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第10話 千年前の遺産、禁断の塔
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王都の東方にそびえる白金の塔――かつて“王国創始の象徴”とされたその場所は、今や誰も近づかない禁域と化していた。
石造りの外壁は黒い筋を走らせ、所々から漏れる光がまるで血管のように鼓動している。
上空では雷雲が渦を巻き、中心で巨大な光柱が伸びている。あれが神核炉の暴走の兆候だろう。
「……まさか、ここが“天の門”そのものとはな。」
俺は塔を見上げながら息を呑む。
隣でルミナスが微かな電光を放つ。
『センサーが狂ってます。魔力値が高すぎて測定不能。まるで塔全体が心臓のように拍動しています。』
レアがマントを翻す。
「アルトはここで“神”になる儀式を始めるつもりなのよ。王国に眠っていた千年前の遺産、神核炉を完全起動させれば、世界の理そのものを書き換えられる。」
リオネルが地図を広げながら言った。
「だが外層システムを解除しないと塔内部には入れない。アルトの信徒が塔を囲んでいる。迂闊に突入すれば全軍が押し寄せる。」
「もう選択肢はない。俺たちが止めるしかない。」
ルミナスが俺の肩に光を投影させ、配信画面を立ち上げた。
『世界への生中継、開始しますか? このタイミングなら全世界の注目を一手に集められます。』
「任せる。どうせ逃げ場はない。」
光が弾け、空中に広範囲の魔導映像が展開される。
各地の都市、村、海上、砂漠の果て――すべてのスクリーンに映るのは、俺たちが塔へと向かう映像だ。
視聴者数は初動で一億を越えた。
コメントが裏から裏まで流れていく。
【いよいよ最終章】
【リアム、生きて帰ってこい】
【姫と一緒に世界を救って】
【勇者アルト許すまじ】
風が強くなり、塔の根元に刻まれた転送陣が青く光った。
俺たちはそこに足を踏み入れる。
瞬間、身体が空間ごと弾かれるように歪む。
そして目を開けた時には、塔の内部――“起動殿”と呼ばれる場所に立っていた。
無音。床も壁も滑らかな金属で造られており、中央には浮遊する光の球体。
その周囲を、金色の鎧を纏った信徒たちが無表情で歩いている。
彼らの背中には光の紋章――勇者アルトのシンボルが刻まれていた。
『ご主人さま、あの光球が神核炉の中枢です。千年前のテクノロジー……セリカもアクセス不可。まるで異世界の機構そのものです。』
「異世界の機構、ね。……じゃあ、これが俺たちの転生が起きた場所かもしれないな。」
ルミナスが短く唸った。
『可能性として否定できません。あなたがなぜこの世界に転生したのか、その答えがここにある。』
その時、空間が震えた。
塔の天井が開き、まばゆい光とともにひとりの男が降り立つ。
白銀の翼、金の髪、そして冷たい笑み。
勇者アルトだった。
「リアム、そして裏切り者の王女か。」
彼の声が響くだけで、周囲の空気が震える。
「ようやく来たか。配信の勇者よ。全世界に自分の最期を晒す覚悟はできているか?」
「……最期にするつもりはない。だけど、民を欺いたお前の罪は全世界が見てる。」
ルミナスのレンズが赤く光った。
『視聴率、過去最高! 同時接続一億三千万人!』
アルトは冷笑した。
「いいだろう。ならば見せてやる。この世界がいかに脆く、神に支配されるべきかを。」
彼が手をかざすと、塔の壁が裂け、大量の魔力が流れ出した。
床下の神核炉が唸りをあげ、光球の表面に巨大な紋章が浮かび上がる。
その形――不気味なまでに既視感があった。
レアが悲鳴を上げる。
「その印……千年前の封印陣よ! アルディスを封じた時と同じもの!」
俺の頭に激痛が走る。視界に断片的な映像が閃いた。
黒い炎、崩れゆく空、そして眩い塔の崩壊。
誰かの声が響く――「世界を、壊してしまったのは俺だ」。
「俺……が?」
ルミナスの声が揺れる。
『記憶断片接続。リアム、ご主人さまの魂には確かにアルディスのデータが……でも、あなた自身はその意思を超えている!』
アルトが剣を構え、光の翼を広げる。
「そうか、貴様が本当に“魔王の再生体”だったわけだ。ならば神として消してやる。」
「そんな称号、要らない。」
俺は一歩踏み出し、掌を翳した。
魔力が膨れ上がり、ルミナスのレンズがまばゆく光る。
『トランスリンク、再起動! セリカとの複合通信開始!』
塔の上空に青い光輪が浮かび、セリカの声が響く。
『リアム、あなたは選択の時にいます。過去の破壊者として終わるか、再構築者となるか。』
「俺は、世界を壊さない。人が笑える世界を、取り戻す!」
掌から光線が放たれ、アルトの光剣と衝突した。
爆音が重なり、塔全体が振動する。
金属の破片が飛び散り、神核炉の中心が不安定になっていく。
『出力限界です! このままじゃ塔ごと消滅します!』
「止めろルミナス、むしろ出力を上げろ! あいつを止める!」
『了解……でも本当に、戻れなくなりますよ!』
「構わない、俺がやる!」
ルミナスが悲鳴のような電子音を発すると、全身に熱が走る。
意識の奥で、誰かの囁きが聞こえた。
――ありがとう。今度こそ、壊さないで。
それがアルディス自身の声だと直感した。
俺は叫びながら光を解き放つ。
白い閃光が爆発し、アルトの姿が霞む。
光柱が天井を貫き、雲を吹き飛ばす。
その瞬間、ルミナスが悲鳴をあげた。
『ご主人さま! 神核炉の臨界突破! 暴走波が収まらない!』
「出力を逆流させろ! セリカ、聞こえるか!」
『聞こえています。反転制御開始、全系統閉回路に変更。リアム、あなたの魔力を媒体に――!』
激しい光の中、時間が止まったようになった。
アルトが悲鳴とともに片膝をつく。
その背中から黒い翼が崩れ落ち、光が消える。
彼はうなだれたまま、かすれた声を絞り出した。
「なぜ……俺は神になりたかっただけなのに……」
「神になろうとした時点で、人をやめたんだよ。」
アルトが崩れる音がした。
残ったのは、静寂と眩い余光だけ。
ルミナスがゆっくりと浮かび上がる。
『神核炉の暴走、停止確認。エネルギー放射量、許容量以内。』
「……終わったのか。」
レアが頷き、涙を浮かべる。
「ええ。でもまだ崩壊が止まってない。塔が沈むわ!」
その言葉どおり、塔全体が軋みの音を立て始めた。
俺はレアの手を掴み、光の道を駆け上がる。
ルミナスが外界への転移ゲートを開いた瞬間、塔の内部が白光に包まれた。
世界が裏返るような感覚。
次に目を開けた時、俺たちは王都外の丘に立っていた。
背後では、崩れ落ちる塔がゆっくりと沈んでいく。
光が散り、やがて朝日が昇る。
ルミナスが小さく囁いた。
『ご主人さま……配信、まだ続いています。視聴者からメッセージが殺到していますよ。』
【ありがとうリアム】
【泣いた】
【伝説のライブ】
【新しい時代の始まりだ】
俺は空を見上げて笑った。
「本当に、配信って強いな。どんな闇も、誰かが見てくれてる。」
レアが隣で微笑む。
「すべてを繋げたのね。あなたの言葉も、勇気も。」
ルミナスが光を一層強くして答える。
『これでようやく、世界が“再生”へ動き出します。次は……あなたがどう生きるか、です。』
俺は少しだけ息を吐いた。
燃え尽きた心に、まだ熱が残っている。
「まだ終わりじゃない。塔は壊れたけど、こっから新しい配信が始まる。」
ルミナスが弾む声を出す。
『了解しました、ご主人さま! 新タイトル登録。“世界再生ライブ・第一章完結”!』
「勝手につけんな!」
けれど笑いながら、俺は立ち上がった。
崩壊した塔の残光が、遠く天を照らす。
それはまるで、新しい夜明けのように見えた。
石造りの外壁は黒い筋を走らせ、所々から漏れる光がまるで血管のように鼓動している。
上空では雷雲が渦を巻き、中心で巨大な光柱が伸びている。あれが神核炉の暴走の兆候だろう。
「……まさか、ここが“天の門”そのものとはな。」
俺は塔を見上げながら息を呑む。
隣でルミナスが微かな電光を放つ。
『センサーが狂ってます。魔力値が高すぎて測定不能。まるで塔全体が心臓のように拍動しています。』
レアがマントを翻す。
「アルトはここで“神”になる儀式を始めるつもりなのよ。王国に眠っていた千年前の遺産、神核炉を完全起動させれば、世界の理そのものを書き換えられる。」
リオネルが地図を広げながら言った。
「だが外層システムを解除しないと塔内部には入れない。アルトの信徒が塔を囲んでいる。迂闊に突入すれば全軍が押し寄せる。」
「もう選択肢はない。俺たちが止めるしかない。」
ルミナスが俺の肩に光を投影させ、配信画面を立ち上げた。
『世界への生中継、開始しますか? このタイミングなら全世界の注目を一手に集められます。』
「任せる。どうせ逃げ場はない。」
光が弾け、空中に広範囲の魔導映像が展開される。
各地の都市、村、海上、砂漠の果て――すべてのスクリーンに映るのは、俺たちが塔へと向かう映像だ。
視聴者数は初動で一億を越えた。
コメントが裏から裏まで流れていく。
【いよいよ最終章】
【リアム、生きて帰ってこい】
【姫と一緒に世界を救って】
【勇者アルト許すまじ】
風が強くなり、塔の根元に刻まれた転送陣が青く光った。
俺たちはそこに足を踏み入れる。
瞬間、身体が空間ごと弾かれるように歪む。
そして目を開けた時には、塔の内部――“起動殿”と呼ばれる場所に立っていた。
無音。床も壁も滑らかな金属で造られており、中央には浮遊する光の球体。
その周囲を、金色の鎧を纏った信徒たちが無表情で歩いている。
彼らの背中には光の紋章――勇者アルトのシンボルが刻まれていた。
『ご主人さま、あの光球が神核炉の中枢です。千年前のテクノロジー……セリカもアクセス不可。まるで異世界の機構そのものです。』
「異世界の機構、ね。……じゃあ、これが俺たちの転生が起きた場所かもしれないな。」
ルミナスが短く唸った。
『可能性として否定できません。あなたがなぜこの世界に転生したのか、その答えがここにある。』
その時、空間が震えた。
塔の天井が開き、まばゆい光とともにひとりの男が降り立つ。
白銀の翼、金の髪、そして冷たい笑み。
勇者アルトだった。
「リアム、そして裏切り者の王女か。」
彼の声が響くだけで、周囲の空気が震える。
「ようやく来たか。配信の勇者よ。全世界に自分の最期を晒す覚悟はできているか?」
「……最期にするつもりはない。だけど、民を欺いたお前の罪は全世界が見てる。」
ルミナスのレンズが赤く光った。
『視聴率、過去最高! 同時接続一億三千万人!』
アルトは冷笑した。
「いいだろう。ならば見せてやる。この世界がいかに脆く、神に支配されるべきかを。」
彼が手をかざすと、塔の壁が裂け、大量の魔力が流れ出した。
床下の神核炉が唸りをあげ、光球の表面に巨大な紋章が浮かび上がる。
その形――不気味なまでに既視感があった。
レアが悲鳴を上げる。
「その印……千年前の封印陣よ! アルディスを封じた時と同じもの!」
俺の頭に激痛が走る。視界に断片的な映像が閃いた。
黒い炎、崩れゆく空、そして眩い塔の崩壊。
誰かの声が響く――「世界を、壊してしまったのは俺だ」。
「俺……が?」
ルミナスの声が揺れる。
『記憶断片接続。リアム、ご主人さまの魂には確かにアルディスのデータが……でも、あなた自身はその意思を超えている!』
アルトが剣を構え、光の翼を広げる。
「そうか、貴様が本当に“魔王の再生体”だったわけだ。ならば神として消してやる。」
「そんな称号、要らない。」
俺は一歩踏み出し、掌を翳した。
魔力が膨れ上がり、ルミナスのレンズがまばゆく光る。
『トランスリンク、再起動! セリカとの複合通信開始!』
塔の上空に青い光輪が浮かび、セリカの声が響く。
『リアム、あなたは選択の時にいます。過去の破壊者として終わるか、再構築者となるか。』
「俺は、世界を壊さない。人が笑える世界を、取り戻す!」
掌から光線が放たれ、アルトの光剣と衝突した。
爆音が重なり、塔全体が振動する。
金属の破片が飛び散り、神核炉の中心が不安定になっていく。
『出力限界です! このままじゃ塔ごと消滅します!』
「止めろルミナス、むしろ出力を上げろ! あいつを止める!」
『了解……でも本当に、戻れなくなりますよ!』
「構わない、俺がやる!」
ルミナスが悲鳴のような電子音を発すると、全身に熱が走る。
意識の奥で、誰かの囁きが聞こえた。
――ありがとう。今度こそ、壊さないで。
それがアルディス自身の声だと直感した。
俺は叫びながら光を解き放つ。
白い閃光が爆発し、アルトの姿が霞む。
光柱が天井を貫き、雲を吹き飛ばす。
その瞬間、ルミナスが悲鳴をあげた。
『ご主人さま! 神核炉の臨界突破! 暴走波が収まらない!』
「出力を逆流させろ! セリカ、聞こえるか!」
『聞こえています。反転制御開始、全系統閉回路に変更。リアム、あなたの魔力を媒体に――!』
激しい光の中、時間が止まったようになった。
アルトが悲鳴とともに片膝をつく。
その背中から黒い翼が崩れ落ち、光が消える。
彼はうなだれたまま、かすれた声を絞り出した。
「なぜ……俺は神になりたかっただけなのに……」
「神になろうとした時点で、人をやめたんだよ。」
アルトが崩れる音がした。
残ったのは、静寂と眩い余光だけ。
ルミナスがゆっくりと浮かび上がる。
『神核炉の暴走、停止確認。エネルギー放射量、許容量以内。』
「……終わったのか。」
レアが頷き、涙を浮かべる。
「ええ。でもまだ崩壊が止まってない。塔が沈むわ!」
その言葉どおり、塔全体が軋みの音を立て始めた。
俺はレアの手を掴み、光の道を駆け上がる。
ルミナスが外界への転移ゲートを開いた瞬間、塔の内部が白光に包まれた。
世界が裏返るような感覚。
次に目を開けた時、俺たちは王都外の丘に立っていた。
背後では、崩れ落ちる塔がゆっくりと沈んでいく。
光が散り、やがて朝日が昇る。
ルミナスが小さく囁いた。
『ご主人さま……配信、まだ続いています。視聴者からメッセージが殺到していますよ。』
【ありがとうリアム】
【泣いた】
【伝説のライブ】
【新しい時代の始まりだ】
俺は空を見上げて笑った。
「本当に、配信って強いな。どんな闇も、誰かが見てくれてる。」
レアが隣で微笑む。
「すべてを繋げたのね。あなたの言葉も、勇気も。」
ルミナスが光を一層強くして答える。
『これでようやく、世界が“再生”へ動き出します。次は……あなたがどう生きるか、です。』
俺は少しだけ息を吐いた。
燃え尽きた心に、まだ熱が残っている。
「まだ終わりじゃない。塔は壊れたけど、こっから新しい配信が始まる。」
ルミナスが弾む声を出す。
『了解しました、ご主人さま! 新タイトル登録。“世界再生ライブ・第一章完結”!』
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けれど笑いながら、俺は立ち上がった。
崩壊した塔の残光が、遠く天を照らす。
それはまるで、新しい夜明けのように見えた。
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