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それからしばらくして、政変の速報が新聞をにぎわせた。チェスターが留学していた隣国でクーデターが起こったのだ。王家の不正が次々と内部告発されたのが契機になった。王は処刑され、王弟が王位を継いだ。
本来なら、我が王室の第二王女は隣国の王太子妃として嫁ぐはずで、その妃教育のためにすでに隣国へ渡っていた。だが、その縁談もついに白紙となった。もともと隣国側の都合で幾度となく延期されていたものだ。王女はすでに20歳を過ぎている。これから新たな縁談を探すのは、容易ではないだろう。他人事ながら不憫に思った。
「母さん、今度紹介したい人がいるんだ。」
「紹介したい人?……まさか、あなたまでクライブのように愚かな真似をするつもりじゃないでしょうね。」
「安心して。この話はうちの家にとっても大きな利になるはずだよ。」
「……本当に?」
結局、内密に進めている話だからと言われて、親なのにこれ以上詳しくは教えてもらえなかった。
後日、チェスターに連れて行かれた先は、なんと王城だった。きらびやかな広間に通され、大ぶりのシャンデリアが燦然と輝く様に、思わず息をのむ。やがて姿を現したのは、緩やかに巻かれた銀髪に深い海のような碧眼の女性。最近、新聞で姿絵を拝見したことがある。第二王女・オフィーリア殿下、その人だ。
「フィンズベリー元侯爵夫人、このたびはわざわざお越しくださり、ありがとうございます。第二王女・オフィーリアと申します。本来ならば私が伺うべきところですが、このような身の上ゆえ自由が利かず、どうかお許しくださいませ。」
まさか王女に頭を下げられるなど思いもよらず、私はただ困惑するばかりだった。
「母さん、実はオフィーリア様に我が家へ降嫁していただこうと思っているんだ。」
「な、何ですって……?あなた、一体どこでそのようなご縁を?」
突然のことに、さすがの私も混乱した。いきなり息子が結婚したい相手として王女を紹介してくるとは。
「ああ、もちろん留学中さ。オフィーリア様と隣国の王太子の婚約はもともと風前の灯火だった。王太子は、自国の令嬢を恋人として囲って、オフィーリア様に見向きもしなかった。それにクーデターも時間の問題と言われていた。もし婚約が解消されるなら、一緒になろうって、そう約束していたんだ。」
「あっ、あらそうだったの。それで陛下は、なんと仰ってますの?」
「ええ。もちろん相談しておりますわ。陛下は私に苦労をさせた、相手は好きに決めなさいと仰せになっています。私がフィンズベリー家の名前を出したら、とても喜ばれました。ささやかではありますが、私の降嫁に当たって、持参できるものも整えております。」
そう言うと、オフィーリア様はにこりと微笑まれた。
顔合わせの後、すぐに王命が下り、第二王女オフィーリア殿下のフィンズベリー家への降嫁が発表された。それに伴い、フィンズベリー侯爵家は公爵位に陞爵を賜り、領地も拡大した。チェスターはかつてないほど生き生きと政務に取り組むようになった。
結婚式は王城で、盛大に執り行われた。あの冷徹無比と知られる陛下が、嫁ぎゆく娘を前に涙をこぼされたのが印象的だった。二人は出会ったときから惹かれ合い、初恋同士だったとのこと。ずっと時機や政局を見計らっていたのだろう。我が息子ながら、その執念と抜け目のなさに感心した。
オズボーン子爵家もフィンズベリー家側のゲストとして呼んだ。クライブはもはやフィンズベリー家の人間ではないから、分家と同じ序列で参列してもらった。クライブは息子の晴れ舞台だというのに憔悴した顔をしているし、クレアは常に不満が顔に張り付いたような表情だった。ただ2人の子どもであるロイドは、天使のようにかわいらしかった。
本来なら、我が王室の第二王女は隣国の王太子妃として嫁ぐはずで、その妃教育のためにすでに隣国へ渡っていた。だが、その縁談もついに白紙となった。もともと隣国側の都合で幾度となく延期されていたものだ。王女はすでに20歳を過ぎている。これから新たな縁談を探すのは、容易ではないだろう。他人事ながら不憫に思った。
「母さん、今度紹介したい人がいるんだ。」
「紹介したい人?……まさか、あなたまでクライブのように愚かな真似をするつもりじゃないでしょうね。」
「安心して。この話はうちの家にとっても大きな利になるはずだよ。」
「……本当に?」
結局、内密に進めている話だからと言われて、親なのにこれ以上詳しくは教えてもらえなかった。
後日、チェスターに連れて行かれた先は、なんと王城だった。きらびやかな広間に通され、大ぶりのシャンデリアが燦然と輝く様に、思わず息をのむ。やがて姿を現したのは、緩やかに巻かれた銀髪に深い海のような碧眼の女性。最近、新聞で姿絵を拝見したことがある。第二王女・オフィーリア殿下、その人だ。
「フィンズベリー元侯爵夫人、このたびはわざわざお越しくださり、ありがとうございます。第二王女・オフィーリアと申します。本来ならば私が伺うべきところですが、このような身の上ゆえ自由が利かず、どうかお許しくださいませ。」
まさか王女に頭を下げられるなど思いもよらず、私はただ困惑するばかりだった。
「母さん、実はオフィーリア様に我が家へ降嫁していただこうと思っているんだ。」
「な、何ですって……?あなた、一体どこでそのようなご縁を?」
突然のことに、さすがの私も混乱した。いきなり息子が結婚したい相手として王女を紹介してくるとは。
「ああ、もちろん留学中さ。オフィーリア様と隣国の王太子の婚約はもともと風前の灯火だった。王太子は、自国の令嬢を恋人として囲って、オフィーリア様に見向きもしなかった。それにクーデターも時間の問題と言われていた。もし婚約が解消されるなら、一緒になろうって、そう約束していたんだ。」
「あっ、あらそうだったの。それで陛下は、なんと仰ってますの?」
「ええ。もちろん相談しておりますわ。陛下は私に苦労をさせた、相手は好きに決めなさいと仰せになっています。私がフィンズベリー家の名前を出したら、とても喜ばれました。ささやかではありますが、私の降嫁に当たって、持参できるものも整えております。」
そう言うと、オフィーリア様はにこりと微笑まれた。
顔合わせの後、すぐに王命が下り、第二王女オフィーリア殿下のフィンズベリー家への降嫁が発表された。それに伴い、フィンズベリー侯爵家は公爵位に陞爵を賜り、領地も拡大した。チェスターはかつてないほど生き生きと政務に取り組むようになった。
結婚式は王城で、盛大に執り行われた。あの冷徹無比と知られる陛下が、嫁ぎゆく娘を前に涙をこぼされたのが印象的だった。二人は出会ったときから惹かれ合い、初恋同士だったとのこと。ずっと時機や政局を見計らっていたのだろう。我が息子ながら、その執念と抜け目のなさに感心した。
オズボーン子爵家もフィンズベリー家側のゲストとして呼んだ。クライブはもはやフィンズベリー家の人間ではないから、分家と同じ序列で参列してもらった。クライブは息子の晴れ舞台だというのに憔悴した顔をしているし、クレアは常に不満が顔に張り付いたような表情だった。ただ2人の子どもであるロイドは、天使のようにかわいらしかった。
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