初恋にケリをつけたい

志熊みゅう

文字の大きさ
6 / 6

6.

しおりを挟む
 オフィーリアたちは王宮で国賓を招いた大きな晩餐会があるため、一か月ほどの滞在で王都のタウンハウスに帰っていた。出産までは、何かあるといけないので王都で過ごすとのことだった。

 オフィーリアたちが発って、しばらく経ったある初夏の日。私も王都に向かう。今日は1年に1度の大切な日。白百合の花束を手に、王都の外れの墓地に向かう。ひっそりとした丘の上、駆け抜ける風が心地よい。アディントン公爵家の墓石の中に、探していた名前を見つける。

『ヒューゴ・アディントン』

 持参した百合の花を供え、手を合わせる。

「ねぇヒューゴ、私ね、あなたの奥さんのクレアに復讐されちゃったの。でも、クライブも馬鹿よね?クレアに托卵されて逃げられたのよ。どうして長くこじらせた初恋にケリがつくなんて思ったのかしら?」

 ヒューゴと私は幼馴染だった。

 爵位が近い家同士、母たちが仲良くしていた。お互いの別荘を行き来して、一緒に遊んだ。ずっとずっと私はヒューゴと結婚すると思っていた。でも私の母は体が弱く、とうとう私に兄弟ができなかった。お互いに嫡子。結局、私たちが縁づくことはなかった。

 たとえ一緒になれなくても、たまに会って、世間話をするだけでも幸せだった。でも、いつの間にか、私たちはそれ以上に強くひかれあうようになった。

 私はどうしても初恋にケリをつけることができなかった。

 ヒューゴの夜をまとったような黒髪、黒眼、そして物憂げな長いまつ毛が社交界で妖艶だと謳われ、貴族令嬢たちにとても人気があった。クレア嬢はヒューゴと結婚するため、ありとあらゆる手を使った。彼に媚薬を盛って関係を迫ったとも聞いている。

 ヒューゴも、私と結婚できないならば誰でもいいと言って、彼女を選んだ。結婚後、すぐに子が生まれたが、本当の意味で心が通じ合った夫婦だったのか、私には分からない。

 私たちはお互いが結婚した後も、仮面舞踏会やそれぞれの別荘でこっそりと密会を続けた。仮面越しに愛をささやき合ったが、彼が私のことをどう思っていたかは分からないし、知りたくもない。それこそ、ただの都合が良い遊び相手だったのかもしれない。

 さすがに私の子どもたちはクライブの子だと思う。ただ、長男のチェスターだけは大人になるにつれ、クライブにはない妖艶さを纏い、その横顔がヒューゴと被る。――もしかしたらということもあるかもしれない。

「これはこれは、グレース様。今年も来て下さったんですね。」

「ハロルド、お久しぶり。お元気そうで何よりです。今日で、もう7年でしたっけ。」

 ハロルドはアディントン公爵家に長く勤めた執事だ。私たちが幼いときはまだ執事見習いでよく遊んでもらった。

「――ええ。公爵様が亡くなってから、早いものです。」

「アディントン前公爵夫人、いえオズボーン子爵夫人は結局一度もこちらに来られていないのですか?」

「ええ。再婚なさってからは、一度も……。」

「そうですか。」

「あの方はシリルお坊ちゃまにも、会いに来ない薄情な女ですから。」

「それは家を追い出されたのだから、仕方ないのではなくて?ふふ。それに現・アディントン公爵閣下をそんな風に呼ぶのは、あなたくらいよ。シリル様、うちのチェスターとは、兄弟のように仲がいいんだから、またうちにも、ご家族を連れて遊びに来るように伝えてね。」

「そうですね。本当の御兄弟のようです。」

 ハロルドはおそらくすべてを知っている。だけど、何も言わないでいてくれる。まあ明らかになったところで、チェスターが私の子でさえあれば、フィンズベリー侯爵家の継承には影響がない。

「ヒューゴ、いえアディントン前公爵に早く会って話がしたいわ。地獄の門の前で私を待っていてくれるかしら?」

「ええ。きっと。白百合を持って、グレース様を待っていて下さると思いますよ。」

 その時、突風が吹いて、墓前に供えた花の花弁が空を舞った。まるで、「待っているよ」とヒューゴが返事してくれたみたいだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで

木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。 彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。 「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」 婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

わたしに冗談なんて通じません。だから二度と婚約者面なんてしないでくださいね

うさこ
恋愛
特殊な騎士の家で育った私には婚約者がいた。 今思えば、彼は私に好きになれと強要していた。 そんな私は婚約破棄を言い渡されーー ※ざまぁです

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました

よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。 理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。 それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。 さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。

処理中です...