名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第百九十七話 望月さんの勧誘

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 俺の方は、六角や細川の対応に取り掛からないといけないな。
 多分、六角はだめだろう。
 三雲が酷すぎる。 
 堺のどこの商人と結びついているかは分からないから、まずはその商人を見つけることが先決だ。

 堺ルートを潰せばいよいよ苦しくなった三雲は動く。
 その時に、最悪は勅命を貰って六角を潰すしかないだろうな。
 信長さんのところの状況は分からないが、俺の方は信長さんと良好な関係でもあり、また、長島の一件も片が付いたので、俺としてはいつでも全力で当たれる。

 あ、そうだ。 
 鉄砲と大砲も用意しておこう。
 戦が始まれば大砲は役に立つ。
 また、以前の歴史が示すように伊賀に逃がさないように、望月さんとも相談して伊賀ルートからの進攻も検討しておこう。
 やるなら一回で絶対に片を付ける。
 でないと迷惑をこうむる庶民が大量に出てしまう。

 俺は覚悟を決めてから一切の躊躇はなくなった。
 今まではどうしてもこの時代の人間でないという後ろめたさのためか、人の命のかかる戦には参入しないように心掛けてきた。
 ましてや天下の動向など知ったことかという気持ちの方が強かったが、それでも俺の手で千名を超す命をもぎ取ったことで、吹っ切れた。

 それなら、天下を取るつもりは今でもないが、俺の目の届く範囲では戦を無くす努力くらいはする。
 今度も六角や細川などの雑音の排除に全力を注ぐ。
 本当にあいつらときたら民たちに対しては何にもしないで、それでいて動乱ばかり興そうとするのでたちが悪い。

 そんな俺に観音寺の伊勢屋と蒲生氏から別々に連絡が入った。
 伊勢屋からはついに恐れていた峠の出口に関ができたという報告で、蒲生氏からはその件で力及ばず申し訳ないという内容だった。
 しかも、蒲生氏からは峠の支配権についても望月氏にその資格が無いといちゃもんを三雲が言い始めたという情報まで入る。
 峠は甲賀に近く一応六角の領地にはなるが、ほとんど北伊勢と言って良い土地なので蒲生氏としてはどうしようもないという話だった。

 俺は藤林さんに連絡を取って確認をしたら、すぐには事態が動かないだろうが、最終的には三雲が六角の武力を使って力業に出るだろうという予測をしていた。
 既に俺の中では今の六角には何ら義理もないし、何よりその能力にも疑問を抱いていたこともあって、退場を願う気持ちの方が勝っている。

 ついに六角の退場を願う時が来たか。
 大義の方は勅命を以てどうにかできそうだが、六角の後をどうするかは全くのノーアイデアだ。

 どうしよう。
 ここは史実に基づいて信長さんに相談しよう。
 できれば信長さんに丸投げしておきたい。

 俺は京の座について張さんに丸投げしておいてから、陸路で岐阜を目指した。
 一度自分で関の様子を確認しておきたかったのだ。
 それにしても、陸路は本当に酷い。
 これでよく商売ができるものだと感心したのだ。
 京から陸路で岐阜を目指すのに最初に立ちはだかるのが叡山だった。
 叡山の逢坂の関があり、行きかう人の流れを邪魔している。
 その後に、いくつかの関を通りやっとのことで観音寺に着く。

 とにかく一つ一つの関で払う銭は確かに大した金額ではなかったがそれでもここまでに払った銭はちょっとした額になる。
 それよりも俺は一々関で止められるわずらわしさの方が気になった。
 俺なら絶対にこんな場所での商売はしたくない。

 そういえば、俺らがしてきた商いは関所を通らないルートを使ったものばかりだった。
 この時代の常識から考えると有り得ないくらいの幸運なのかもしれないが、それも忘れられていた街道を復活させたのでできたことだ。
 後は早くから研究をしていた水運の利用だ。
 そんなこともあり、俺らが復活させた街道に関を作られて物流を妨げられることには本当に腹が立つ。

 普通の旅人ならここから岐阜に行くのには東山道を通り関ヶ原を抜けるルートを選択するのだが、俺は関の確認もあって八風峠に向かう。
 観音寺からそれほど遠くない場所にその問題の関はあった。
 かなり物々しい造りで、どんな目的で作られた関か分からない創りのものだが、人の通りもまばらなので、割とすぐに関に入ることができた。

 関の中では、人は少なく感じたのだが、割と騒がしい。
 なにせ、あっちこっちで商人とお役人とが通行料で揉めている。
 俺らにもあいつらは吹っかけてきた。
 その額が、京からここまでくるのに払った金額とほぼ同じ額なのだ。
 明らかにぼった額だ。

 前に蒲生さんから聞いた目的と違うような気がする。
 こんな金額を請求されたら誰もここを通らなくなるだろう。
 伊勢に向かうにしても東山道を通ればそこまでの金額を請求されない。
 しかし、役人が言うにはここから伊勢まではここしか関が無いので、伊勢まで行くには払う銭は同じだと言ってきかない。

 確かにそうかもしれないがそれは俺らが関など作っていないからの話でお前らが言う話ではないだろう。
 俺は、近衛少将のお役目で伊勢に向かうと言ったが、それでもかなりの金額を請求してきた。

 一々もめるのも面倒なので、俺は言われるまま支払ったが、その時の相手の名前とその上司の名前を聞き出してある。
 不正の証拠とするのだ。
 厳密に言うとこの時代には大した法律など無いから不正とは言い切れないが、俺が京に戻ってから六角に対しての交渉のカードとして使うつもりだ。

 俺らはもめることなど無かったので、大した時間を取られずに関を超え、峠に向かった。
 当然峠は閑古鳥が鳴いている。

「空さん。
 お久しぶりです」

 出迎えてくれたのはここを仕切ることになっている望月さんだった。

「久しぶりです、望月さん。
 それにしても酷い事に成りましたね」

「ええ、しかもこの後に戦が待っているとあってはこっちとしても準備だけでもしておかないと」

「え?
 何かありましたか」

「ええ、三雲がここを寄こせと言って来ましたよ」

「いかなる理由で」

「殿の治める領地なのだから、殿にお返しするのが筋だと抜かしていやがった」

「殿って」

「ええ、六角ですよ」

「しかし、六角の領地って……」

「ええ、南近江だけですね。
 伊賀や北伊勢は個別に庇護下に置いていただけですよ。
 尤も北伊勢は既に空さんの支配下になりましたが」

「ですよね。
 それを領主と強弁しますかね」

 確かに甲賀は厳密に言うと滋賀県になり、南近江の範疇になるともいえるが、ほとんど北伊勢になる。
 俺は北伊勢を支配下に置いた時から交通の要所になる甲賀も押さえておきたかった。

「ええ、ですから三雲の考えが透けて見えますよ。
 私からここを取り上げ自分の支配下に置こうとするのが。
 ここが既に空さんの支配下とも知らずに、なんと愚かな
 そうだ、空さん。
 いっそのこと甲賀も支配下に置きませんか。
 面倒な土地ですが、協力しますよ」

「協力してくれるのですか、望月さん」

 俺は前から考えていたことだが、この時代の人の考えでは本当に罰ゲームのような地域である甲賀も仲間に入れたいと思っていた。
 しかし、同じ面倒な土地なら甲賀だけでなく伊賀も一緒に押さえておきたい。
 そうすることで、無政府状態の地域はこの辺りから無くなるのだ。

 確かに両地域は、土地は貧しく平野も少ない。
 それでいて豪族たちにまとまりのない、本当にこの地の領主は罰ゲームとしか思えないような土地だが、地の利は決して悪くはない。
 全てが峠越えにはなるが、伊勢にも近江にもつながっている。
 関ヶ原にも峠を越えれば出られるので、美濃にもつながっている地だ。
 ましてや、伊賀に関りの強い藤林さんも俺らの仲間で、そこに甲賀の望月さんまでもが協力してくれるというのだ。

「望月さん。
 本当に私たちに協力してくれますか」

「ええ、空さんにはお世話になっておりますし、何より私たちに豊かな暮らしをもたらしてくれました。私にできる事なら是非に」

「なら良かった。
 望月さん。
 伊賀と甲賀の領主になりませんか」

「え?
 ええ~~。
 ど、どう言う事でしょうか」

「こことそう変わりはありませんよ。
 それに今では藤林さんも立派な領主ですし、望月さんも私たちの仲間に入って欲しいかなと」

「お仲間ですか……」

「ええ、望月さんだけでなく、お知り合いの方全員で武士になってこの辺りをここと同じように治めてほしいかと。
 一応、九鬼さんを殿さまとして仰ぐことになりますが、みんなで話し合いながら国を作っていきますよ。
 それはお約束します。
 まあ、すぐにはできませんので、六角が片付いてからの話になりますが、考えてみてください」

「は~、
 して、三雲の方はいかがしますか」

「多分ですが、六角ごと消しますよ。
 そうでないとこの後も戦だらけになりますからね。
 戦はできればしたくはありませんが、するなら一回で終わらせます。
 これからその相談に行く途中だったので、ちょうど良かった。
 是非先ほどの件考えてくださいね。
 もしわからないことがあれば藤林さんにでも聞いてください。
 藤林さんも最初はかなり戸惑っておりましたから、良き相談相手になると思いますよ」

 俺はそう言い残して岐阜に向かった。

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