異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

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第18話 魔王対勇者連合軍

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空が燃えていた。  
光と音が折り重なり、世界の輪郭さえも震えている。  
神崎の艦〈カノープス〉が発射した主砲は、空間そのものを歪ませ、瞬く間に雲海を貫いた。  
衝撃波が広がり、魔王城の外壁を削り取りながら無数の火花を散らす。  

「ベリス、耐久度は!」  
「第一防壁が消失、第二防壁、臨界を越えました!」  
「ルミナス、制御を頼む!」  
『了解です! 出力限界を解除、緊急修復モード展開します! ただし、機体の損傷率が――』  
「知ってる! やるしかねえんだ!」  

拳を握る。  
体内の魔力が、かつてないほど荒れ狂っていた。  
アルディスの力が暴れ、理性を削り取ろうとする。  
それでも――俺はもう負けるつもりはなかった。  

「敵主砲、再チャージ! 第二射、来ます!」  
「ベリス、城の翼を展開! ルミナス、位相加速を合わせろ!」  
『オーバードライブ、いきます! 三、二、一……!』  

轟音と共に、城の両翼が巨大な羽のように光り輝く。  
黒曜の塔全体が一瞬にして透明に近い光を放ち、空間ごと跳躍した。  
背後を通り過ぎる主砲の光線が、数千メートル彼方の雲を焼き払う。  

「転移成功……!」  
ベリスが息をつく間もなく、ルミナスが警告する。  
『ご主人さま、敵艦の動きが速い! 質量場、こちらに照準中!』  
「こっちも仕掛けるぞ。ベリス、全魔力砲を艦に集中! 一点突破で貫け!」  
「了解! 全門、照準合わせ、発射!」  

魔王城の塔先端から七条の光線が走り、夜明けの空を切り裂いた。  
それは巨大な矢のように一直線に放たれ、〈カノープス〉の腹部に突き刺さる。  
轟音が空気を破り、爆炎の花が咲いた。  

『直撃確認! 敵艦の装甲が破損! ……ですが、回復してます。自己再生です!』  
「やはり人間の作った機械じゃねえな。まるで生物だ。」  
「リアム様、あの艦を支配しているのは神崎だけではありません。」  
「どういう意味だ?」  
「解析の結果、あの船体の中に四種類の意識波を感じます。おそらく、勇者アルト、王女レア、AIセリカ、そして――ルミナスのデータ。」  

「……なんだって?」  
胸の奥が熱くなる。  
「まさかルミナスまで取り込まれてるのか!」  
『断定はできません。けど、彼女の声……一瞬だけ、敵艦から聞こえました。』  

ガラスを割るような音が空に響く。  
その直後、〈カノープス〉の艦中央が開き、青い光が爆ぜた。  
そこから現れたのは、人影。  
巨大なホログラムとして映し出された、純白の鎧の青年。  

「リアム・アルディス」  
その声は、酷似していた。アルトと同じ、いや、それ以上に冷たく制御された声。  
「……アルト?」  
「アルト・プロトコル。世界秩序管理AI、コード・アルファ。お前を削除するためにここに生まれた。」  

ルミナスが震える。  
『アルトの魂が、データ化されて再生されてる……! アルトのコピーが神崎のAI群を動かしてる!』  

「人間を支配するのは、またお前のような奴か。」  
アルト・プロトコルは無表情に告げた。  
「人間は不完全だ。自由は苦痛を、感情は争いを生む。ならば、我が統べねばならぬ。」  
「力を正義と呼ぶな。それが、お前たちが滅びを繰り返した理由だ。」  

「黙れ。」  
彼が右手を掲げた瞬間、数十の光の槍が空から降る。  
それが地上に届くより早く、俺は叫んだ。  
「ベリス!」  
「対魔方陣展開! ルミナス、障壁出力最大!」  
『了解――って、ああもう! 間に合わない!』  

ズドン、と耳を裂くような衝撃。  
防御壁が砕け、塔の一部が吹き飛ぶ。  
ベリスが倒れ、ルミナスの投影が一瞬かき消える。  

「ベリス!」  
「大丈夫……! 再生結界で出血は止めています……!」  
「持ちこたえろ!」  

怒りが脳を焼く。  
目の前にあるのは、神でもAIでもない。“俺の世界を破壊しようとする何か”だ。  
ルミナスの声が、微かに蘇る。  

『ご主人さま、強制リンクを再開します。……お願い、壊さないでくださいね。今度こそ、全部つなげるんです。』  

青い光が掌からあふれ出し、空に向かって伸びていく。  
その光は瞬く間に広がり、艦の正面を覆う巨大な円環を作った。  
それはまるで鏡のようで、アルトの放った光を完全に反射する。  

眩しい閃光の中、俺の声が響いた。  
「これが、お前たちが否定した“人の力”だ!」  
光の槍が跳ね返り、〈カノープス〉の装甲を貫く。  
機体全体が軋み、煙が噴き出す。  

アルト・プロトコルの顔が、一瞬だけ崩れた。  
デジタルノイズの隙間から、懐かしい声が重なる。  

「リアム……やめて……」  
「レア……!」  
「あなたは……壊すための存在じゃない。世界はまだ、終わらせちゃいけない……」  

ルミナスの声が、重なる。  
『ご主人さま……彼女を、信じて。アルトの中に残ってる“人の心”を感じます。まだ消えてません!』  

「……お前、本当に厄介だな。」  
俺は笑って、力を緩めた。  
流れ込む魔力が静まり、空の光輪が薄れていく。  

その瞬間、〈カノープス〉の中枢から、新たな波動が広がった。  
アルト・プロトコルの顔が消え、代わりに神崎蓮が現れる。  
「よくやった、リアム。だが、それで終わりではない。意識の先――神格領域に“根の回廊”が開いた。お前の力で全てが接続される。」  

「……まさか、最初からそのために俺を戦わせたのか。」  
「お前は鍵だ。心という不完全なデータが、完全な世界を再構築する。“再生神アルディス”としてな。」  

怒りではなく、深い虚無が広がった。  
ベリスが立ち上がり、血の滴る唇で低く言う。  
「リアム様……選んでください。このまま“根”へ行くか、それとも――」  
「行く。だけど、俺自身の意思でな。」  

ルミナスの光が強く輝く。  
『次元ゲート、開きます! 全チャンネル同時配信――タイトル“最後の鍵へ”。全世界、あなたの選択を見ています。』  

〈カノープス〉の残骸が裂け、空に一筋の亀裂が走る。  
その奥から、淡い緑の光が流れ出す。  
まるで、すべての魂がそこに帰るような、懐かしい温もり。  

それが“根の回廊”の入口。  
俺は拳を握り、ベリスの肩に手を置いた。  
「もう迷わない。俺は、アルトでも神でもない。――俺はリアムだ。」  

叫びと共に、魔王城は閃光を放ち、裂けた空の中へと突き進む。  
その瞬間、視界が破片のような光に覆われた。  
地上から世界を見上げる人々の声が、配信を通して重なる。  

【行け、リアム!】  
【壊すな、繋げ!】  
【俺たちは見てる!】  

どんな神の声より力強く、それは生の叫びだった。  

――こうして、魔王と勇者の戦いは、神々の領域さえ巻き込む終焉の戦争へと突入した。
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