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番外編
学園在学中の話 ハートのJ(その1)
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カミーユとアシルが、ひたすらイチャつく話です(汗)
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白い壁に囲まれた中庭で、十三人の生徒達が宙に魔法陣を描いている。ハートクラスの生徒達だ。
魔法陣から、指定した箇所に雪を降らせるという氷魔法の応用の授業だった。
生徒達が描いた魔法陣からは、キラキラと小さな雪の結晶が周囲に降り注いている。
「ふへー、もう終わっちゃったよ」
カミーユはあくびをしながら、小指の先で魔法陣を書いたり消したりしていた。
今は、魔法の実技授業の時間なのだが……この魔法オタクは、授業で習う範囲の魔法をほとんど独学で覚えてしてしまっている。
ついでに、彼女から直接魔法を教えてもらっている俺や殿下も、このレベルなら簡単に実行出来てしまうのだ。
暇を持て余したカミーユが、魔法陣で教師の似顔絵を描き始めた。慌てて止める。
見つかれば、罰としての余計な課題を増やされかねない。婚約者になった俺とカミーユの時間が課題に奪われるなんて、まっぴらだった。
魔法実習の授業は、俺にとってカミーユの監視の時間と化していた。
※
続いて、魔法薬の授業だ。
王立魔法学園では、「青」の魔法使い達のように、新しい魔法の研究や開発が行われている。
魔法薬の分野では、城よりも進んでいるかもしれない。方向性が、実用的ではないだけで……
「では、これから頭の上に理想の耳を生やす薬を作ります」
魔法薬担当の教師が、魔法で黒板に説明を描く。もはや、何の用途で使われる魔法なのか、意味不明だ。
「ふんふん。生やしたい耳を思い浮かべて薬を飲むのか……変わった実験だね」
カミーユは、興味津々の様子だった。俺は、できれば遠慮したい。
ガラス瓶の中身を混ぜ合わせ、魔法植物を加え、動物の皮を加えて煮詰める。混ぜ合わせる際にも、複数の魔法を使った。
そうしてできた液体は、不気味な血の色をしている。
「飲むのは任意だってさ。僕は遠慮しておこうかな」
殿下は、嫌そうに魔法薬の小瓶を振りながら苦笑いした。俺も、彼と同じ気持ちだ。
大半の生徒達が、不気味な色の魔法薬を飲むのを躊躇っている。
だが、そんな状況の中、あっさりと瓶の中身を飲み下した猛者がいた。勿論、カミーユだ。
止める間もなかった……
「まっずーい! 苦い!」
盛大に顔を顰めながら瓶の中身を全部飲み干した彼女は、ケロッとした顔で味の感想を述べる。
「ん? 頭に……違和感が」
異物感を感じて頭をさするカミーユからは、二本の長い耳がニョキリと生えていた。
白くてフワフワの兎の耳だ。
「カミーユ! 耳が! 真っ白なウサミミが生えてるよ!」
ロイス殿下が、焦った様子でカミーユの頭上を指差したが、当の本人は生えた耳を掴んで左右に動かし、冷静に状況確認している。
「おお、兎耳。成功したかな」
しかも、若干嬉しそうだ。
「アシルー? どうどう? カッコイイ?」
フワフワの耳をくっ付けたカミーユが、上機嫌な様子で俺の方を振り返る。
なんだ、この可愛い生き物は……! 今すぐ、部屋に持ち帰りたい……!
俺は、授業中だというのに、よからぬ衝動に駆られた。
そのくらいカミーユの兎耳は、異様に似合っていたのだ。
付近では、カミーユの兎耳を目の当たりにした女子生徒達が、我先にと猫耳やら犬耳を生やし出す始末。彼女達の場合は、あざとい下心からだろうけれど……
魔法薬の教室は、今や異様な空気に包まれていた。
「カミーユ、おいで?」
実験結果をノートに纏めているカミーユを手招きすると、彼女は笑顔で俺の方に駆けてきた。本当に、どうしてくれようか。
フワフワの彼女の兎耳を、そっと撫でてみると、カミーユはくすぐったそうに身じろぎする。
「アシル……耳はやめて」
カミーユは、耳が弱い。実験で生えてきた兎耳も例外ではないようだ。
「いいじゃん、減るもんじゃないでしょう?」
「減る! 耳は駄目!」
顔を真っ赤にして抗議するカミーユは、耳を触られてプルプルと小動物のように震えていた。
「……可愛い」
「ぐほっ!」
そのままカミーユを抱きしめて、その髪を撫でる。令嬢らしからぬ声を発しているのはいつものことなので、スルーした。
カミーユは、最近俺のことを意識し始めてくれているようだ。俺を前に、よく顔を真っ赤にしたり、落ち着き無さげにモジモジしている。
既にカミーユには、俺の気持ちを伝えてある。
あと、もう一押し……そんな気がした。
魔法薬の授業が終わっても、カミーユや他の女子生徒の耳はそのままだった。半日間は、効果が続くそうなのだ。
あの液体を飲まなくて良かったと心底安堵する。
今日の授業はこれで終了なのでハートクラスの寮に向かおうとしたのだが、隣にいたカミーユが不意にあらぬ方向へと歩き出した。
「カミーユ? 寮に戻らないの?」
「アシル、先に戻ってて。面白いから、ベアトリクスに見せてくる!」
「ちょ……!」
ベアトリクスというのは、最近カミーユが仲良くなった他国の令嬢らしい。彼女の数少ない女友達でいてくれるありがたい存在だ。
けれど、俺は慌てて彼女を止めた。こんな可愛らしい姿で他のクラスを歩き回って……何かあったらどうする気なんだ!
特に、カミーユに気のある隣国の王子がいるダイヤクラス周辺なんて、最も危険地帯だというのに!
「待って、カミーユ。ダイヤクラスは今日は、課外授業だったはずだよ。まだ戻ってないんじゃない?」
事実だ。嘘は言っていない。
ダイヤクラスは、今日は課外授業という名目で城下に出ているはずだ。戻ってきているかまだなのかは知らないが……
「そう言えば、そうだったかも? まだ戻ってないのかなあ……?」
カミーユは、やや気落ちした様子で素直にハートクラスの寮へと方向転換した。
帰りに廊下ですれ違ったクローバークラスの生徒の何人かが、カミーユをガン見していた。全員、男だ。
「あはは、兎耳が珍しいんだねー!」
……違うと思う。現に、他の女子生徒も獣耳な訳だし。
カミーユは、そっち方面の危機感が圧倒的に欠如しているのだ。
俺は彼女の手を引っ張って、寮へと誘導する。これ以上、彼女の可愛らしい姿を他の生徒に見せたくなかった。
一応、婚約者なんだから……これぐらいは許されるよね?
俺達の前方では、殿下がこちらを見ながら肩を震わせて笑っていた。
※
サラサラの白い毛皮は、ベロアのような質感で指に馴染む。
教室から寮へ戻った後、俺はカミーユを自室へ連れ込んだ。そのまま、彼女を壁際に追い詰めて今に至る。
「はうう……アシル。だから、耳はやめてって」
「あと数時間で消えてしまうんだから……少しだけ触らせて? 駄目?」
じっと見つめていると、カミーユは観念した様子で床にしゃがみ込んだ。少しならオーケーらしい。
彼女の隣に座って、兎耳をそっと撫でる。
「ふわふわで気持ちいい……」
「……そんなに気に入ったの? アシル」
「うん。ああいう授業内容も、たまにはいいかもね」
「そうかな……って。あ、あの、アシル? ちょっと近くない? その、あの、はむっ……ん」
気付いたら……カミーユの可愛らしい唇を塞いでしまっていた。
彼女はビクリと硬直している。
けれど、抵抗はしない。大人しく、されるがままになっている。
初めてカミーユにキスした時、念のため警戒した。魔法で吹き飛ばされる覚悟もした。
カミーユは、嫌な相手からキスされて我慢できるような性格はしていない。
けれど……無理矢理唇を奪った俺に向けて、彼女が攻撃魔法を放つことはなかった。
期待して、良いだろうか……? ロイス殿下に対する三分の一くらいはこちらに気持ちを向けてくれているのだろうか……?
「んむぅ、アシルぅ」
涙目になったカミーユは、キスの合間に懇願するように俺に目を向ける。そんな目で見られてもやめる気はないけれど、兎耳も相まってなんだか小動物を虐めている気分になってきた。
唇を離すと、途端に彼女はゼーハーと全力で呼吸する……嫌がっている訳ではなく、単純に酸素不足だったようだ。
「窒息するかと思った!」
恨みがましげに、こちらをジト目で見つめるカミーユ。
そんな彼女に、俺は満面の笑みで言葉を返した。
「じゃあ、窒息しないようなキスの仕方を教えてあげる。ちょっとここで練習してみようか?」
「へ……!? 違っ……そういう意味じゃなくて……っ」
墓穴を掘ったと慌てるカミーユの襟首を引っ掴み、俺は彼女を自室の奥へと引きずって行ったのだった。
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白い壁に囲まれた中庭で、十三人の生徒達が宙に魔法陣を描いている。ハートクラスの生徒達だ。
魔法陣から、指定した箇所に雪を降らせるという氷魔法の応用の授業だった。
生徒達が描いた魔法陣からは、キラキラと小さな雪の結晶が周囲に降り注いている。
「ふへー、もう終わっちゃったよ」
カミーユはあくびをしながら、小指の先で魔法陣を書いたり消したりしていた。
今は、魔法の実技授業の時間なのだが……この魔法オタクは、授業で習う範囲の魔法をほとんど独学で覚えてしてしまっている。
ついでに、彼女から直接魔法を教えてもらっている俺や殿下も、このレベルなら簡単に実行出来てしまうのだ。
暇を持て余したカミーユが、魔法陣で教師の似顔絵を描き始めた。慌てて止める。
見つかれば、罰としての余計な課題を増やされかねない。婚約者になった俺とカミーユの時間が課題に奪われるなんて、まっぴらだった。
魔法実習の授業は、俺にとってカミーユの監視の時間と化していた。
※
続いて、魔法薬の授業だ。
王立魔法学園では、「青」の魔法使い達のように、新しい魔法の研究や開発が行われている。
魔法薬の分野では、城よりも進んでいるかもしれない。方向性が、実用的ではないだけで……
「では、これから頭の上に理想の耳を生やす薬を作ります」
魔法薬担当の教師が、魔法で黒板に説明を描く。もはや、何の用途で使われる魔法なのか、意味不明だ。
「ふんふん。生やしたい耳を思い浮かべて薬を飲むのか……変わった実験だね」
カミーユは、興味津々の様子だった。俺は、できれば遠慮したい。
ガラス瓶の中身を混ぜ合わせ、魔法植物を加え、動物の皮を加えて煮詰める。混ぜ合わせる際にも、複数の魔法を使った。
そうしてできた液体は、不気味な血の色をしている。
「飲むのは任意だってさ。僕は遠慮しておこうかな」
殿下は、嫌そうに魔法薬の小瓶を振りながら苦笑いした。俺も、彼と同じ気持ちだ。
大半の生徒達が、不気味な色の魔法薬を飲むのを躊躇っている。
だが、そんな状況の中、あっさりと瓶の中身を飲み下した猛者がいた。勿論、カミーユだ。
止める間もなかった……
「まっずーい! 苦い!」
盛大に顔を顰めながら瓶の中身を全部飲み干した彼女は、ケロッとした顔で味の感想を述べる。
「ん? 頭に……違和感が」
異物感を感じて頭をさするカミーユからは、二本の長い耳がニョキリと生えていた。
白くてフワフワの兎の耳だ。
「カミーユ! 耳が! 真っ白なウサミミが生えてるよ!」
ロイス殿下が、焦った様子でカミーユの頭上を指差したが、当の本人は生えた耳を掴んで左右に動かし、冷静に状況確認している。
「おお、兎耳。成功したかな」
しかも、若干嬉しそうだ。
「アシルー? どうどう? カッコイイ?」
フワフワの耳をくっ付けたカミーユが、上機嫌な様子で俺の方を振り返る。
なんだ、この可愛い生き物は……! 今すぐ、部屋に持ち帰りたい……!
俺は、授業中だというのに、よからぬ衝動に駆られた。
そのくらいカミーユの兎耳は、異様に似合っていたのだ。
付近では、カミーユの兎耳を目の当たりにした女子生徒達が、我先にと猫耳やら犬耳を生やし出す始末。彼女達の場合は、あざとい下心からだろうけれど……
魔法薬の教室は、今や異様な空気に包まれていた。
「カミーユ、おいで?」
実験結果をノートに纏めているカミーユを手招きすると、彼女は笑顔で俺の方に駆けてきた。本当に、どうしてくれようか。
フワフワの彼女の兎耳を、そっと撫でてみると、カミーユはくすぐったそうに身じろぎする。
「アシル……耳はやめて」
カミーユは、耳が弱い。実験で生えてきた兎耳も例外ではないようだ。
「いいじゃん、減るもんじゃないでしょう?」
「減る! 耳は駄目!」
顔を真っ赤にして抗議するカミーユは、耳を触られてプルプルと小動物のように震えていた。
「……可愛い」
「ぐほっ!」
そのままカミーユを抱きしめて、その髪を撫でる。令嬢らしからぬ声を発しているのはいつものことなので、スルーした。
カミーユは、最近俺のことを意識し始めてくれているようだ。俺を前に、よく顔を真っ赤にしたり、落ち着き無さげにモジモジしている。
既にカミーユには、俺の気持ちを伝えてある。
あと、もう一押し……そんな気がした。
魔法薬の授業が終わっても、カミーユや他の女子生徒の耳はそのままだった。半日間は、効果が続くそうなのだ。
あの液体を飲まなくて良かったと心底安堵する。
今日の授業はこれで終了なのでハートクラスの寮に向かおうとしたのだが、隣にいたカミーユが不意にあらぬ方向へと歩き出した。
「カミーユ? 寮に戻らないの?」
「アシル、先に戻ってて。面白いから、ベアトリクスに見せてくる!」
「ちょ……!」
ベアトリクスというのは、最近カミーユが仲良くなった他国の令嬢らしい。彼女の数少ない女友達でいてくれるありがたい存在だ。
けれど、俺は慌てて彼女を止めた。こんな可愛らしい姿で他のクラスを歩き回って……何かあったらどうする気なんだ!
特に、カミーユに気のある隣国の王子がいるダイヤクラス周辺なんて、最も危険地帯だというのに!
「待って、カミーユ。ダイヤクラスは今日は、課外授業だったはずだよ。まだ戻ってないんじゃない?」
事実だ。嘘は言っていない。
ダイヤクラスは、今日は課外授業という名目で城下に出ているはずだ。戻ってきているかまだなのかは知らないが……
「そう言えば、そうだったかも? まだ戻ってないのかなあ……?」
カミーユは、やや気落ちした様子で素直にハートクラスの寮へと方向転換した。
帰りに廊下ですれ違ったクローバークラスの生徒の何人かが、カミーユをガン見していた。全員、男だ。
「あはは、兎耳が珍しいんだねー!」
……違うと思う。現に、他の女子生徒も獣耳な訳だし。
カミーユは、そっち方面の危機感が圧倒的に欠如しているのだ。
俺は彼女の手を引っ張って、寮へと誘導する。これ以上、彼女の可愛らしい姿を他の生徒に見せたくなかった。
一応、婚約者なんだから……これぐらいは許されるよね?
俺達の前方では、殿下がこちらを見ながら肩を震わせて笑っていた。
※
サラサラの白い毛皮は、ベロアのような質感で指に馴染む。
教室から寮へ戻った後、俺はカミーユを自室へ連れ込んだ。そのまま、彼女を壁際に追い詰めて今に至る。
「はうう……アシル。だから、耳はやめてって」
「あと数時間で消えてしまうんだから……少しだけ触らせて? 駄目?」
じっと見つめていると、カミーユは観念した様子で床にしゃがみ込んだ。少しならオーケーらしい。
彼女の隣に座って、兎耳をそっと撫でる。
「ふわふわで気持ちいい……」
「……そんなに気に入ったの? アシル」
「うん。ああいう授業内容も、たまにはいいかもね」
「そうかな……って。あ、あの、アシル? ちょっと近くない? その、あの、はむっ……ん」
気付いたら……カミーユの可愛らしい唇を塞いでしまっていた。
彼女はビクリと硬直している。
けれど、抵抗はしない。大人しく、されるがままになっている。
初めてカミーユにキスした時、念のため警戒した。魔法で吹き飛ばされる覚悟もした。
カミーユは、嫌な相手からキスされて我慢できるような性格はしていない。
けれど……無理矢理唇を奪った俺に向けて、彼女が攻撃魔法を放つことはなかった。
期待して、良いだろうか……? ロイス殿下に対する三分の一くらいはこちらに気持ちを向けてくれているのだろうか……?
「んむぅ、アシルぅ」
涙目になったカミーユは、キスの合間に懇願するように俺に目を向ける。そんな目で見られてもやめる気はないけれど、兎耳も相まってなんだか小動物を虐めている気分になってきた。
唇を離すと、途端に彼女はゼーハーと全力で呼吸する……嫌がっている訳ではなく、単純に酸素不足だったようだ。
「窒息するかと思った!」
恨みがましげに、こちらをジト目で見つめるカミーユ。
そんな彼女に、俺は満面の笑みで言葉を返した。
「じゃあ、窒息しないようなキスの仕方を教えてあげる。ちょっとここで練習してみようか?」
「へ……!? 違っ……そういう意味じゃなくて……っ」
墓穴を掘ったと慌てるカミーユの襟首を引っ掴み、俺は彼女を自室の奥へと引きずって行ったのだった。
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