ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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番外編

学園入学前の話 ハートのQ(その1)

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カミーユが学園に通う前の過去話です。
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 王宮の外庭は、生き生きと空に向かって伸びる夏の花々に囲まれていた。
 西棟の裏にある庭を通り過ぎると、ライガ率いる騎士団の訓練施設がある。
 現在、私がいる場所に建っているこの小屋も騎士団の更衣室だ。その扉の前で、私は数人の令嬢に取り囲まれている。

「だから、ロイス様とアシル様。二人を侍らせて悦に浸っているなんて、みっともないと申し上げているのですわ!」
「……はあ」
「今すぐ、お二人から離れてください!」
「……へえ」
「そんな全身刺青塗れの女なんて、彼等が相手にする訳がないですわ。どうせ、あなたがお二人に付き纏っていらっしゃるんでしょう?」
「……ほう」

 このまま、続けば「は行」を制覇出来そうである。
 実は、こういったやっかみを受けるのは、初めてのことではない。
 前にいた世界でもあったし、ロイス様やアシルとつるみ出してからは、月に数回は令嬢達に絡まれる。

「めんどいなぁ。じゃあ、ロイス様とアシルに直接言いなよ。刺青女には関わるなってね」
「お二人は、お優しいから……! きっと嫌々でもあなたを庇うでしょう」
「……ふぅ」

 私は、お優しいアシル像を想像した…………無理だった。
 アシルはいい奴だが、慈悲に溢れた少年というには、色々と性格に難がある。

「少し、ここで反省なさったらどうかしら?」

 一人の令嬢が更衣室の扉を開けて、別の一人が私をその中へと押し込む。更にもう一人が扉を閉めて、残りの令嬢達が鍵をかけたり、扉の前にものを積み上げて、私の脱出を防ごうとしている。見事な連携プレイだ。

「……ひー。怖いねえ」

 彼女達のあまりにも穴だらけの作戦に閉口した私は、そう棒読みすることしかできなかった。
 こんなことで、私を閉じ込めることができたと思っているのだろうか……
 高い位置だけれど窓もあるし、もうすぐ訓練を終えた騎士達が戻ってくるから、簡単に出られると思うんだけどなあ。

「それにしても、汗臭い……」

 男性特有の、濃厚な汗の匂いが更衣室全体に染み込んでいるようだ。
 いつもは、陰口や嫌味程度で済むことの多い令嬢の嫌がらせだが、今回はちょっと過激だったなあ……

「とりあえず、さっさとここから出るに限るね」

 令嬢達が立ち去ったのを見届けて、冷静に鍵を確認する。うん、普通に鍵をかけただけだな。
 王宮の全ての鍵には、強力な魔法がかかっており、鍵なしで扉を開けるのは至難の業だ……至難の業だが、不可能ではない。

「相手が悪かったね」

 そっと鍵穴に手を触れて、鍵破りの魔法を掛ける。城の図書館よりは、厳重ではないようだ。
 騎士団の更衣室なんて、誰も覗いたりしたくないもんね。ただの防犯目的の鍵なのだろう。
 内側から簡単に鍵を開け、扉の外に積み上げられた椅子や鉢植え(どこから持って来た!?)を魔法で退かし、私は無事に外へと脱出することができた。

「ふう……あ、いけない」

 この後、アシルと城下街に遊びにいく約束をしていたのだった。急がなきゃ!
 慌てて、伝達魔法で少し遅れる旨の連絡を彼に入れる。



 庭を突っ切ってアシルの元に向かおうとした私よりも先に、彼が動いたようだ。頭上から、声が振ってきた。

「カミーユ」

 見上げると、羽ペンに腰掛けたアシルが宙に浮いている。

「アシル、遅れてごめんね! ちょっとトラブルがあって……」
「どうしたの、その怪我!」
「怪我? あ……」

 気が付かなかったけれど、令嬢に突き飛ばされた時に腕を擦りむいたようだ。結構広い範囲で血が滲んでいる。

「腕、貸して?」

 アシルが、有無を言わせず私の腕をとり、回復魔法を掛ける。
 傷は見る見るうちに塞がり、出血も止まった。

「一体何があったの?」
「うーん……ちょっとね~」

 私は何も言っていないのに、頭の良いアシルは何かを察したようだった。
 こちらに向けてくれる笑みは優しいけれど……なんだか、彼からにじみ出る空気が怖い。

「他に痛む部分はある?」
「平気。腕の怪我だって、アシルに言われるまで気が付かなかったくらいだし。治してくれてありがとう」

 そう言うと、アシルは困ったように私から視線を逸らした。

「ほら、アシル。早く街に出ようよ! 限定販売のケーキ、食べ損ねちゃうよ?」

 彼の背中を押して、羽ペンへと誘導する。私も自分の羽ペンを取り出して、それに跨がった。



 その後、何故か私に絡んでいた令嬢達の嫁ぎ先が次々に決まるという慶事が頻発し……皆、成人するのを待たずして政略婚で遠くへ嫁いでいった。
 それからというもの……私が、城内で貴族令嬢に絡まれる頻度は、格段に減った。
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