名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第六章 上洛

第百五十七話 間抜けな話

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 張さん達がここ賢島に来てから10日ばかりが過ぎた。
 連絡を待っているのだが、何もしていなかったわけではない。
 基礎訓練を終えた警邏隊(今ではこう呼んでいるが正式に名を付けたわけではない)に、実際の街中での警邏の訓練を、ここ賢島で行っている。

 俺は、その様子を観察しながら携帯する装備などの検討をして時間を過ごしていた。
 俺はそれでいいが、驚いたことに張さん隊は凄かった。
 彼女たちは京に一緒に行くつもりでここに来てもらっていたのだが、ここでの生活を暇していたわけではない。
 ここは頻繁に船が出ているので、それを使って大湊や三蔵村、熱田や堺まで行ったり来たりしていた。

 ほとんどが日帰りだが、2回ばかり泊まりでも移動していた。
 葵や幸までもが張さん同様に忙しそうにしていた。
 張さんはもとより幸までもが俺より忙しくしているのには、驚く発見だった。
 今までの仕事を引き継いでここに来てもらったはずなのだが、色々と柵しがらみってやつは簡単には消えなさそうだ。

 ここは船があるからいいが、京に行って大丈夫かと心配になるのだが、張さん曰く、丹波君の知り合いが協力してくれるから大丈夫と言っていた。
 俺が丹波少年に確認すると、忍び衆の連絡網を使えるから問題ないと言っていた。
 京に行くとそれからは手紙のやり取りにはなるが、連絡は簡単につくから問題なさそうだと、俺はひとまず安心した。

 なにせ彼女たちが忙しくしているのは、過去に俺が頼んだ仕事がらみだ。
 あっちこっちに好き勝手手を広げ、それを周りに丸投げしている俺のライフスタイルが原因だ。
 今まで気にしなかったのだが、今度ばかりは少し反省した。
 生きるのに精いっぱいで、とにかく食い扶持を探して回っていたが、気が付いたらとにかくいろんなことに手を出している。

 先程などはすっかり忘れていたが、新たに建造していた大型の帆船の進水ができると喜んで報告に来た棟梁にあきれられていた。
 そういえば、俺らの主力艦の変更計画が動いていたのだわ。
 今まで使っていた船も既に売り先が決まっていたし。

 棟梁曰く、直ぐに三蔵村で建造している船も進水できると言っていた。
 しかし、その後になると少々顔をしかめていた。
 船を作りたいが、仮に作れてもここと三蔵村で一艘づつの2艘ができればいいそうだ。
 原因は材料となる木材だ。
 木はそこら中に生えているが、切り出して直ぐに使えるわけではなく、木材として使えるようになるには半年以上の時間がかかる。
 今、この村にいる紀伊之屋さんや能登屋さんに声をかけてはいるが、あまり芳しい返事をもらっていないとのことだ。

 今度お付き合いを始める博多にも声をかけてみるが、どうなるか。
 こちらでも気長に木材つくりに精を出すしかないか。
 そんなこんなで時間を過ごしていると、ついに待ちに待った情報を持った忍びが戻ってきた。
 俺が京に送った忍びの内二人が、今の京の町の地図を持ってやってきた。

 早速広間で、地図を見ながら京入りについて相談した。
 幸い今日はこの地に張さんがいたので一緒に相談に交じってもらった。
 地図を前に情報を持ってきた忍びの方が説明してくれた。
 下京はかなり前から荒れていて、寺の周りくらいしかまともに生活できそうになさそうだ。

 もっとも俺らは下京までは当分手が出せない。
 問題は上京だ。
 あちこちに拠点を動かしていた幕府は、武衛公屋敷から前に花の御所のあった場所に移ってからは動いていない。
 前の将軍が襲われた後、少しばかりあの辺りが焼けたのだが、花の御所跡に仮屋を立ててからは、そのまま使用しており、その周りは、弾正の配下が詰めていたこともあって、治安はそれほど悪くはなかった。

 しかし、最近になってからは弾正の部下が御所から出ており、少しずつその辺りの治安も悪くなり始めている。
 今の勢力で京入りする分には問題なさそうなので、そのまま京入りすることに変更はない。

 その弾正配下の侍たちの一部は太閤の屋敷に入り、そのあたりの警備をしているが、ほとんどが今では大和に戻ったとも聞いた。
 問題は我々の生活する拠点だ。
 ホテルや旅館などが有る訳も無く、どこぞの有力者に住まいを借りなければならない。

 本来は弾正や太閤から借りるつもりだったのだが、あいつらからは何にも連絡がこない。
 催促をかける訳にもいかなかったのだが、張さんの超ファインプレイで、今の俺にはその件については解決済だ。

 信長さん経由で権大納言の山科言継卿宛ての紹介状を持っている。
 まずは、山科卿を訪ね、太閤に連絡とり挨拶くらいはしておく。
 その後は、まず拠点作りをする。
 待っていた情報も来たし、葵たちが戻り次第出発することにした。
 夕方になって葵たちも戻ってきたので、京に行く準備をさせた。

 翌日の堺行きの船に乗ることができた。
 その日のうちにいつも通り堺に無事着いた。
 その足で、俺らは紀伊之屋さんに入り、その日の宿を借りた。

 ここは孫一さん率いる雑賀党の商い部門とも言ってよく、雑賀の者が商売をしている店だ。
 俺が最初にお世話になった店でもある。
 俺にはそれからというもの色々とお付き合いのある大切な店だ。
 夜に食事を頂き、その席で、今回の顛末を、愚痴を混ぜながら話していたら、紀伊之屋さんから変な顔をされた。

「空殿。
 京都で、泊まる場所にたいそう困っておられたご様子ですが、何で能登屋さんに声をお掛けにならなかったのですか。
 能登屋さんは、今でも京で商いをしていたはずですが」

「へ?」

 どういうことだ???

「紀伊之屋さん。
 能登屋さんは京にお店を構えているのですか」

 張さんが紀伊之屋さんに聞いていた。
 そうだよ。
 大切なことなので俺も紀伊之屋さんの話を聞いた。

「へい。
 われらも一時は京で商いをしておりましたが、先の将軍暗殺事件で町が荒れまして引き上げざるを得ませんでした。
 人だけは、まだ沢山住んでおりますし、やりようによっては十分に利は出そうなのですが、あそこまで町が荒れますと、安全との兼ね合いで利なんて簡単にすっ飛んでしまいますので、我らは引き上げましたが、能登屋さんは事情が違います」

「事情が違う。
 どういうことなの」

 俺は思わず聞き直した。

「能登屋さんの本拠は、今でこそここ堺ですが、屋号が示す通り能登の出身です。
 今でも能登の七尾にある店とのやり取りが盛んなのですわ。
 海産物などのやり取りも盛んにやっているようですよ」

「へ?
 それじゃ~、何でうちからの干物にあれほど執着していたんだ」

「簡単ですよ。
 能登からの海産物のほとんどが、途中ですべて捌けますから。
 干物などは、ほとんど全てを京で捌くそうですよ。
 うちが堺で、干物で儲けているのを見て、羨ましく思っていたようですね。 
 うちからしたら、ぜいたくな話ですけどね」

 なんか二重の意味でだまされたような気がしてきた。

「空殿は能登屋さんには相談していなかったのですか。
 能登屋さんは今でも定期的に七尾との行き来があり、京は重要な中継拠点ですよ。
 確か下賀茂神社の門前に店を構えていたような」

 なんだよ、そこに間借りできれば俺の悩みなんかまったく意味をなさなかった。
 ロケーションに至ってはこれほどないくらいにベストポジションではないか。
 紀伊之屋さんの話では、能登屋さんの商路はここ堺から京に入り、そこから近江の草津に入り、そこから船で琵琶湖を渡り敦賀に入る。
 敦賀から船で七尾にという経路だそうだ。

 すごく当たり前のルートだ。
 なんで気が付かなかったのだろう。
 俺にも伝手があったんじゃないか。
 明日は能登屋に行ってからの話だな。

「張さん、明日の移動は無しで」

「はい、ご一緒に能登屋さんに参りましょう」



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