侯爵様に婚約破棄されたのですが、どうやら私と王太子が幼馴染だったことは知らなかったようですね?

ルイス

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18話 アーロン・クラウス元侯爵 その1

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「さあ、何とか言ったらどうなんだ! 侯爵殿!」

「ビクティム様! 先ほどの発言は一体、どういうつもりなんですか!?」


「くく……!!」


 罵声とでも言えばいいのだろうか……私自身も信じられないけれど、現在、ビクティム侯爵はそれに晒されている。通常ではあり得ない光景だ。

 私やダンテ兄さま、フューリなどが彼に罵声を浴びせるならともかくとして、今までは自分を擁護してくれていた貴族たちから、そのような言葉を浴びせられる気持ちはどんな気分なんだろうか?


 おそらく、理不尽な婚約破棄をされた私と同等以上の精神状態になっていると思われる。


「あれは、レオーネ嬢じゃないか? ダンテ・ルヴィンス殿の姿もあるぞ!?」

「おお、まさかパーティー会場にいらしているとは……なんという勇気だ。あんな悪辣な人物の姿など、二度と見たくないであろうに……!」

「尊敬するわ、レオーネ嬢……」


 なんだかよくわからないけれど、私への好感度が上がっているように感じられた。私は特に何もしていない……ただ、ビクティム・クラウス侯爵に婚約破棄をされただけだ。1人でだったら、絶対にパーティーに参加なんて出来なかっただろうし、周りの方々に恵まれていただけ。

 フューリの方向に目をやると、微かに彼は笑っていた。もしかしたら、私への評判が上がることも計算していたんかもしれない。ビクティム侯爵に惨めに婚約破棄をされた、ルヴィンス家の令嬢から婚約破棄という蔑みを受けてもなお、自らの責務を全うする優秀な人物へと昇格したのかもしれない。

 周囲からの評判って少しのことで変わるわね……その人の行動次第で特に。その反面教師になる相手は現在、目の前に居た。


「くうっ……! 黙れ、お前たち!!」


 ビクティム侯爵は周りの貴族たちに大声を上げ、自らの叱責を強制的に遮断した。


「ビクティム侯爵……」


「私は……私はただ、上に行こうとしただけだ! 我がクラウス家の教えを忠実に守っただけ……メリア王女と婚約したのも、確実に上に行けるという算段の元だった! それなのに、なぜ私がここまで言われなければならんのだ!? お前たちもやっていることは変わらんだろうが! より強い権力を持つ為に、私に……我がクラウス家に擦り寄って来たくせに……今まで、何人の人物を蹴り落してきたんだ!? 清廉潔白の賢者など、この世に居るものか!!」


 心の中に溜め込んでいた鬱憤を全て吐き散らかしたような、酷い言葉を聞いたような気がする。今の言葉で、何人の人がビクティム侯爵を許すだろうか……? 周囲の貴族は罵声こそ無くなったけど、彼を見る目つきは一層、強力になっていた。


「清廉潔白……とまではいかなくとも、貴殿のように身勝手に婚約破棄をして、隣国の王女と勝手に婚約なんてする馬鹿は珍しいさ」

「馬鹿……この私が……?」


「ああ、端的に言っても、オブラートに包んだとしても……馬鹿という言葉以外は出て来ないな」


 内容的にはもっと穏便に事を済ませられていたはず……フューリはそのように考えているのだと思う。私も全く同意見だ。これでは、なぜ私に対してあんな態度を取ったのか分からない。普通に、別に好きな人が出来たので別れてほしいという趣旨で良かった気がする。


 結局のところ、ビクティム・クラウス侯爵の決して引けないプライドが、破滅をもたらしたということね。


「ビクティム……! もう、これ以上、恥をかかせないでくれ……!!」


「……? 父上……!?」


 まさかのタイミングでの登場と言えるだろうか。入口から入って来た人物それは……ビクティム侯爵の父親であり、元侯爵の座に就いていたアーロン・クラウス様だった。


 流石のフューリもこの展開は予想していなかったのか、開いた口が塞がっていなかった……。



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