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番外編
初めての脱走 ハートのQ(前)
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子供編~「アシル&ロイス初対面」から「ロイス暗殺未遂事件in城下街」
までの間にあった話です。
********************************************
掃除用具入れから引っ張り出してきた箒を片手に、自室の窓枠に足を掛ける。
見上げた冬の空は澄み渡っており、いい天気だった。
「今日こそ、一人で街へ行ってやるんだからね!」
この世界へ来て初めての誕生日を迎えたばかりの私は、兼ねてからの計画を実行することにしたのだ。
街へ遊びにいくのである。
過去に、勝手に邸の外へ出ようとして父に怒られてことがあったが……今日は彼は仕事だ。
邸の中で閉じこもって生活するのは飽きてきた。ここいらで、行動範囲を広げてみよう——という訳である。
それ程遠くへ行く気はない。王都の中を見て回るだけだ。
そのくらいならばきっと、私一人でも問題ないだろう。
「さってとー! 行きますか!」
大空へ向かって、いざ飛び立たん……と言う時に、背後で部屋の扉が開いた。
「カミーユ……何しているの?」
そこには、遊びにきたのであろうアシルと、彼を案内したエメが唖然とした表情で立っていた。
「えーっと、飛ぶ練習? アシル、今日は遊ぶ約束していたっけ?」
「侯爵様に頼まれたんだよ。カミーユが暇しているから、勉強を教えてやってくれってね」
「ああ……そういうことね」
ひとまず、窓枠から部屋に降り立った私は、アシルに話を持ちかけることにする。彼も、どうせ暇なのだろう。子爵家に居づらくて、父の誘いに乗ってこちらへ逃げてきたと思われる。
アシルを部屋に送り届けたエメは、二人分のお茶とお菓子を用意すると仕事に戻っていった。
「ねえねえ、アシル。ちょっと街に出てみない!?」
「……何を言い出すのかと思えば。さっきも、脱走する気だったの?」
察しの良いアシルは、今の話だけで先程の私の行動を理解したようだ。
「脱走じゃないよ? お出かけだよ?」
「一緒じゃん。侯爵令嬢が、一人で街に出るだなんて……何かあったらどうするの!?」
「何もないよ~」
「悪い大人だっているんだよ? 俺は、そういう奴を沢山知ってる」
「私も知ってるよ~」
なんせ、元は女子高校生だからね。
アシルの「知っている」は、孤児院時代の話かな。確かに、アシルがいたという孤児院周辺の治安は悪いらしい。
「でも、今日行く予定の場所は、街の中心だってば。危なくないよ?」
「行ったことがない場所なのに、どうして危なくないと言いきれるの?」
ぐぬぬ、アシルめ。子供のくせに……! 私を論破するなんて、生意気な!
「ちっ、今日のところは諦めるか……」
「……心配になってきた」
「何が?」
「カミーユ……今日は諦めても、どうせ俺のいない時に邸を抜け出す気だろ?」
「そうだけど……?」
邪魔が入らない時に、日程変更するつもりだ。
そう答えると、アシルはあからさまな溜息をついた。
「それなら、今日、同行しておいた方がマシかもしれない。カミーユを一人で街に行かせるのは不安すぎる」
「……ん? 一緒に街まで行ってくれるってこと?」
私は、顔を輝かせた。
街遊び経験者がいるのは、とっても心強い。たとえ、それが生意気な幼児であっても。
「仕方ないね。俺なら、城下をうろついたことがあるから、大体の地理は分かるし」
と、アシルは子供らしからぬあくどい表情で目を細めた。
「本当!? 案内してくれるの?」
なんという、ありがたい申し出!
私は、早速アシルの提案に乗っかることにした。
「でも、問題があるよ。俺達が突然いなくなったら、使用人達が心配すると思うんだ……」
「そこは問題ない! 目くらましの魔法を習得したから!」
私は、自室のベッドに上がり、近くにあったクッションやブランケットを一カ所に固めて、魔法を掛けた。
「それが、目くらまし?」
「幻を見せる魔法なんだ。他の人には、私とアシルが昼寝しているように見えるよ」
アシルはちょっと複雑な顔をしたけれど、異論はないようだ。
大人しく頷くと、私に手を取られながら素直に窓枠まで歩いた。
「それじゃ、行こっか!」
私は、アシルの手を引っ張って箒に乗せると、窓枠から一気に飛び降りた。
までの間にあった話です。
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掃除用具入れから引っ張り出してきた箒を片手に、自室の窓枠に足を掛ける。
見上げた冬の空は澄み渡っており、いい天気だった。
「今日こそ、一人で街へ行ってやるんだからね!」
この世界へ来て初めての誕生日を迎えたばかりの私は、兼ねてからの計画を実行することにしたのだ。
街へ遊びにいくのである。
過去に、勝手に邸の外へ出ようとして父に怒られてことがあったが……今日は彼は仕事だ。
邸の中で閉じこもって生活するのは飽きてきた。ここいらで、行動範囲を広げてみよう——という訳である。
それ程遠くへ行く気はない。王都の中を見て回るだけだ。
そのくらいならばきっと、私一人でも問題ないだろう。
「さってとー! 行きますか!」
大空へ向かって、いざ飛び立たん……と言う時に、背後で部屋の扉が開いた。
「カミーユ……何しているの?」
そこには、遊びにきたのであろうアシルと、彼を案内したエメが唖然とした表情で立っていた。
「えーっと、飛ぶ練習? アシル、今日は遊ぶ約束していたっけ?」
「侯爵様に頼まれたんだよ。カミーユが暇しているから、勉強を教えてやってくれってね」
「ああ……そういうことね」
ひとまず、窓枠から部屋に降り立った私は、アシルに話を持ちかけることにする。彼も、どうせ暇なのだろう。子爵家に居づらくて、父の誘いに乗ってこちらへ逃げてきたと思われる。
アシルを部屋に送り届けたエメは、二人分のお茶とお菓子を用意すると仕事に戻っていった。
「ねえねえ、アシル。ちょっと街に出てみない!?」
「……何を言い出すのかと思えば。さっきも、脱走する気だったの?」
察しの良いアシルは、今の話だけで先程の私の行動を理解したようだ。
「脱走じゃないよ? お出かけだよ?」
「一緒じゃん。侯爵令嬢が、一人で街に出るだなんて……何かあったらどうするの!?」
「何もないよ~」
「悪い大人だっているんだよ? 俺は、そういう奴を沢山知ってる」
「私も知ってるよ~」
なんせ、元は女子高校生だからね。
アシルの「知っている」は、孤児院時代の話かな。確かに、アシルがいたという孤児院周辺の治安は悪いらしい。
「でも、今日行く予定の場所は、街の中心だってば。危なくないよ?」
「行ったことがない場所なのに、どうして危なくないと言いきれるの?」
ぐぬぬ、アシルめ。子供のくせに……! 私を論破するなんて、生意気な!
「ちっ、今日のところは諦めるか……」
「……心配になってきた」
「何が?」
「カミーユ……今日は諦めても、どうせ俺のいない時に邸を抜け出す気だろ?」
「そうだけど……?」
邪魔が入らない時に、日程変更するつもりだ。
そう答えると、アシルはあからさまな溜息をついた。
「それなら、今日、同行しておいた方がマシかもしれない。カミーユを一人で街に行かせるのは不安すぎる」
「……ん? 一緒に街まで行ってくれるってこと?」
私は、顔を輝かせた。
街遊び経験者がいるのは、とっても心強い。たとえ、それが生意気な幼児であっても。
「仕方ないね。俺なら、城下をうろついたことがあるから、大体の地理は分かるし」
と、アシルは子供らしからぬあくどい表情で目を細めた。
「本当!? 案内してくれるの?」
なんという、ありがたい申し出!
私は、早速アシルの提案に乗っかることにした。
「でも、問題があるよ。俺達が突然いなくなったら、使用人達が心配すると思うんだ……」
「そこは問題ない! 目くらましの魔法を習得したから!」
私は、自室のベッドに上がり、近くにあったクッションやブランケットを一カ所に固めて、魔法を掛けた。
「それが、目くらまし?」
「幻を見せる魔法なんだ。他の人には、私とアシルが昼寝しているように見えるよ」
アシルはちょっと複雑な顔をしたけれど、異論はないようだ。
大人しく頷くと、私に手を取られながら素直に窓枠まで歩いた。
「それじゃ、行こっか!」
私は、アシルの手を引っ張って箒に乗せると、窓枠から一気に飛び降りた。
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