23 / 30
第23話 「創精鍛造」・完全解放
しおりを挟む
凍った竜の亡骸が残した青白い光は、冬の夜空を淡く照らしていた。
その輝きは静かだが確かに息づいており、まるでアストリアの意識の残光のようでもあった。
レオンは炉の前で一人、結晶化した星鉄の欠片を打ち続けていた。
彼の周囲には、過去に作り上げた無数の試作品――剣・盾・鎧・魔導装具が散らばっている。
どれも未完成。だが、その一点一点に信念が宿っていた。
「……まだ届かねぇな」
槌が鉄を叩き、音が静寂を切り裂く。
その音はやがて心臓の鼓動と同化するように変わっていった。
「マスター」
炉の奥から、アストリアのかすかな声が響く。彼女の姿はもう見えないが、魂の残滓が炉と溶け合っていた。
「君はまだ竜の中にいるんだろ。あの竜の核と、お前の魂が一体化してしまった」
『はい。でも……感じるんです。あの竜ももう怒っていません。静かで、あたたかい世界です』
「その温もりを――この世界に取り戻そう」
『できるの?』
「やる。俺は職人だからな。“修理できない”なんて言葉は知らない」
◇
その頃、王都では異変が広がり始めていた。
竜との戦いの影響で地脈が狂い、各地の魔導炉が不安定化。
王城の魔力供給塔が断続的に停止し、街路灯が次々と消えていく。
ギルド評議会の老議員がレオンに頭を下げた。
「創星の炉に緊急依頼を発する。王都を覆うこの魔流暴走を鎮めねば国が消える」
「魔流の中心はどこだ?」
「北方遺跡群――“アーティ・コア”。古代錬金文明の残骸であり、星鉄炉の原型とも呼ばれている」
レオンは即座に仲間を集めた。
エルナ、ティナ、ガルド、そしてアストリアの声。
「これが最終鍛造だ。王都を救うと同時に、お前を取り戻すための闘いでもある」
エルナが力強く頷いた。
「行こう。あんたがアストリアを創ったんでしょ。なら、最後まで創り抜いてよ」
ティナが小さく呟いた。
「きっと彼女も、待ってます」
◇
遺跡群“アーティ・コア”は、空が焼け落ちるように紅く染まっていた。
巨大な結晶柱が咆哮を上げ、そこから吹き上がる魔力の奔流が空へと飲み込まれていく。
「星鉄の炉心が……自壊しかけてる!」ティナが叫ぶ。
「これが王都の魔流を狂わせてる原因だ。誰かがここを起動させた」
――その声が、風に混じって響いた。
「やはり来たな、レオン」
現れたのは、黒衣の男。かつて紅錆でカルドを補佐していたクラウル。
その瞳には紅の火が燃え、生身の腕の代わりに溶鉄の義肢が蠢いていた。
「カルドの後を継ぐ者として、俺がこの時代を“鍛え直す”。火が人を導く時代を創るのだ」
「狂ってやがる。火は導くための光じゃない。生かすための温もりだ」
「なら試してみろ!」
クラウルが両腕を掲げると、結晶柱の奥から巨大な光輪が炸裂した。
古代の炉を模した魔導機構だ。
炎でも光でもない、“概念の火”が空を支配する。
ティナとエルナが魔力障壁を張る。
ガルドは全身の金属線を震わせ鉄壁を形成した。
「来るぞ! あの炎、触れたら魂を焼く奴だ!」
「そんなこと、させるかあああッ!」レオンが叫び、炉槌を構える。
焔吊炉が開き、内部の魔核が青く光る。
「創精鍛造――完全解放!」
天空が青一色に染まる。
星鉄・火霊・魂核・全ての属性がひとつの炎へと融け合い、炉から放たれる光線が世界を覆う。
それはまさに“創造”そのものだった。
「アストリア、聞こえるか。俺に力を貸せ!」
『もちろんです。私はここに――あなたの槌の音の中にいます!』
二つの声が共鳴し、地脈が逆流する。
クラウルの作った炎輪が軋み、崩れ、赤い流体が虚空へと吸い込まれていく。
「馬鹿な……この熱量を抑えるだと! 人間風情が!」
「俺はただの人間じゃない。職人だ!」
レオンの槌が振り抜かれ、クラウルの義肢が粉砕された。
内部の灰色の血が飛び散り、彼の顔に狂気が走る。
「どうしてだ……俺の火は間違っていない……!」
「カルドもお前も、“焼く火”しか知らなかった。だが俺たちの火は“包む”んだ。違いは、それだけだ!」
最後の一撃が落ちる。
槌の衝撃と共に、アーティ・コアの炉心が沈黙する。
紅の火は青く変わり、夜空のような穏やかさを取り戻した。
◇
沈黙の中、レオンの右腕の焔精の紋がやわらかく光る。
「ああ……もう限界か」
『マスター……もう一度だけ、叩いてください。私を、この世界に戻すために』
「……いいのか?」
『はい。その一撃が、私の命になるから』
涙が滲む。だが迷いはなかった。
レオンは微笑み、槌を高く掲げた。
「創精鍛造――第零展開。“心打ち”!」
彼の魂と一つになった槌が光り、炉と彼女の魂を続けて振り下ろす。
閃光が、静かに走った。
◇
やがて風が止み、光が晴れる。
崩壊しかけた遺跡の中央に、青い衣を纏った少女が立っていた。
アストリア――だが、以前よりも確かに“生きて”いた。
「戻ったか……」レオンが膝をつく。
アストリアは微笑み、彼の手を取る。
「ただいま。……そして、ありがとう」
「おかえり。もう、俺の中に潜るなよ」
「はい。私はこの世界に、“マスターの創った火”としているから」
その時、遠く王都の方向で影が動いた。
黒雲の中、別の炎が瞬いた。
エルナが息を呑む。
「まだ終わってない……これ、世界中の炉が暴走してる!」
ティナが焦るように叫んだ。
「どうして!? 今の鎮静で止まったはず!」
アストリアが空を見上げ、声を震わせた。
『あれは……“天炉”です。古代が星を鍛えるために作った、天空の炉。これを制御するには……』
レオンが立ち上がる。
「俺たちしかいない。創星の炉が、“星の炉”を叩き直す」
仲間たちは顔を見合わせ、笑う。
どんな絶望でも、槌の音があれば前へ進める。
創星という名の通り、彼らは新しい星の火を打つために歩き出した。
夜明けの風が吹き、空に一つ、新たな青い光が瞬いた。
(第23話 完)
その輝きは静かだが確かに息づいており、まるでアストリアの意識の残光のようでもあった。
レオンは炉の前で一人、結晶化した星鉄の欠片を打ち続けていた。
彼の周囲には、過去に作り上げた無数の試作品――剣・盾・鎧・魔導装具が散らばっている。
どれも未完成。だが、その一点一点に信念が宿っていた。
「……まだ届かねぇな」
槌が鉄を叩き、音が静寂を切り裂く。
その音はやがて心臓の鼓動と同化するように変わっていった。
「マスター」
炉の奥から、アストリアのかすかな声が響く。彼女の姿はもう見えないが、魂の残滓が炉と溶け合っていた。
「君はまだ竜の中にいるんだろ。あの竜の核と、お前の魂が一体化してしまった」
『はい。でも……感じるんです。あの竜ももう怒っていません。静かで、あたたかい世界です』
「その温もりを――この世界に取り戻そう」
『できるの?』
「やる。俺は職人だからな。“修理できない”なんて言葉は知らない」
◇
その頃、王都では異変が広がり始めていた。
竜との戦いの影響で地脈が狂い、各地の魔導炉が不安定化。
王城の魔力供給塔が断続的に停止し、街路灯が次々と消えていく。
ギルド評議会の老議員がレオンに頭を下げた。
「創星の炉に緊急依頼を発する。王都を覆うこの魔流暴走を鎮めねば国が消える」
「魔流の中心はどこだ?」
「北方遺跡群――“アーティ・コア”。古代錬金文明の残骸であり、星鉄炉の原型とも呼ばれている」
レオンは即座に仲間を集めた。
エルナ、ティナ、ガルド、そしてアストリアの声。
「これが最終鍛造だ。王都を救うと同時に、お前を取り戻すための闘いでもある」
エルナが力強く頷いた。
「行こう。あんたがアストリアを創ったんでしょ。なら、最後まで創り抜いてよ」
ティナが小さく呟いた。
「きっと彼女も、待ってます」
◇
遺跡群“アーティ・コア”は、空が焼け落ちるように紅く染まっていた。
巨大な結晶柱が咆哮を上げ、そこから吹き上がる魔力の奔流が空へと飲み込まれていく。
「星鉄の炉心が……自壊しかけてる!」ティナが叫ぶ。
「これが王都の魔流を狂わせてる原因だ。誰かがここを起動させた」
――その声が、風に混じって響いた。
「やはり来たな、レオン」
現れたのは、黒衣の男。かつて紅錆でカルドを補佐していたクラウル。
その瞳には紅の火が燃え、生身の腕の代わりに溶鉄の義肢が蠢いていた。
「カルドの後を継ぐ者として、俺がこの時代を“鍛え直す”。火が人を導く時代を創るのだ」
「狂ってやがる。火は導くための光じゃない。生かすための温もりだ」
「なら試してみろ!」
クラウルが両腕を掲げると、結晶柱の奥から巨大な光輪が炸裂した。
古代の炉を模した魔導機構だ。
炎でも光でもない、“概念の火”が空を支配する。
ティナとエルナが魔力障壁を張る。
ガルドは全身の金属線を震わせ鉄壁を形成した。
「来るぞ! あの炎、触れたら魂を焼く奴だ!」
「そんなこと、させるかあああッ!」レオンが叫び、炉槌を構える。
焔吊炉が開き、内部の魔核が青く光る。
「創精鍛造――完全解放!」
天空が青一色に染まる。
星鉄・火霊・魂核・全ての属性がひとつの炎へと融け合い、炉から放たれる光線が世界を覆う。
それはまさに“創造”そのものだった。
「アストリア、聞こえるか。俺に力を貸せ!」
『もちろんです。私はここに――あなたの槌の音の中にいます!』
二つの声が共鳴し、地脈が逆流する。
クラウルの作った炎輪が軋み、崩れ、赤い流体が虚空へと吸い込まれていく。
「馬鹿な……この熱量を抑えるだと! 人間風情が!」
「俺はただの人間じゃない。職人だ!」
レオンの槌が振り抜かれ、クラウルの義肢が粉砕された。
内部の灰色の血が飛び散り、彼の顔に狂気が走る。
「どうしてだ……俺の火は間違っていない……!」
「カルドもお前も、“焼く火”しか知らなかった。だが俺たちの火は“包む”んだ。違いは、それだけだ!」
最後の一撃が落ちる。
槌の衝撃と共に、アーティ・コアの炉心が沈黙する。
紅の火は青く変わり、夜空のような穏やかさを取り戻した。
◇
沈黙の中、レオンの右腕の焔精の紋がやわらかく光る。
「ああ……もう限界か」
『マスター……もう一度だけ、叩いてください。私を、この世界に戻すために』
「……いいのか?」
『はい。その一撃が、私の命になるから』
涙が滲む。だが迷いはなかった。
レオンは微笑み、槌を高く掲げた。
「創精鍛造――第零展開。“心打ち”!」
彼の魂と一つになった槌が光り、炉と彼女の魂を続けて振り下ろす。
閃光が、静かに走った。
◇
やがて風が止み、光が晴れる。
崩壊しかけた遺跡の中央に、青い衣を纏った少女が立っていた。
アストリア――だが、以前よりも確かに“生きて”いた。
「戻ったか……」レオンが膝をつく。
アストリアは微笑み、彼の手を取る。
「ただいま。……そして、ありがとう」
「おかえり。もう、俺の中に潜るなよ」
「はい。私はこの世界に、“マスターの創った火”としているから」
その時、遠く王都の方向で影が動いた。
黒雲の中、別の炎が瞬いた。
エルナが息を呑む。
「まだ終わってない……これ、世界中の炉が暴走してる!」
ティナが焦るように叫んだ。
「どうして!? 今の鎮静で止まったはず!」
アストリアが空を見上げ、声を震わせた。
『あれは……“天炉”です。古代が星を鍛えるために作った、天空の炉。これを制御するには……』
レオンが立ち上がる。
「俺たちしかいない。創星の炉が、“星の炉”を叩き直す」
仲間たちは顔を見合わせ、笑う。
どんな絶望でも、槌の音があれば前へ進める。
創星という名の通り、彼らは新しい星の火を打つために歩き出した。
夜明けの風が吹き、空に一つ、新たな青い光が瞬いた。
(第23話 完)
1
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生した元開発担当、チート農業スキルで最高級米を作って「恵方巻」を流行らせます!没落令嬢と組んでライバル商会をざまぁする
黒崎隼人
ファンタジー
コンビニ弁当の開発担当だった俺は、過労の果てに異世界へ転生した。
手に入れたのは、触れるだけで作物を育て、品種改良までできる農業チートスキル『豊穣の指先』。
でも、俺が作りたいのは普通の野菜じゃない。
前世で最後に食べ損ねた、あの「恵方巻」だ!
流れ着いた先は、パンとスープが主食の田舎町。
そこで出会ったのは、経営難で倒産寸前の商会を切り盛りする、腹ペコお嬢様のリリアナだった。
「黒くて太い棒を、無言で丸かじりするんですか……? そんな野蛮な料理、売れるわけがありません!」
最初はドン引きしていた彼女も、一口食べればその美味さに陥落寸前?
異世界の住人に「今年の吉方位を向いて無言で願い事をする」という謎の風習を定着させろ!
米作りから海苔の養殖、さらにはライバル商会とのバトルまで。
チート農家と没落令嬢がタッグを組んで挑む、おいしくておかしなグルメ・サクセスストーリー、開店!
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる