祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄

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二人には感謝を

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「いやぁ、あの場面で反撃しなかったメロウ宰相、よく我慢したよね」

「ああ。彼にとっては“心の支え”だったのかもしれない。……もっとも、実用的には髪が残っていなくても問題はないが」

「うん、クロさんはほんとブレないね」

 ディルカが苦笑しながらクロに視線を向けていると、頭上から何かが勢いよく落ちてきた。

「ぎゃぁぁっ!」

 驚きのあまりディルカが叫び声をあげる。その目の前に、ボロボロの姿で誰かが倒れていたが、すぐに起き上がりディルカに詰め寄る。

「ちょっと見てよこの顔! 本当に悪逆非道! ヤツに“手加減”って言葉を教えてきてくれない?!」

 全身傷だらけで、顔もアザだらけ。原型をとどめていないが、白い髪と蒼の部隊の制服がそれを物語っていた。

「え? シロさん?!」

「そうだよ! シーくんだよ……あいたたた。もう、立ってられないよー」

 シロは痛そうに顔をしかめながら、ディルカの足にすがりついた。

「大丈夫? ひどい状態だね……」

 心配そうに見下ろすディルカの横で、クロがニヤリと口の端を上げる。

「ふん、無様な姿だな」

 それを聞いたシロが面白くなさそうにディルカの脛に抱きついたまま唇をとがらす。

「なにが『ふっ、無様な姿だな』だよ! あのヤキモチ焼きを前にしたら、クロだってこうなるから!」

「こうしてても痛みは取れないでしょ。さ、戻って治療しよう?」

 ディルカが手を差し伸べると、シロは痛みに顔を歪めながらも立ち上がった。歩けないほどではなさそうだ。

「俺はシロのようにならない」

「なるよ、絶対なる! だってさ、ディルカと一緒のときなんてイチャイチャ、デレデレしてたくせに、突然『本拠地を潰しに行くぞ』だよ? 信じられる? あの頭どうなってんのさ」

「それは唐突だったね……」

「でしょー?! まぁ、潰すだけなら簡単だけどね。後処理に時間がかかるだろうから、しばらくミハエルは戻ってこないと思うよ」

「えっ? もう終わったの?」 

「うん。シーくんは優秀だからね!」

「それにしたって、早すぎじゃない? あ、それもそうだけど、僕がミハエルとイチャイチャしてる?」

「え? 今さらそこ聞いちゃう? 気づいてなかったの? いつもイチャイチャしてるじゃん。主にヤツがディルカにへばりついて甘えてるだけだけど、ディルカはヤツを受け入れてるでしょ」

「えぇっ?!」

 ディルカが驚きの声をあげると、シロは一瞬固まった。

「ウソでしょ……? ねぇ、自分たちの距離感、思い出してみてよ!」

「……え、えーと?」

 ディルカは戸惑いながらも、ミハエルとの距離を思い返す。
 第三者の視点で、客観的に二人を見てみようと想像してみた。

 すると、これまでのミハエルとのやり取りが次々と浮かんでくる。

 思い返せば、ミハエルはいつも──自分のどこかに触れていた。

 肩に手を置いたり、腕を掴んだり、背中に寄りかかったり。
 その温もりがいつも、そっとそばにあったのだ。

(あれ? 最近は毎回僕を抱きしめてる?)

 ミハエルにすっぽりと包まれたときの温もり、そして胸がドキリと跳ねた瞬間を思い出す。
 そのたびに感じていた安心と胸の高鳴り──。

 ようやく、胸の奥で何かが“ストン”と落ちた。

 ──弟分だと思っていた。

 (でも本当は、好きだったんだ)

 それを、考えないようにしていただけで。

 ディルカの頬がみるみるうちに赤く染まっていく。

「あー、敵に塩を送った気分……」

 シロが額を押さえて深いため息をつく。

「俺たちは“シグマ”だ。いつ消えるかわからない存在だからな」

 その言葉に、ディルカは青ざめた。

「えっ?! クロさんも、シロさんも……どこかに行っちゃうんですか?!」

 二人は顔を見合わせ、クロは肩をすくめ、シロは切れた唇の端を上げて微笑む。

「まぁ、そうかもねー。どこかに行っちゃうことも、あるかも?」

 ディルカは悲しそうに目を伏せ、涙を浮かべた。

「そんな……せっかく仲良くなれたのに……」

 その様子にシロが慌てて手を振る。

「え、ちょ、泣かないで!? クロが変なこと言うから~! もう……消える時なんてわかんないし、ボクはディルカのそばにいるよ! なんたって“蒼の部隊のシグマ”だからね☆」

 クロは腕を組み、不思議そうに尋ねた。

「ディルカは俺たちが居なくなったら困るのか?」

 ディルカは急いで涙を拭い、真剣な表情で答えた。

「あ、当たり前じゃないですか! 心が痛くなるし、大事な人が離れてしまったら悲しいでしょう?」

 クロは軽く頷き、顎に手を当てて考え込んだ。

「大事……なるほど。さきほど話していた大事なものがなくなると悲しいということだな」

 その言葉にシロが目をむいた。

「はぁー!? クロが人の気持ち理解してる!? 天変地異でも起きるの!?」

 クロはシロをじろりと睨む。シロは笑顔でディルカの肩に寄り添った。

「ね、ディルカはクロよりシーくんの方が大事だもんね~? お揃いの『花祝紋』で結ばれてるし☆」

「何を言ってる。俺にも同じ『花祝紋』がある。それに、俺のほうがディルカに求められている」

 ディルカは二人のやり取りに呆れながらも、思わず笑みをこぼす。

「シロさんも、クロさんも、どちらも僕にとって大事な人ですよ。僕と同じ『花祝紋』があることも、きっと理由があるのだと思います」

 二人は一瞬ぽかんとする。

「……そ、そうか」

 クロは照れ隠しのように咳払いをしながら頷く。

 シロもにっこりと笑い、ディルカの肩にすり寄る。

「そうだよね、ボクたちってディルカに愛されちゃってるもんねー☆」

「はい、一緒にいると心強いです」


 ディルカは、『花祝紋』で結ばれた二人と共にいることに、深い安心と感謝を覚えていた。
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