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子供編・学園編(一年目一学期)まとめ
改・学生時代(ハートのJ)6(その後)
しおりを挟む「カミーユには、結ばれることのない憧れの人物がいるらしいよ。それも、ずっと昔から」
王太子誘拐事件から数日が経過したある日……
突然呼び出されたロイス殿下の部屋の中で、俺は唐突に彼からそう告げられた。
「……? 憧れの人物、ですか?」
「そう。彼女曰く、その人物と僕が似ているみたいで。今までずっと無意識に僕と重ねていたんだって」
「はぁ……」
訳が分からないまま返事を返す俺に、殿下は笑顔のまま話を続ける。
「アシル、これからは安心して良いよ。カミーユも、ようやくそのことを自覚したみたいだから。あの後、少しだけ彼女と二人で話をしたんだ……彼女の僕への思いは、本当に恋愛感情じゃない」
どうやら、殿下はこのことを俺に告げたかったらしい。
「別に……俺は、今更そんなことを気にしませんけど」
子供の頃からずっと、ロイス殿下に猛アピールを繰り出すカミーユを見続けているのだ。
おかげで、少しくらいのことでは、めげない耐性がついてしまっている。
「……僕は嫌だな。だって、カミーユが僕に構う度に、アシルからもの凄く冷たいオーラが出てくるんだもの」
「俺、氷魔法なんて使っていませんけど?」
「嫌だなあ、とぼけないでよ」
「……」
黙り込む俺に対して、殿下はキラキラした笑顔から真剣な表情になった。
「なんにせよ、カミーユが恋愛感情を抱いている相手は、僕じゃなくてアシルだよ」
「……」
「だから、僕に妬く必要はないって話」
時々……殿下には敵わないと思うときがある。
彼は、恐ろしく人の心情に聡いのだ。
「僕よりも、僕に似ているという「憧れの人物」を警戒した方が良くない? せっかく、僕がトパージェリア第二王子とカミーユの縁談を阻止したのに、新しい男に彼女を取られちゃったら意味がないよ?」
それは……その通りだけれど。
なんだかロイス殿下が、ニヤニヤとよからぬ笑みを浮かべ始めている。彼が何かを面白がっている時に見せる表情だ。
殿下と話をした後で、俺はカミーユの元へと向かった。
別に、彼に言われたことが、気になったからではない……断じてない。
単純に、カミーユの顔が見たいだけだ。
カミーユは、以前の職場である魔法棟に顔を出していた。
ピンク色の髪を一つに纏めて、何やら怪しげな実験をしている。
彼女が掻き混ぜている白くて大きな鍋の中から、甘ったるい香りが漂ってきた……何を作っているんだか。
彼女の実験が一段落したところで、声を掛ける。
「カミーユ、今、大丈夫?」
俺の声に振り返ったカミーユは、照れの混じったぎこちない動作でこちらを見つめてきた。
未だかつてないくらいに、彼女からもの凄く意識されている……!
「ああ、駄目だ……」
やっぱり、さっきの殿下の話が気になってきた。
彼の言っていた、カミーユの「憧れの人物」の話が頭から離れない。
「……カミーユの憧れている相手って誰なの?」
……しまった。口が滑った!
突然の俺の質問に、カミーユはラズベリー色の大きな目を瞬かせている。
「アシル、どうしたの? 憧れている相手って……もしかして、ロイス様に何か聞いた?」
そうだよ。
なんだか、カミーユの目が泳いでいる気がする。
俺は、婚約者が逃げ出さないように、彼女を壁際へと追い詰めた。
「違うよ、浮気じゃないよ? 確かに憧れていた人物はいたんだけど。それは、実在しない人物で……」
「それって、具体的にはどんな奴なの?」
「う~ん、二次元……じゃなくて、虚構の王子様?」
「ニジゲン? 何それ?」
「ロイス様から大体の話は聞いているんだよね。彼に似ているんだけど、同じ人物ではないというか……実在しないと言うか」
カミーユの説明が要領を得ないので……
俺は、自分なりに彼女の考えを纏めてみた。
「……それって、デボラとデジレが憧れている、絵本の中の王子様のようなもの?」
「それだ! そうそう、あくまで憧れの王子様なんだよ!」
力強いカミーユの言葉に、思わず俺は脱力してしまう。
ということは……俺は、架空の人物に十年以上も嫉妬していたのか?
「……じゃあ、カミーユと俺は両想いだよね?」
「う、うん……勿論そうだよ」
カミーユは、真っ赤な顔で下を向いてモジモジしている。嘘は言っていないみたいだ。
「なんだ、そういうことだったんだ……」
安堵した俺が彼女を抱き締めていると、背後に他人の気配がした。
「ふふふ、良かったねアシル。僕の言った通りでしょう?」
振り返ると、爽やかな笑顔を浮かべる殿下が、嬉しそうな表情で立っている。
「殿下……ずっと、そこで見ていたんですか?」
「大切な友人達の様子が気になって、見守っていたんだよ。今後の参考にしたいし、ね?」
そう言ってウインクする殿下を見ていたら、彼に対してずっと嫉妬心を抱いていた自分が馬鹿らしくなってきた。
こうして三人で並んでみると、俺達は初めて出会ったときからかなり成長していると思う。
あの時の俺は、カミーユと両想いになるなんて考えもしなかった。
殿下は、王太子として着実に力を付け始めているし、事件後はライガとの仲も良好になっている。
職業魔法使いになる道を選んだカミーユは、実力だけで言えば魔法棟の長官、副長官に継ぐ力を持っていた。本人は、好きなことを楽しんでいるだけのようだが……
「アシル、いつまで私に抱きついているの? 動けないんだけど」
「ああ。ごめん、カミーユ」
そう言いつつ、俺は彼女に回した腕を外す気はない。
そんな俺の考えを読み取ったのか……カミーユが諦めたように体の力を抜いた。
もうすぐ、本格的な夏がやってくる。
事後処理が一段落すれば、俺達はまた魔法学園に戻る予定だ。
しかし、夏期休暇になれば、またこちらへ帰ることになるだろう。
俺は、今後やるべきことを頭の中で整理しつつ、愛おしい婚約者の頬に軽く口づけたのだった。
************************************************
1巻分の、
アシル視点(子供編・学生編)は、これにて終わりです。
時間があれば、ベアトリクス編も少し追加したいです。
3
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