落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第26話 錬金料理祭での再会

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春風が王都の街並みに香辛料の匂いを運んでいた。  
創星の炉がある南区でも、露店通りは今や人で溢れかえり、いつにも増して賑やかだった。  
「今年もやってきましたね、“王都錬金料理祭”!」  
ティナがパンフレットを片手に弾んだ声を上げる。  
エルナは腕を組み、にやりと笑う。  
「ふふ、今回は本気で優勝狙うんだよね? 去年は“焦げた星パン事件”で予選落ちだったし。」  
「それは……まだ火加減の制御が下手だったんですよ!」ティナが耳を赤くする。  

レオンはそんな二人のやり取りを聞きながら、少し離れた場所で出場申請の書類を受け取っていた。  
「錬金料理祭」――それは王都最大の食と魔法の祭典であり、料理人、薬師、そして職人たちが“創造”によって食を競う場だった。  
テーマは毎年変わるが、今年の課題料理は、“星鉄と火霊をモチーフにした料理”。  
完全に、創星の炉の出番だった。  

「マスター、私も料理補助をできます!」アストリアが元気に前に出た。  
人の姿を得てから数ヶ月、彼女はすでに“炉の精霊”であることを感じさせないほど、人間らしい笑みを浮かべる。  
「だが、料理で鍛造の槌を使うなよ?」  
「もちろん、使いません。でも少しは叩いて香りを引き出すくらいなら……」  
「……ほどほどにしておけ。」  

◇  

予選初日。  
王都中央広場に設けられた特設会場には巨大な調理炉が並び、各ギルドの料理人や錬金術師が火花を散らすように競い合っていた。  
炎の匂い、香草と魔石から放たれる清浄な光。  
観客は歓声を上げ、審査員たちは目を細めて出来栄えを眺めている。  

創星の炉チームの挑戦は、“食を創る鍛治”。  
レオンは考案した新型調理炉《焔香炉》に火を入れ、アストリアが魔力制御を開始する。  
エルナが鍋を渡し、ティナが素材を加工した。  

「火霊香ぶり星鉄ステーキ!」エルナが叫んだ。  
砕いた星鉄粉と火霊香を使い、肉の表面を魔炎で閉じ込める。  
その香りは観客席にまで届き、どよめきが広がる。  
「へえ、香りが重層的だ……でも、強すぎるな」どこか馴染みのある低い声がした。  

レオンが顔を上げた瞬間、隣の屋台に立つ人物の姿に息を呑んだ。  
「あんた……まさか」  
「おや。覚えていてくれて光栄だよ、レオン。」  

銀髪をなびかせ、片手で鍋を軽く振るう青年。  
その手際は神業と呼べるほど滑らかで、香草を刻む音さえ旋律を奏でていた。  
――セリウス。  
かつて彼と共に導律炉心の研究を行った元魔道具職人。  
数ヶ月前の導律融合事件をきっかけに姿を消した男が、今ここに料理人として立っていた。  

「久しいな。導律炉の改修以来か?」  
「……どういう風の吹き回しだ。料理が専門ってわけでもないだろ」  
セリウスは口元だけで笑った。  
「いや、導律回路は“味の濃度”制御にも応用できる。導律と舌は意外と近い。要は、どちらも“感覚の錬金”だ。」  
「そうやって何でも繋げて遊ぶ癖、変わってねえな。」  

エルナが眉をひそめる。  
「レオンさん、知り合い?」  
「ああ、昔の仲間だ。……だが今は敵でもある。」  

セリウスが軽く肩をすくめる。  
「別に敵意はないさ。ただ、勝負は欲しいと思ってね。」  

◇  

勝負は当然のように審査員たちの提案で実現した。  
「前大会優勝ギルド“創星の炉”対、特別出場“導律工房セリウス”!」  
歓声が爆発し、広場がざわめく。  

試合内容は、“火霊をテーマにした創作料理対決”。  
時間は二刻。  
レオンは調理台の上で素材を並べながら、彼をちらりと見た。  

セリウスの手元で、魔力が赤と白に揺れている。  
「おい、あいつ、魔導炉使ってるぞ。」ガルドが小声で言った。  
「禁止スレスレの応用だな。料理祭で魔導炉をそのまま使う奴はいない。」  
しかし、禁止ではない。会場が静まり返る。  

レオンは逆に道具を一つ外した。  
「……今の俺に余計な機械は要らない。火そのものと向き合うだけでいい。」  
アストリアが頷く。  
『了解。マスター、本気の創精料理を見せましょう!』  

二人の火が同時に灯る。  
青と紅――まるで正反対の性質を持つ二つの火が、会場中央でぶつかり合った。  

◇  

レオンが叩き出したのは新技術“錬金火香調律”。  
食材の魔素構造を解析し、火の魔法音で共鳴させることで、旨味を増幅させる。  
星鉄粉が火の旋律に応じて光り、肉がわずかに青く輝いた。  

「どうだアストリア、火加減は?」  
『完璧です。味曲線、最高値を記録。美味しさ指数120%!』  
ティナが歓喜の声を上げる。  
「新しい単位出ました!」  
会場がどっと笑いに包まれる。  

一方、セリウスの料理は静かだった。  
香りも見た目も驚くほど地味。ただし、仕上げの瞬間に鮮烈な光が走る。  
皿の上で魔力が凝固し、肉が透き通るような蒸気を上げた。  

「“導律的美食術《ラプソディア》”。味覚を神経と直結させ、人が“見えない味”を感じる料理だ。」  
審査員たちは一口を食べた瞬間、息を止めた。  
「……味が、音に変わる?」  
「これは……記憶の味だ!」  

観客も呑み込み、静寂が広がる。  
最後に審査員長が言葉を発する。  
「どちらも甲乙付けがたい。ただ一つ言える――創星の炎は心に届き、導律の味は記憶を呼ぶ。」  

採点は引き分けだった。  

◇  

勝負後。  
観客の喝采が鳴り止まぬまま、セリウスが手を差し出した。  
「やはり、“創る”という感情において、お前の情熱は異常だな。俺が負けた理由はそこだ。」  
「勝負はまだ途中だろ。次は炉でも槌でも、どこででも受けてやる。」  
「その言葉、覚えておくよ。」  

セリウスは夕陽の中へ歩き去る。  
その背を見送りながら、エルナが呟いた。  
「レオンさん……あの人、本気で悪い人じゃなさそうだったね。」  
「創る人間は皆、同じだよ。道は違っても“完成”を求める限り、敵にも仲間にもなる。」  

アストリアが微笑む。  
『マスター、今日の料理……すごく優しい味でした。』  
「そうか。お前にも食わせてやりたかったな。」  
『でも、心では味わってます。これが“創星の火”なんですね。』  

青い炎が、夜の帳を押し上げるように輝いた。  
創星の炉はさらに新しい絆を得て、次なる道へ進み始めていた。  

(第26話 完)
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