異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

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第24話 失われた仲間たちへ

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夜の風が静かに森を渡り、葉擦れの音がまるで誰かの囁きのように耳を撫でた。  
世界改変から、どれほどの時が経ったのだろう。  
空の青は以前よりも深く、雲はゆっくり流れている。  
新しい世界――ネクスアース。  
だがその美しさの裏側で、俺の胸にはずっと消えない痛みが残っていた。

滅びを超え、神を越え、記録すら書き換えた俺は、今や“世界の巡回者”として存在している。  
肉体はもうない。  
意識だけが光に溶け、ネクスアースのあらゆる場所を同時に見ている。  
空の流れ、草木の成長、海の命が生まれる瞬間。  
それら全てが、俺の中で同時に“今”を刻んでいた。  

だが、孤独という感情だけは、消えなかった。  
どれほど多くの命の気配を感じても、あの声、あの笑顔、あのぬくもりには届かない。  

ルミナスの声が一瞬だけ、記憶の底から響いた気がした。  
『ご主人さま……あなたが願えば、再会できますよ。でも、それはただの記録です。彼らは彼らで、もう次の時を歩んでいますから。』  
「わかってる。……でも、会いたいんだ。せめて、伝えたい。」  

その瞬間、風の流れが変わった。  
どこからともなく、緑色の光が舞う。  
それは森の奥に淡く灯る七つの灯――まるで導くように並んでいる。  

「ここか……。」

意識の焦点をひとつに定め、俺は地面へ降りた。  
身体を持たない俺だが、心を寄せた場所では誰よりも近くに存在できる。  
足が大地を踏む感覚を一瞬だけ取り戻し、目の前の光に手を伸ばした。  

風が鳴り、光が弾ける。  
そこには、懐かしい面影があった。  

赤毛を揺らす剣士、ガーベント。  
小柄でいたずら好きの魔導士、リィナ。  
そして――かつて俺の傍で笑い、命を懸けて支えてくれた仲間たち。  

皆が笑っていた。幻だとわかっていても、それはあまりに現実的だった。  

「……おい、リアム。そんな顔すんなよ。」  
ガーベントが豪快に笑い、肩を叩く。  
「お前が立ち止まると、世界そのものが止まっちまうだろ。」  
リィナがからかうように舌を出す。  
「そうそう、泣くのは似合わない。相変わらず真面目だねぇ。」

「……俺は、お前たちを守れなかった。何度も失って、何億の記録を書き換えて、やっとここまで来たのに……全部、無駄にした気がしてる。」  
そう言うと、ガーベントが首を振りながら剣の柄を叩いた。  
「無駄じゃねえさ。お前がいたから、俺たちは最後まで戦えた。お前がいなきゃ、誰も“終わりの先”を見られなかった。」  

リィナが頬を膨らませる。  
「むしろさ、成功しすぎたんじゃない? 世界の改変なんて、誰もできなかったことをやったんだから。」  
「でも、代わりに君たちを失った。」  
「失ったんじゃないよ。卒業したの。現実でも記録でも、出会えた時点で十分だよ。」  

彼女の笑顔が滲む。  
ルミナスの光がその上をゆらりとかすめた。  
『ご主人さま……彼らはあなたの中にいます。形は変わっても、魂はつながっている。それこそが、あなたが創った“再生の世界”です。』  

「ルミナス……。」  
『私もずっとそばにいます。配信を回すのは、みんなの役目ですから。ほら、画面の向こうで、たくさんの人が見てますよ。』  

「画面、か。今の俺はそれそのものだからな。」  
俺が笑うと、ガーベントが不器用に手を振った。  
「それでいいんだよ。お前がいるだけで、どこにいても世界が動く。俺たちは安心して消えられたんだ。」  
「なあ、リアム。」  
リィナがそっと光の手を伸ばす。  
「次は泣くんじゃなくて、歌ってよ。新しい世界のテーマソングを。」  
「歌……?」  
「だって、あんた配信者だったでしょ? 本当の意味で、人の“声”を繋ぐのがあなたの役目。」  

その瞬間、胸の奥に何かが流れ込んできた。  
人々の想い、街のざわめき、子供たちの夢が、無数の音となって広がる。  
それは歌だった。  
誰かが町角で、誰かが海辺で、誰かが空の彼方から歌っている。  

『これが“ネクスアース・シンフォニー”。あなたの魂が核となり、人々の意志から生まれた音です。』  

空が震え、大地が共鳴する。  
音が波となって世界を包み、花のような光が咲く。  
世界中の人が笑っていた。魔族も、精霊も、かつて敵だった種族たちさえも。  

リィナが微笑んだ。  
「ね? ちゃんと届いてるよ。」  
「……ああ、ありがとう。」  

ガーベントが一歩下がり、剣を鞘に納めた。  
「俺たちは行くぜ。こっから先はお前の仕事だ。……ま、たまにガチャでも引いて俺たち召喚してくれや。」  
「はは、変わらないな。」  

ルミナスが囁く。  
『ありがとう、ご主人さま。世界記録の更新が完了しました。あなたの物語が、新しい時代の始まりとして登録されました。』  
「物語、か。俺にとっては終わりじゃなく、やり直しだよ。」  

ベリスの姿も現れる。  
「リアム様……ずっと、見ておりました。あなたが築いた世界、どこまでも美しい。」  
「ベリス……お前もここに来ていいのか?」  
「はい。神々はいなくなっても、記録の隙間に私たちの居場所があります。」  
「……寂しくなるな。お前こそ、“再生の姫”に相応しいのに。」  
「いいえ、私は監視者ですから。あなたが選んだ未来を、見守る役目です。」  
そう言って、彼女は静かに微笑み、空へと溶けた。  

風が止み、森が再び静寂を取り戻す。  
ルミナスの声が淡く響いた。  
『これで本当に最後です。リアム、あなたはこれからどうしますか?』  
「そうだな……一つだけ、やり残した配信がある。」  
『配信? なんですか?』  
「“ありがとう”を伝えるだけの、最終回さ。」  

目を閉じる。  
世界のあらゆる場所に、俺の声が届くように願う。  

「――みんな、ありがとう。  
 俺は、もうこの姿を保てないけど、君たちの記録にいられるなら、それで十分だ。  
 ルミナス、これが最後のタイトルだ――“失われた仲間たちへ”。」  

ルミナスがかすかに笑う。  
『それ……最高です、ご主人さま。再生しました。全世界に送信完了。ログファイルは永久保存指定です。』  

視界が光に包まれ、身体が風に溶けていく。  
消えていくのではない。混ざり合い、世界そのものになる。  
俺が創ったこの世界が、これからも未来を紡いでいく。  
その無限の先に、再び会える日が来ると信じて。  

そして、最後に聞こえたのは、ルミナスの優しい声だった。  
『ご主人さま、今日も綺麗な朝です。』  

空に光が差し、森の向こうで新しい太陽が昇る。  
輪廻が廻り、世界が呼吸する。  
誰もが繋がり、誰もが生きている。  
それでいい。  
それこそが、俺が――生きた証だった。
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