ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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番外編2

デジレの恋(エリク3)

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 しばらくすると、副長官は俺の家に出入りするようになった。
 勢いに乗った彼を止める術はない。
 母も母で、副長官を完全に愛してしまっている。

 母は幼くして父に嫁ぎ、恋愛も知らないままに俺を産んだ。
 彼女は遅くに芽生えた強い恋心に、抗えないようだった。

 父は老齢で寝たきり、病床にある。
 だが彼は、頻繁に見舞いに訪れる親戚の女性と恋愛関係にあった。
 母も薄々勘付いている。
 
(うちの父親もあんなのだし、副長官の所業をどうこう言えないかもしれないな)

 どうしたらいいのかわからないまま、俺は一人で溜息をついたのだった。

 父親違いの弟と妹が出来たのは、その少しあとのこと。
 母に何してくれているんですか、副長官!



 しばらく経ったある日……
 魔法棟周辺で、水色の髪の少女がうろうろしていた。
 誰かを探しているようだ。
 
 魔法棟には東棟へ繋がる廊下に面した入口と、王宮の庭に繋がる入口がある。
 彼女は、庭側の入口付近で立ち止まり、ゆっくりと魔法棟を見上げた。
 薔薇が咲き誇る庭に、ふわんと膨らんだドレス姿の彼女が立つと、とても絵になる。

「あの、誰かをお探しですか?」

 困っているみたいだったので、その子に声を掛けてみる。
 すると、彼女は驚いたように俺の方を振り返った。
 控えめで、賢そうな顔立ちの少女だ。
 
(どこかの貴族の令嬢ですね。年はカミーユくらいかな)

 少女は、戸惑った様子で俺を見つめる。

「ええ。あの、魔法棟の副長官にこれを渡したいのですが、どこにいるのかわからなくて。あなた、ご存じないかしら」

 ……副長官かよ!!
 俺は、目を丸くして彼女を見た。
 
 本当に、副長官の女癖には呆れるばかりだ。
 母という女性がいながら、あの上司はこんな少女にも手を出しているのか!

「副長官でしたら、今は城の外に出ております」
「あーっ! デジレー!?」

 俺の話を遮るように、頭上から声がふってくる。
 人が話をしている最中に、こんな行動に出るのは奴しかいない。
 カミーユだ。
 
 奴は巨大化した羽ペンに跨がり、俺の頭上をブンブン飛び回っていた……

「あ、あら? カミーユ!?」

 令嬢はカミーユの知り合いでもあるようだった。

(待てよ)

 ……俺は、デジレという名前に聞き覚えがある。
 彼女は副長官の女ではなく、彼の娘だったのだ。

 失礼なことを思ってしまったと、密かに心の中で反省する。
 デジレという少女は、副長官にあまり似ていなかった。

「どうしたの? ソレイユに用事?」
「そうなの。お父様に領地関連の書類を持って来たのだけれど、留守みたいね」
「確か、魔法棟支部に出張中だったと思う。よければ、預かっておこうか?」

 カミーユが提案すると、デジレは少し微笑んで頷いた。

「ええ、お願いしようかしら。もし、お兄様に会うようだったら、押し付けてくれて構わないわ」
「アシルなら、いつも魔法棟に顔を出しているし、今日も来るんじゃないかなぁ?」

 カミーユの言うとおり、彼女の婚約者であるアシルは、頻繁に魔法棟に出入りしていた。
 彼自身もかなりの魔法の使い手ということもあり、「もう魔法棟のメンバーに入れといていいんじゃないか」という声まで出ている始末。
 
 もちろん、彼の目的は目の前の人外……カミーユなのだが。
 彼女は、恋愛方面に鈍すぎる。

「デジレ。折角来たんだし、上がっていきなよ」
「え、でも、仕事中じゃないの?」
「大丈夫! 私は遠征帰りだから、あと半日は休憩取り放題なの!」
「じゃあ、お言葉に甘えて。あの、そこの方……ご親切にありがとうございました」

 俺にぺこりとお辞儀をすると、デジレはカミーユの羽ペンの後ろに腰掛け、窓から魔法棟へ入っていった。
 
(……可愛いかったな)
 
 いつも人外ばかり目にしているから、普通の女性を見るのは新鮮だった。
 魔法棟勤務の女性魔法使いは、カミーユ以外も癖の強い変わり者ばかりなのだ。

(それにしても、あんな若い令嬢が有名なブランドを立ち上げたなんて。すごいな)
 
 俺は、デジレという令嬢に好感を持った。
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