 上人様からの紹介状をご住職に渡し、趣旨を説明したら快く引き受けてもらい、上人様と同様にその場で紹介状をしたためて頂けた。

 ご住職は街道の件で、六角氏のご重役の方も紹介して頂けた。
 拠点となる店の確保はこの後は、藤林様に完全に投げ……任せて、ご住職と一緒に六角氏のご重役の一人である蒲生定秀様の御屋敷に伺った。

 何のアポも取らずの訪問だったので、ご本人にはお会いできず、家宰の方に趣旨の説明をしただけで終わった。
 いくら知り合いのご住職と一緒に伺ったとはいえ、子供の俺がいっぱしの事を言ったので、かなり驚かれてはいた。

 どこまで本気で受け止めて貰えたかは分からないが、無視されても俺らはさほど困らない。
 峠のきつい部分は俺ら自身で利用する商人たちの協力を得てやることになるのだから。

 そんなこんなで、今回の目的も終わらせる事が出来、市で頑張っていた張さん達と合流を果たした。
 このまま寺で一泊をして帰ることになる。
 もっとも帰りは藤林様とは別で、藤林様には店舗を入手してもらう事に成っている。

 ご住職の紹介状と、上人様の添え状、それに、調べて貰った価格の1.5倍の銭を預けているので、村に帰るまでには追い付けるとおっしゃっておられた。

 なので、俺らは珊さんが頑張っている峠の茶店にみんなで仲良くキャラバンを進めた。
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