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事の顛末
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ディルカとリーネ・メロウが解放され、屋敷の一階には、素性の怪しい男たちと、お嬢様の元メイドが気絶して縛り上げられている。
そこにはエルダ国の宰相であるハグェティル・メロウの姿もあり、彼は額に汗を浮かべながら、周囲に事の顛末を説明し終えたところだった。
「この者たちは国を転覆させようと企む者の一部で、私たちを始末したあと城を襲撃するところだったというのですか?!」
リーネ・メロウが驚きの声を上げた。
「彼女が危険分子の一人であるとお父様はお気づきだったのですね?! それなのに囮にするだけでなく、わたくしが危険に晒されることを承知の上で召し上げていたとは!」
ハグェティル・メロウは冷静に首を横に振ったが、彼の頭頂部から伸びる1本の茶色の髪は揺れることなくそのままだった。
「エルダ国に仕える者は皆、王の手駒だ。私も含めてな」
「お父様、娘が命の危険に晒されても職務を優先するというのですね」
落胆した様子のリーネ・メロウだったが表情は変わらない。
「当然だな。むしろ己の行動にはすべて責任が伴うと伝えていたはずだ」
宰相であるハグェティル・メロウの声は冷たく、揺るぎなかった。
「わ、わたくしとて責任を持って行動しているつもりですわ」
リーネ・メロウの声は自信のなさからかほんの少し震えている。
「……責任という言葉の重みがまるでわかっていないように感じられるが、まぁいい」
「お父様……」
「お前が無事で良かったと思っている。これでもお前の父親だからな。白の部隊長の迅速な行動のおかげで早く片が付きそうだ。そういえば、彼に縁談の話を持ちかけていたのではなかったか?」
リーネ・メロウはその言葉に反応し、少し喜びを感じた後、悲しそうに言った。
「そうでしたね。でも、二人が特別な絆で結ばれていると知ってしまったのです……そんな二人を無理矢理引き裂くことなんてできませんわ」
二人の花祝紋を見てしまったリーネ・メロウにとっては衝撃的な出来事だった。
そんな殊勝な言葉を口にする娘に対し、ハグェティル・メロウは片方の口元を釣り上げて笑った。
「ほぅ、貴族であろうと権力の前では無力だということを証明してみせようか?」
その横暴とも思える言葉にリーネ・メロウは力なく首を振る。
「そんなことをしたら、二人ともこの国を去ってしまいますわ。女神に選ばれた特別な存在ですもの。災いが降りかかるに違いありません」
「ふむ。私にとっては、目的を達成するための手段に過ぎないのだが、お前の言葉を尊重するとしよう。それでは、白の部隊長」
「はい」
「大事な相手を助け出して安心したことだろう。さらに彼を安心させるためにもう一働きしてもらいたい」
腕に抱いたディルカの寝顔を見て、ミハエルは宰相に肯定の返答をする。
「早速だが、反乱を企てた賊の追撃を命ずる。各拠点はすでに特定され、他の部隊が制圧しているだろう。本拠地の制圧は君に任せたから、本日中に完了の報告をするように」
「はっ」
ミハエルはディルカを抱えたまま敬礼し、即座に命令を受けた。
後ろで控えていたニーレ・カーシュは、想い人を片時も離さない部隊長の姿を見て、糸目をさらに細くさせる。
胸の内では、彼の執着心に恐怖しながらも、執着されている部隊長の想い人に対してエールを送った。
◆
「ディルカ、起きて?」
ディルカは眠りから覚め、周りを見回す。
「うーん、あれ? ミハエル? ここどこだっけ」
「宰相の娘に連れられてきた屋敷だよ。これから帰るところなんだけど、俺は討伐の任務があるからシロと安全な場所で待っていて欲しいんだ」
ディルカはミハエルの言葉に軽く頷きながら、ゆっくりとミハエルの腕から離れる。
「良かった。助けに来てくれたんだ。ありがとう。お嬢様は無事?」
ミハエルは申し訳無さそうな表情をして、離れようとするディルカを再び腕に閉じ込めた。
「うん。お嬢様は無事だよ。でも、自分のことは二の次なの?」
「ふふ、眉間にシワが寄ってるよ」
ディルカはミハエルの眉間に指を置いて優しく揉んだ。
「助けに来るのが遅くなってごめんね」
「遅くないよ。起きたときにミハエルが、そばにいてくれて嬉しかったよ」
ディルカは少し照れくさそうにミハエルへ向かって笑みを浮かべる。
「……酔ってないよね?」
「? お酒は苦手だから飲まないよ」
不思議な顔をして首を傾けるディルカの顔をミハエルが見つめる。
「ディルカは飲んでなくても匂いで酔うんだよなぁ……まぁ、酔ってないなら良かった! クロが護衛にあたるから問題ないと思うけど気をつけて帰るんだよ」
ミハエルはディルカの手をしっかりと握りながら、言い含める。
「ミハエルの任務がどんなものかわからないけど、危険な任務だよね。気をつけてね! 絶対僕のところへ戻ってきてね?」
「うんっ!」
ディルカは満面の笑みを浮かべるミハエルの手を握り返し、驚くくらい空気と化していたクロと屋敷を後にした。
そこにはエルダ国の宰相であるハグェティル・メロウの姿もあり、彼は額に汗を浮かべながら、周囲に事の顛末を説明し終えたところだった。
「この者たちは国を転覆させようと企む者の一部で、私たちを始末したあと城を襲撃するところだったというのですか?!」
リーネ・メロウが驚きの声を上げた。
「彼女が危険分子の一人であるとお父様はお気づきだったのですね?! それなのに囮にするだけでなく、わたくしが危険に晒されることを承知の上で召し上げていたとは!」
ハグェティル・メロウは冷静に首を横に振ったが、彼の頭頂部から伸びる1本の茶色の髪は揺れることなくそのままだった。
「エルダ国に仕える者は皆、王の手駒だ。私も含めてな」
「お父様、娘が命の危険に晒されても職務を優先するというのですね」
落胆した様子のリーネ・メロウだったが表情は変わらない。
「当然だな。むしろ己の行動にはすべて責任が伴うと伝えていたはずだ」
宰相であるハグェティル・メロウの声は冷たく、揺るぎなかった。
「わ、わたくしとて責任を持って行動しているつもりですわ」
リーネ・メロウの声は自信のなさからかほんの少し震えている。
「……責任という言葉の重みがまるでわかっていないように感じられるが、まぁいい」
「お父様……」
「お前が無事で良かったと思っている。これでもお前の父親だからな。白の部隊長の迅速な行動のおかげで早く片が付きそうだ。そういえば、彼に縁談の話を持ちかけていたのではなかったか?」
リーネ・メロウはその言葉に反応し、少し喜びを感じた後、悲しそうに言った。
「そうでしたね。でも、二人が特別な絆で結ばれていると知ってしまったのです……そんな二人を無理矢理引き裂くことなんてできませんわ」
二人の花祝紋を見てしまったリーネ・メロウにとっては衝撃的な出来事だった。
そんな殊勝な言葉を口にする娘に対し、ハグェティル・メロウは片方の口元を釣り上げて笑った。
「ほぅ、貴族であろうと権力の前では無力だということを証明してみせようか?」
その横暴とも思える言葉にリーネ・メロウは力なく首を振る。
「そんなことをしたら、二人ともこの国を去ってしまいますわ。女神に選ばれた特別な存在ですもの。災いが降りかかるに違いありません」
「ふむ。私にとっては、目的を達成するための手段に過ぎないのだが、お前の言葉を尊重するとしよう。それでは、白の部隊長」
「はい」
「大事な相手を助け出して安心したことだろう。さらに彼を安心させるためにもう一働きしてもらいたい」
腕に抱いたディルカの寝顔を見て、ミハエルは宰相に肯定の返答をする。
「早速だが、反乱を企てた賊の追撃を命ずる。各拠点はすでに特定され、他の部隊が制圧しているだろう。本拠地の制圧は君に任せたから、本日中に完了の報告をするように」
「はっ」
ミハエルはディルカを抱えたまま敬礼し、即座に命令を受けた。
後ろで控えていたニーレ・カーシュは、想い人を片時も離さない部隊長の姿を見て、糸目をさらに細くさせる。
胸の内では、彼の執着心に恐怖しながらも、執着されている部隊長の想い人に対してエールを送った。
◆
「ディルカ、起きて?」
ディルカは眠りから覚め、周りを見回す。
「うーん、あれ? ミハエル? ここどこだっけ」
「宰相の娘に連れられてきた屋敷だよ。これから帰るところなんだけど、俺は討伐の任務があるからシロと安全な場所で待っていて欲しいんだ」
ディルカはミハエルの言葉に軽く頷きながら、ゆっくりとミハエルの腕から離れる。
「良かった。助けに来てくれたんだ。ありがとう。お嬢様は無事?」
ミハエルは申し訳無さそうな表情をして、離れようとするディルカを再び腕に閉じ込めた。
「うん。お嬢様は無事だよ。でも、自分のことは二の次なの?」
「ふふ、眉間にシワが寄ってるよ」
ディルカはミハエルの眉間に指を置いて優しく揉んだ。
「助けに来るのが遅くなってごめんね」
「遅くないよ。起きたときにミハエルが、そばにいてくれて嬉しかったよ」
ディルカは少し照れくさそうにミハエルへ向かって笑みを浮かべる。
「……酔ってないよね?」
「? お酒は苦手だから飲まないよ」
不思議な顔をして首を傾けるディルカの顔をミハエルが見つめる。
「ディルカは飲んでなくても匂いで酔うんだよなぁ……まぁ、酔ってないなら良かった! クロが護衛にあたるから問題ないと思うけど気をつけて帰るんだよ」
ミハエルはディルカの手をしっかりと握りながら、言い含める。
「ミハエルの任務がどんなものかわからないけど、危険な任務だよね。気をつけてね! 絶対僕のところへ戻ってきてね?」
「うんっ!」
ディルカは満面の笑みを浮かべるミハエルの手を握り返し、驚くくらい空気と化していたクロと屋敷を後にした。
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