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チェスターとオフィーリアは仲睦まじく、結婚後まもなくオフィーリアは懐妊した。生まれたのは元気な男の子。黒髪に碧眼。両親の特徴を引き継いだかわいい子だ。フィンズベリー家は待望の跡取り誕生に大いに沸いた。名前は『スチュアート』と、チェスターが名付けた。
執務のほとんどをチェスターたちに任せて、私は郊外の別荘に隠居している。たまに、オフィーリアがスチュアートを連れて、こちらに静養に来る。彼女は元王女らしく教養があり、博識だが、それを驕ることはない。とても清廉な人だ。話していてとても楽しい。本当に良い嫁に恵まれた。
チェスターは初恋を諦めなかった。だから積み上がる釣書に目もくれず、社交界も必要以上に令嬢たちと接することをしなかった。
庭に咲く白百合が風に揺れる。思えば、私にも初恋があった。初恋の彼とは、よくこの別荘の庭で遊んだ。あの白百合の花を一輪を摘んで、「グレースに似合いそう」だと、私の頭につけてくれたっけ。彼と笑い合った日々を思い出して、ほほえみがこぼれる。人生で最もきらきらして、そして一番美しい時間だった。
彼は、貴族として平凡な私の茶色の髪も、緑色の瞳も美しいと言ってくれた。髪はミルクティー、瞳はエメラルドのようだと褒めてくれた。夫だったクライブはただの一度も私の容姿を褒めてくれたことがなかった。
「おばあちゃま!」
振り返ると、孫のスチュアートが駆け寄ってきた。
「あらまあ、スチュアート。」
「スチュアート、お行儀が悪いですよ。」
オフィーリアが慌てて追ってきた。
「ふふ。男の子は少し元気な方がよろしくてよ。オフィーリアさんこそ、気をつけて。今のあなたは1人じゃないんですから。」
「ええ。お義母さま。いつもお気遣いありがとうございます。」
オフィーリアは現在第2子を身ごもっている。だから少しのんびりできるように、こちらに招待したのだ。
「――そういえば、オズボーン子爵の子と、スチュアートを遊ばせているそうね。」
一瞬、オフィーリアがぎくりと、表情を崩した。
「いえ、悪いと言っているわけではないの。ただ――ありがとうね。」
結論から言えば、クライブはクレアに逃げられた。思った通り、田舎生活と朴念仁の夫に耐えきれず、若い使用人と駆け落ちした。――息子のロイドを置いて。
その話を聞いたオフィーリアが、ロイドを心配して、度々オズボーン家に顔を出している。クライブと私はもう他人。彼も彼の息子もフィンズベリー家の人間ではないが、チェスターからすれば実父、そして弟だ。その妻が彼らを気にかけるのは、ある意味当然なのかもしれない。
「すみません。出過ぎた真似を。はじめは、ただスチュアートを連れて、挨拶に伺ったんですが、オズボーン子爵は子どものことに興味がないようで。ロイド君、とってもさみしそうにしているんです。うちのスチュアートもお友達ができて喜んでいるので、つい。」
「ロイドは、大事なおともだちだよ!」
スチュアートが口を挟んできた。意志の強いところがチェスターによく似ている。
「ふふ。あの人は、私との子育ても、ろくに協力しなかったから、突然子育てをしろと言われても、子どもとの向き合い方が分からないのでしょうね。あの人がいいというなら、今度ロイドもこちらにも連れてきなさい。スチュアートのお友達なら、私も大歓迎よ。」
「わーい。おばあちゃま、ありがとう!ロイドつれてくるね。」
私と初恋の彼が小さな恋をはぐくんだこの庭で、数年後にはスチュアートにロイド、そしてオフィーリアのお腹の子が駆け回るようになる。時の移り変わりは早いものだ。
執務のほとんどをチェスターたちに任せて、私は郊外の別荘に隠居している。たまに、オフィーリアがスチュアートを連れて、こちらに静養に来る。彼女は元王女らしく教養があり、博識だが、それを驕ることはない。とても清廉な人だ。話していてとても楽しい。本当に良い嫁に恵まれた。
チェスターは初恋を諦めなかった。だから積み上がる釣書に目もくれず、社交界も必要以上に令嬢たちと接することをしなかった。
庭に咲く白百合が風に揺れる。思えば、私にも初恋があった。初恋の彼とは、よくこの別荘の庭で遊んだ。あの白百合の花を一輪を摘んで、「グレースに似合いそう」だと、私の頭につけてくれたっけ。彼と笑い合った日々を思い出して、ほほえみがこぼれる。人生で最もきらきらして、そして一番美しい時間だった。
彼は、貴族として平凡な私の茶色の髪も、緑色の瞳も美しいと言ってくれた。髪はミルクティー、瞳はエメラルドのようだと褒めてくれた。夫だったクライブはただの一度も私の容姿を褒めてくれたことがなかった。
「おばあちゃま!」
振り返ると、孫のスチュアートが駆け寄ってきた。
「あらまあ、スチュアート。」
「スチュアート、お行儀が悪いですよ。」
オフィーリアが慌てて追ってきた。
「ふふ。男の子は少し元気な方がよろしくてよ。オフィーリアさんこそ、気をつけて。今のあなたは1人じゃないんですから。」
「ええ。お義母さま。いつもお気遣いありがとうございます。」
オフィーリアは現在第2子を身ごもっている。だから少しのんびりできるように、こちらに招待したのだ。
「――そういえば、オズボーン子爵の子と、スチュアートを遊ばせているそうね。」
一瞬、オフィーリアがぎくりと、表情を崩した。
「いえ、悪いと言っているわけではないの。ただ――ありがとうね。」
結論から言えば、クライブはクレアに逃げられた。思った通り、田舎生活と朴念仁の夫に耐えきれず、若い使用人と駆け落ちした。――息子のロイドを置いて。
その話を聞いたオフィーリアが、ロイドを心配して、度々オズボーン家に顔を出している。クライブと私はもう他人。彼も彼の息子もフィンズベリー家の人間ではないが、チェスターからすれば実父、そして弟だ。その妻が彼らを気にかけるのは、ある意味当然なのかもしれない。
「すみません。出過ぎた真似を。はじめは、ただスチュアートを連れて、挨拶に伺ったんですが、オズボーン子爵は子どものことに興味がないようで。ロイド君、とってもさみしそうにしているんです。うちのスチュアートもお友達ができて喜んでいるので、つい。」
「ロイドは、大事なおともだちだよ!」
スチュアートが口を挟んできた。意志の強いところがチェスターによく似ている。
「ふふ。あの人は、私との子育ても、ろくに協力しなかったから、突然子育てをしろと言われても、子どもとの向き合い方が分からないのでしょうね。あの人がいいというなら、今度ロイドもこちらにも連れてきなさい。スチュアートのお友達なら、私も大歓迎よ。」
「わーい。おばあちゃま、ありがとう!ロイドつれてくるね。」
私と初恋の彼が小さな恋をはぐくんだこの庭で、数年後にはスチュアートにロイド、そしてオフィーリアのお腹の子が駆け回るようになる。時の移り変わりは早いものだ。
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