祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄

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宰相の髪の結末

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 ディルカとクロは街道をひたすら歩いている。

 やがて市街地へと差し掛かり、遠くに見える街の輪郭が徐々に鮮明になってきたところだった。

 乗せられてきた馬車はリーネ・メロウの怒りとともに走り去り、その父親であるハグェティル・メロウの馬車に乗ることもなかった。

 だから、ディルカとクロは歩くことを選び何時間もかけて戻っている。

 「それにしても、リーネ嬢の行動は衝撃的だったね。宰相のことも……」

 ディルカがふとつぶやく。

「毛はなくても問題ない」

 クロがさらりと答える。

「たぶん、そういう問題じゃないと思うよ」

 ハグェティル・メロウの頭に生えていた最後の砦が、リーネ・メロウによって陥落させられたのだ。

「そうだろうか?」

 歩みを止めて振り返ったクロの黒い髪が風をはらみ、ふわりと揺れる。

「そうだよ。大事にしていたものがなくなったら悲しいでしょう?」

 クロはディルカをしばらく見つめてから頷いた。

「そうだな」

 同意を得たディルカはホッとしてニコリと微笑む。

「そう思うでしょう? リーネ嬢があんなに熱い人だったなんてね」

「豹変していた」

 思い出したのかクロは一度ため息をつき、ディルカの歩調に合わせて歩き出した。ディルカもそれに続き、二人の足音だけが静かな街道に響く。

「うん、まぁ、そうだね。二人が親子ということも知らなかったから尚更驚いたかな」

 ちらりと聞いた話では、リーネ・メロウはハグェティル・メロウの庶子らしいが、隠されてはいないものの公にもされていなかったようだ。

 正妻との間に子どもがいないからかもしれないが、堅物のメロウ宰相が他に愛する人がいたのだとディルカは少し驚いた。











 時を少し戻すと、ディルカがミハエルと別れた後、拉致された屋敷から立ち去るところで事件は起こった。

 大人しくしていたリーネ・メロウだったが、燻っていた何かが爆発したのか、馬車へと乗り込もうとしていた父親であるハグェティル・メロウの頭へと掴みかかり、ものすごい形相で最期に残った髪を毟り取ったのだ。

 その時のハグェティル・メロウは避けることもできず、驚愕の表情を浮かべて固まっていた。

 周囲の者たちが慌ててリーネ・メロウを引き剥がそうとするが、その力は並大抵ではなく、ついに引き剥がされた彼女は叫んだ。

「そんな戯言でわたくしが納得すると思っていたら大間違いですわよっ! 権力を振りかざす暇があるなら、メイドを……、民を一人でも多く救いなさいよぉーっ!!! 民の苦しみを見て見ぬふりをしているお父様に代わってわたくしがなんとかしてみせますわっ!」

 国を取り仕切る宰相に向かって、啖呵を切った彼女の言葉が周囲に響き渡り、全員が息を呑んだ。

 宰相は大きな衝撃を受けていたのだろう、冷静を装いながらも、

「民を導くために成すべきことを為している。しかし、お前の言葉もまた重い事実であり、手を差し伸べるにしても簡単なことではないだろう。だが、私の毛とて簡単に抜けていいものではなかったはずだ……………」

 と無惨に引っこ抜かれた髪の残骸を眺めながら低くつぶやくのだった。
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