落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第22話 灼熱竜の炉心戦

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アストリアが人の姿を得てから三日。  
創星の炉は再建作業の真っ最中だった。  
焼け落ちた外壁はガルドの手で作り直され、ティナは瓦礫から部品を分別している。  
エルナはアストリアの容態を確認しながら、傍らではレオンが新たな設計図を描いていた。  

アストリアは人の身体を得たものの、魂と炉を繋ぐ“魂導核”が不安定で、時折発熱と共に錯乱を起こす。  
その症状が収まるたびに、彼女は小さな声で呟いた。  
「わたし……ここにいてもいいの?」  
レオンは迷わず頷く。  
「お前はこの炉の心臓だ。いなくなったら、創星は止まってしまう」  
アストリアは涙をこぼしながら、静かに微笑んだ。  

だがその穏やかな時間を、届いた一通の封書が破壊する。  
王都防衛局の緊急印が押された書簡。そこに短く記されていた。  

――『天災級魔竜《イグニス・ロード》、北方鉱山地帯に出現。星鉄炉心を捕食中。創星の炉、直ちに協力せよ』  

エルナが声を詰まらせる。  
「……星鉄炉心……まさか、あの星鉄鉱山?」  
「俺たちが封印したティルナ鉱区だ」レオンの声が低く響く。  
「星喰いの残骸があの深層で眠っていた。それを狙って竜が……いや、竜の暴走を利用して誰かが動かしている」  

アストリアが弱く首を振る。  
『竜の炉心……感じます。あれは人工の熱。誰かが“火霊核”を埋め込んでます』  
「火霊核? ヴァリド火霊の欠片を……?」  
『はい。つまり、かつてマスターが鎮めた火霊王の一部を盗んで、竜の体内に移植したんです。それを制御できる存在がいる……』  

レオンの目が鋭く細まる。  
「また紅錆の残党か。それとも評議会の裏工作だ」  

ティナが不安そうに問いかける。  
「どうするんですか……?」  
「行く。だが今回は戦うだけじゃない。火霊核を取り戻すための鍛造戦になる」  

◇  

王都北方、ティルナ山脈。  
空は鉛色に曇り、吹き荒ぶ熱風が焼けた鉄粉を巻き上げる。  
その中心――断崖の峡谷で、巨大な紅い影が唸っていた。  
翼は山を越え、咆哮一つで雷雲を割る。  
あれが、“灼熱竜イグニス・ロード”。  

「でけぇ……こいつが星鉄を喰うってのか」ガルドが小声で唸る。  
「魔力反応、尋常じゃない……!」エルナが計器を握りしめる。  
レオンはマントを払って前へ出る。  
背中には、自ら設計した新兵装――“焔吊炉《ほのかづり》”を背負っていた。  
携行型鍛造炉に錬金融合機構を組み込み、アストリアの補助を受けて稼働する新型装備だ。  

「いいか、アストリア」  
『はい、マスター。魂導率、安定しています』  
「この戦いで俺たちの技術が試される。命を削る戦いになるが、逃げる気はないだろ?」  
『もちろん。私は炎の意志。戦って、創らなければ消えてしまう』  

レオンは頷くと、槌を握った。  

◇  

咆哮。地を揺るがす轟音と共に、灼熱竜が口を開いた。  
内部の炉心から溶岩よりも高温の火線が放たれる。  
周囲の岩が粉末になり、鉄が気化する。  
その熱波を真正面から受け止め、レオンが槌を振り抜く。  

「創精鍛造――反響壁起動!」  
アストリアの光と同調し、周囲の空気を圧縮する。  
蒼より白い七層の盾が現れ、竜炎の直撃を防いだ。  
轟音が響く中でもレオンの声は静かだった。  
「防御成功、出力三割保持。次は攻撃だ」  

背の焔吊炉が開き、内部から青い槍が形を成した。  
「星喰槍《ネブラ・ランス》、融合再起動!」  
槍を掴むと同時に、周囲の炎が渦を巻く。  
白い槍身に星光が流れ、竜の首筋に突き刺さった。  

凄まじい悲鳴が空を裂き、イグニスが暴れ回る。  
その揺れで山腹が崩れ、エルナたちがバランスを失いかけた。  
「レオンさん! もう限界です! あの竜、普通の生命じゃありません!」  
「わかってる。中枢に人工核がある。そこを――」  

その言葉は雷鳴に掻き消された。  
竜の背中が裂け、巨大な金属の杭が露出した。  
それはまさしく、かつてカルドが使った“灰神炉”の構造。  
「なんで……どうしてこれが……!」ティナが叫ぶ。  
アストリアの声が震える。  
『誰かが……カルドの灰を利用して……竜を再構築してる!』  

「やっぱりか」  
レオンの瞳が燃え上がる。  
「カルドの意志を穢されたまま放っておけるか!」  

彼は竜の体内に突っ込む。  
翼に叩きつけられ、鉄の爪が宙を切る。  
それでもレオンは一歩も退かない。  
槍の穂先が煌めき、竜の胸を貫く。  
内部へと飛び込んだその瞬間、強烈な光が彼の全身を包んだ。  

◇  

竜の体内は、もう生物ではなかった。  
金と赤が幾重にも層を成す炉心空間。  
中心に、黒いコアが脈打ち、そこから炎が循環している。  
「燃料循環を逆流させれば……!」  

アストリアが叫ぶ。  
『危険です! 完全な相転移を起こしたら、あなたも――!』  
「問題ない!」  

焔吊炉が開き、火霊核を展開。  
レオンの血が手のひらから流れ、炉心に吸い込まれる。  
「カルドの火霊よ――俺が、お前を鎮める!」  

槌を両手で握り、全力の打撃。  
轟くような金属音。  
竜の咆哮が泣き声に変わり、光が収束していく。  
外から見ると、巨竜の胸が赤く輝き、そこから白い炎が噴き出した。  

ティナとエルナが呆然と見つめる。  
「レオンさん……!」  
「彼、まだ中にいるんでしょ!?」  
山が崩れる。火柱が天を裂く。  

そして次の瞬間、真白い光が世界を包み――  

◇  

――静寂。  

雪の粒がひとつ、空から落ちてきた。  
冬の大気の中、巨大な竜の屍が氷のように固まり、崖の麓に沈黙する。  
その背から、青い火がゆらりと昇り、地上に二つの影を落とす。  

「見つけた!」ティナが駆け寄る。  
崩れた岩の上に、ボロボロのレオンが横たわっていた。  
その胸にはアストリアの人形体――だが、目を閉じて眠っている。  

「おい、しっかりしろ!」ガルドが担ぎ上げる。  
息がある。だが微弱だ。  
エルナが呟く。  
「……竜の炉心、完全に静まってる。まさか一人で……」  

ティナが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。  
「レオンさんって……いつも無茶ばっかり!」  
その時、炉の残骸に残った火霊の声が微かに響いた。  

――“ありがとう。俺の火は、ようやく安らげる”  

ティナとエルナが互いに顔を見合わせる。  
それは、カルドの声に似ていた。  

◇  

数日後。  
創星の炉の前に、凍った竜の欠片が積まれていた。  
それは星鉄を越える光を放ち、街の人々が息を呑むほどに美しかった。  
レオンは包帯だらけの右手で灰を払う。  
「火霊核も鎮まり、カルドの欠片も戻った。だが、アストリアがまだ眠ったままだ」  
ティナがうなずく。  
「彼女の魂、きっとまだ竜の中に残ってるんです。だから……」  
「取り戻す。どんなに遠くてもな」  

夜、炉の火が再び燃え上がる。  
その奥で、聞き覚えのある声が微かに囁いた。  

“マスター……帰りたい……”  

彼女の声が、灰の中の青い炎を揺らした。  
レオンは炎を見つめ、静かに頷く。  
「必ず迎えに行く。お前が創った火は、俺たちの未来だ」  

外の空では、竜の残した光が流星のように落ちていた。  

(第22話 完)
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