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第三章 伊勢の戦国大名
第九十五話 悪巧み
しおりを挟む安濃津に向かう船の中で俺は先ほどの件を考えていた。
早い話が『北畠の連中が京都の朝廷や幕府に泣きついて兵を起こすが、俺はお前に義理立てして兵は出さないから貸しがひとつだ』ということを、本多様をわざわざ使いに出して俺に伝えてきた。
これって手紙でも済んだ話じゃないかな~……あ~そうか、貸しを作ったから堺からの嫌がらせを堺に太いパイプのある俺にどうにかしてくれということか。
俺に借りを作りたくないからわざわざ本多様が伝えに来たのか。
馬鹿な使いならば俺に頼み込んで借りを作るところだが、さすがは後の徳川家康の謀臣と言われた本多様だ、伝え方一つで俺の借りの返済にしかならないような伝え方だ。
そもそも松永弾正はこの時期に領地を遠く離れての進軍なんてできるのか?
それに、聞いたところの朝廷や幕府の動きにも疑問が残る。
使者が勅使や上使じゃなかったし、密命というのも頂けない。
官職を褒美に出陣の要請なのに秘密の出陣では何を理由に官職を与えるのか苦労するだろうし、そもそも松永弾正は三好家の被官である身なのに勝手に官職を得ることなどできるのか、このような出陣の要請ならば三好家に行くべきではないか、三好家で断られた場合では、松永弾正自信も出陣などできないだろう。
やっぱり変だ。
それに最近急に始まった堺からの嫌がらせも京都あたりからの圧力だという噂も聞いている。
あ~~~~もう分からないことばかりだ。
あ!
いいこと思いついた。
松永弾正からの要求は堺から圧力の排除までは求められていない。
もっとも俺にそんな大それたことなどできまいと思ってのことだろう。
なので俺も淡路島からの産物、この場合特に塩の入手に問題が出始めてきたので、塩の手配を求められたのだ。
その要求に対して俺は、本多様の帰還に際して三蔵村の塩を樽二つ分無償で渡し、淡路島からの産物を堺経由から雑賀崎経由に変えるようにすることで松永弾正からの要求を達成させることを約束したのだ。
今の状況だと、やりようによっては堺の嫌がらせを終わらせることができるかも。
俺はこのあとの進め方などを真剣に考えながら安濃津に向かった。
安濃津に着いてすぐに孫一氏に面会を求めた。
まず、松永様の要求である雑賀崎の利用についての了解を求めた。
俺の定期船を使って堺から淡路島に向かわせて塩を積み込ませ雑賀崎に向かうことで一連の嫌がらせを回避させることにした。
雑賀崎からは大和の商人に取りにこさせることで本多様とは話がついている。
孫一氏も『何を今更』って顔をしてすぐに了承してくれた。
この話はこれで終わり。
すぐに俺の謀略の打ち合わせに入るために九鬼様、藤林様、竹中様の家老衆をこの場に集め話を始めた。
「松永様のところに京都から密使が来たそうだ。
彼らは松永様に我々の討伐に軍を出すように要請してきたそうだ。」 と言って、俺が受けた説明を何一つ隠すことなく彼らに説明した。
その上で、今後について話し合った。
「九鬼様、竹中様、2ヶ月後くらいに神戸家に対して軍を起こせますか。」
「我々だけでは難しいが、雑賀衆が以前のように協力してくれるのならば問題はない。」
「我々はもとより空殿の要請があればいつでも我々の鉄砲衆を全員だすぞ。」
「それは、いつも感謝しております。
神戸家との合戦も、前に北畠との戦でやった銃での攻撃が主体となると思いますがその時にはよろしくお願いします。」
「空殿、神戸家とはいずれ雌雄をけっしなければならないのは分かっておりますが、今の我々には大義がありません。
そうなると、神戸家との戦は不味くはありませんか。」
「それもそうだ、神戸家は関氏の被官とはいえ、あのあたりでは一目置かれる名家となっております。
仮に占領したところで、それこそ京の朝廷や幕府あたりからいちゃもんがつきませんか。
最悪付近の大名を使っての討伐軍が送られかねませんよ。」
「そのことで私にひとつのアイデア……違った……考えがあるのですよ。」
「アイデア??
ま~いいか、その考えとはなんですか。」
「これは松永様の協力が欠かせませんがうまくいけば堺の圧力問題も一度に解決できると思っております。
で、その考えとは、松永様のところに来た密使を謀略で嵌めてしまえばこっちのものですよ。」
「密使を嵌めるとは?」
「京都の朝廷や幕府も一枚岩ではないのでは。
でないと密使でも勅使にして松永様に出せます。
さすれば松永様でも断ることはできなかったでしょう。
しかし、密使はあくまで密使で勅使ではなかった。
これは京都の中で一部北畠とつながりの強い連中の暴走ではないかと思われます。」
「そうですな、そう考えれば納得がいきますな。」
「ですから、松永様の正式な使いに密命の内容の再確認と軍を出すために時間がかかることを公に了解してもらい、松永様がもらえる官職の内定に関してのお礼も派手に行ってもらうと、京都はどういう反応を示すか考えてみてください。」
「空殿はいかに考えますか。」
「これは藤林さまにもお願いがありますが、京都の街中に朝廷と幕府が借金を踏み倒すために債権者に対して軍を出させると噂を流せば、幕府や朝廷はこの密命そのものを認めることができなくなります。
かと言って、松永様の正式な使者の件があるので、そのままうやむやにはできませんから密使を処罰しなければならなくなります。
帝や将軍の名を使っている以上厳罰は避けられないでしょう。
その上で密命そのものを否定することになれば、もうこちらのものです。」
「それと、神戸家との戦とはどういう繋がりあるのですか。
それに堺の件とも繋がりませんが。」
「ここまで行けば、もう一度松永様から、いえ、九鬼様からでも大丈夫だと思いますが、これで幕引きをさせずに既に名前の上がっている神戸具盛と北畠具教の両名を京まで呼びつけてこの件の審議を要求します。
すでに関係者の処罰が済んでおりますから、彼らは絶対に京まで行くわけには行かずに無視をすることになるでしょう。
そこまで行けば今度は我々が彼らに対して懲罰のための軍を起こすことができます。
この軍は幕府の要請という形になるでしょうから彼らの地を抑えても京からは文句も出ないでしょう。
その懲罰軍の要請が出されるまでの時間が早ければ2ヶ月後、遅くとも半年と見ております。
遅ければ何度でも事件解決のための要求を幕府に出せばいいだけですから。
今の将軍は三好家の意向が通りやすいとも聞いており、かつ、今回の件は三好家の派閥以外での連中が動いたのでしょうから彼らとて喜んで協力してくれるでしょう。
松永様もいることですしね。」
「神戸家のことは確かにそうなるでしょうね。
確かにうまい考えですね。
これならば大義も問題なく、神戸家に対してはこれ以上の解決方法はないでしょう。
しかし、全ては松永様の協力が欠かせませんが、協力してもらえるでしょうか。」
「ですから、先程も疑問が出された堺の嫌がらせの件があります。」
「そういえば堺の件も解決できると言っておられたが、これはどういうカラクリで。」
「ですから、松永様に対しては堺での嫌がらせの解決でどうしても松永様の協力が必要とお願いすれば否とは言わないでしょう。」
「確かに、しかし、堺での件は如何様に。」
「一緒ですよ。
堺での嫌がらせが始まったのがこの件が計画され始めた時からで、堺の会合衆が関わっているのが明白だ。
ここに来るまでに船で聞いたのですが、堺は本来会合衆の合議で取り決めが行われているようなのですが、最近は紅屋さん一人が京都の公家や幕臣との繋がりを使って急に力を付け、今では何でも紅屋さん一人で決めているようで、会合衆のなかでもかなりの不満が出てきているようなのです。
今回の件に関わっている以上、当然京都に呼び出されますよ。
彼も多分京都まで来ないでしょうが、そうなれば他の会合衆が黙ってはいないでしょう。
当然会合衆からは外されるでしょうから、松永様への嫌がらせも終わるという訳です。」
「なるほど、確かにそうなるでしょう。
分かりました、私の仕事は京都に踏み倒しのための軍を幕府が出すという噂を流せばいいのですね。」
「そうなのです。
できる限り派手に噂は流してください。」
「分かりました、その方針で動きます。
軍の準備も進めます。
蓄えていた兵糧はかなり放出しましたから、兵糧集めから始めないといけなせんな。
幸い、鉄砲の弾薬は十分にありますから、こちらは追加はいらないでしょう。」
「よろしくお願いします。
私は、これから雑賀崎に寄ってから松永様のところに謀略の相談に行きます。」
我々の方針が決まったのであとは全員でやるべきことをするだけだ。
安濃津の港に待たせてある船に乗って俺は雑賀崎に向かった。
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