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子供編・学園編(一年目一学期)まとめ
改・学生時代(ハートのJ)6
しおりを挟むティト伯爵とクレールは、屈強なライガの騎士団の男達に引き渡され、親子別々に囚人用の馬車で城へと運ばれることが決まった。しばらくは城の牢屋に幽閉されるだろう。
殿下は厳重に護衛され、城まで馬車に缶詰状態にされて運ばれている……気の毒だ。
俺とカミーユは、城から殿下付きの護衛達が派遣された後、あっさりとロイス様の傍から外された。自尊心の高い王族の護衛達は、王太子の取り巻きに過ぎない俺達に彼の警護を任せたくはないのだろう。
「ロイス様を助けたのは私達なのに……いや、ロイス様自力で脱走してたけど! 悔しい~!」
隣で地団駄を踏んでいるカミーユを回収し、俺も用意された馬車へと乗り込む。
空を飛んで行った方が早いけれど、夜通しで殿下の救出に向かった俺とカミーユは疲れていた。
それに、城につくまでに殿下の身に何かあってはいけない。
万が一彼がまた襲われても、すぐに助けに行けるように、一緒に馬車で移動した方が良いだろう。
そんなことを考えていると、俺とカミーユを乗せた馬車が、ゆっくりと動き出した。
睡眠時間を削って殿下を追いかけたカミーユは、馬車に揺られて意識が跳びそうになっている。
けれど、もしもの事態に備えて、城につくまでは起きていようと頑張っている様子だ。
そんな彼女を手伝うために、俺は向かいに座るカミーユへ話し掛けた。
「カミーユ。俺、今回のことで思ったんだけど」
「ん……何を?」
とろんとした目で、カミーユがぼんやりと俺を見つめる。
「カミーユは、燃費が悪すぎるよね」
俺の言葉に、カミーユはラズベリー色の瞳の色をぱちぱちと瞬かせた。少し、覚醒してきたみたいだ。
「そんなことないよ、アシル。確かに、この体は燃費が悪いから直ぐにお腹がすくけれども、その代わり太らないという利点が……!」
「そうじゃなくて、魔力のことだよ。近くで見ていて思ったんだけど、カミーユが魔法を使うときって必要以上に無駄な魔力を垂れ流しすぎていると思うんだ。そんな状態じゃあ、また魔力切れを起こしてしまうよ?」
「……」
俺の目の前で魔力枯渇に陥ったカミーユは、言い返せずに口をはくはくさせている。
彼女の魔法知識、魔法技術は、魔法棟の中でもずば抜けている。ただ、魔力配分は適当だ。
カミーユの大掛かりな魔法は、無駄に消費する魔力量も多い。
「……効率よく魔力を使うコツはないのかなぁ? アシルは、割ときっちりしているよね~」
そう零したカミーユに、すかさず俺は反応した。
「そんなに難しくないよ? 教えようか?」
婚約者の傍に近づける、良い口実を確保する。
「いいの?」
「勿論。いつも、カミーユには魔法を教えてもらっているからね」
「代わりに、アシルは私に勉強を教えてくれているじゃん」
「じゃあ、そのついでに。今のままだと、俺も少し心配だし……」
なんたって、カミーユは俺の知らないところで、勝手に禁術書にまで手を出しているからな!
こちらの表情から何かを察したのか、カミーユがビクリと震えて俺から距離を取った。
すかさず、離れた距離を詰める。
元々狭い馬車の中だ。カミーユが逃げたところで、限界がある。
ああ、そうだ……
この馬車が城へつくまでに、カミーユとの心理的な距離も詰めておこう。
幸い、城につくまでには充分に時間がある。ここなら、カミーユも外へ逃げ出すことは出来ない。
「あ、あの……」
またもや、何かを感じ取ったカミーユが馬車の隅へモゾモゾと移動する。
しかし、そこから先は壁になっているために逃げられない。
俺はカミーユを馬車の隅へと追い詰め、そんな彼女を至近距離で囲うことに成功した。
「そう言えば、カミーユ。俺の告白の返事はいつくれるの? あれからずっとお預け状態なんだけど……このままなかったことにする気?」
そんな俺の意地の悪い質問に、カミーユは慌てて弁明をし始める。
「違うよ? でも、私とアシルは既に婚約しているのだから、今更そんなやり取りは不要なんじゃない?」
「俺は気持ちを伝えたのに? カミーユは、ウチの両親みたいな愛のない結婚でも構わないと?」
「いや、だからそうじゃなくて、その……」
カミーユは、大混乱に陥っている。
俺は彼女と、貴族にありがちな仮面夫婦になりたいわけではない。そんな関係は望んでいない。
「正直、順番を間違えたことを後悔しているよ。気持ちを確認してから婚約を申し込むのが正当な順番だったよね」
そう。俺は、本当はずっとカミーユの心が欲しかったのに。十年間、それだけを望んでいたのに……
周囲の状況や、成長していく彼女に動揺して下手を打ってしまった。その結果が、これだ。
カミーユとの婚約に成功したものの、未だに彼女の心が自分にある確信が持てない。
目の前の幼馴染に嫌われていないことは分かっている。
恥ずかしがって抵抗するものの、カミーユは俺に抱き締められることも、俺からキスされることも拒まない。
けれど……俺は、彼女の言葉で確かな確約が欲しかった。
今まで何度も肩すかしを食らっているから、尚更……
「アシル……」
カミーユが、馬車の座席の隅からおずおずと上目遣いに俺を見上げる。
……これで、わざとではなく天然なのだから。大した悪女だ。
「このまま黙っていたら、俺の都合の良いように勘違いしてしまうよ? カミーユは、俺のことが好きなんじゃないかって」
「……な、なんでそうなるの!?」
「だって、カミーユは、俺に抱きつかれても、キスをされても全く無抵抗じゃないか。今だって、そんなに顔を赤くして……」
「……そ、れはっ」
ほら、何か言い返さないと。このまま、俺が最後まで詰めちゃうよ?
壁際に追い詰められたカミーユは恥ずかしさのあまり、ラズベリー色の瞳を潤ませて、今にも泣き出しそうな表情になっている。
「ぶぶぶぶっちゃけ、アシルは私が告白を断ったらどうするつもりなの?」
「その時は、振り向いてもらえるように、もっと努力を続けるよ。十年も待てたのだから、少しくらいどうってことないね」
「十年……!?」
今頃気が付いたか、この激ニブ侯爵令嬢め。
「じゃあ、私がアシルの告白を受け入れたら?」
「その時は両思いだ。俺も、カミーユの恋人として堂々と振る舞える」
「私、アシルのことが好き……なのかなあ?」
「……俺が、意図的に肯定してしまってもいいの?」
いや、駄目だ。それをすれば、今までの俺と同じだ。カミーユの心を本当に手に入れたことにはならない。
俺は、黙ってカミーユの返事を待つことにする。
「あ、アシル……あのさ」
「ん?」
「そ、その。えっと、あの……んーっと……」
不意に、カミーユが何かを言いたげな様子でソワソワし始めた。
前置きが長いが、彼女が一生懸命な様子は伝わってくるので、俺は黙ってなり行きを見守ることにする。
「私も……アシルのこと好きかもしれない。抱きつかれたりしたらビックリするけど、特に嫌じゃないし」
そう言うと、カミーユは、耳まで真っ赤になった状態で小さく蹲った。
恥ずかしかったのか、後半は声が萎んで行ったけれど……それでも、きちんと聞き取れた。
「い、言ったからね! ちゃんと返事したから!」
「そうだね、カミーユ」
「じゃあ、この話はこれで終わりに……」
「これで、晴れて俺とカミーユは両想いだね!」
強制的に、この話題を終わらせようとするカミーユの言葉を遮って、俺は話を蒸し返す。
折角カミーユの口から、俺が渇望していた言葉を聞けたのだ。このまま終わらせるなんて、勿体ないことはしたくない。
「俺のこと、好き?」
「だから、もう言ったじゃん!」
「好き?」
「……す、好き。アシルが、好き」
俯いたまま、消え入るような声でカミーユは俺にそう告げる。
……ああ、可愛い。
俺には、このまま彼女に何もせずに、城までの道のりを耐えられる自信がない。
「……じゃあ、今ここでキスしても良い?」
「ぐふぉっ! げほ、ごぼっ」
何故、そこで咽せる……?
カミーユは、良い雰囲気をぶち壊す達人だ。
しかし、俺はめげない。彼女の咳は、「肯定」という意味で受け取らせてもらおう。
「そっかそっか、良いんだ。じゃあ遠慮なく」
「げほげほっ! アシル、私まだ何も言ってな……んんーっ!」
口では色々言っていても、実際にキスしてしまうとカミーユは大人しい。
びっくりして固まっているだけとも言うが。抵抗という抵抗も無い。
彼女が本気で嫌な場合は、大暴れする上に、魔法を暴発させるくらいのことはするだろう。
「カミーユ……可愛い」
……もう駄目だ。今まで十年間耐えてきた色々なものが崩壊しそうだ。
この馬車の速度だと、城に付くのは翌日の昼くらいだろうか……
俺は、馬車が目的地に到着するまで、恋人兼婚約者との二人きりの時間をじっくりと堪能することにした。
そして、半日後……
殿下を乗せた馬車は、何事もなく無事に城へと到着した。
目的地に着いた殿下は、何かを察したのか……嬉しそうな笑顔で俺に近付いてくる。
「ねえねえ、カミーユとはどうなった? 馬車の中でずっと二人きりだったんでしょう?」
……それが聞きたかったのか。
地下での俺達の様子を見ていた殿下は、彼なりにこの展開を予想していたらしい。
「おかげ様で……きちんと両思いになることが出来ました」
「やった! おめでとう、アシル! ついに十年越しの想いが実ったんだね!!」
殿下は、嬉しそうに碧色の目を細めて俺の肩を叩いた。
「う~……。あれ、ロイス様。アシルとなんの話をしていたの?」
馬車の中から憔悴しきった様子のカミーユが、うめき声を上げながら顔を出す。
「あー、アシル。カミーユと両思いになれて嬉しいのは分かるけど、程々にね」
「……まだ、何もしていませんよ(キス以外は)」
殿下は爽やかな微笑みを浮かべながら、護衛達と共に城内へと去って行く。
そんな彼を見送りながら、俺はふらつく足で馬車から降りようとするカミーユを優しく支えたのだった。
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