王女殿下のモラトリアム

あとさん♪

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もっとも活躍をした学生は誰だ?

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【『今年度、もっとも活躍をした学生は誰だ!』女子学生部門は、

 本年度入学し、一年生ながらも、学生自治会を設立、この卒業記念祭を発案し、学園生全員に働きかけた、アンネローゼ・フォン・ローリンゲンさまです!!】

 高らかに響き渡ったレオニーの声の後に会場中から、おおおおーーーーーーーっと物凄い歓声が上がったわ。

【さぁ! アンネローゼさま! 壇上へお上がりください!!】

「呼ばれていますよ」

 キャシーが拘束を解いて、わたくしの背をトン、と押した。
 それを合図に、舞台中央に向かって歩を進める。

【アンネローゼさまは、皆さまご存じのとおり、我がシャティエル国が誇る唯一の王女殿下!
 清く正しく美しい、我々の敬愛すべきお方です。
 王女の身分に奢らず、下位貴族、いいえ、カフェテリアの配膳係にまで、極め細やかにお心遣いなさる素晴らしいお方であるうえに、年間通して首位の成績を維持する本年度の成績優秀者でもあります】

 ちょっと、カール。
 貴方それ、持ち上げ過ぎよ?
 そういうの『褒め殺し』っていうのよ?
 その落ち着いた声での解説は見事だけれども!

 そう思いつつも笑顔で舞台中央へ向かうわたくし。客席からは割れんばかりの拍手。

 中央では拡声器を下ろしたレオニーが、“こちらにどうぞ”とばかりに手を差し出している。
 傍へ寄って彼女と握手したあとでハグ。

「聞いてないわよ、レオニー?」

「終わったら全部説明します」

 ハグしながらお互いの耳元で囁き合う。
 わたくしがいた方とは反対側の舞台袖から来たスタッフが、レオニーになにやら箱を渡す。
 アスラーンが持っているのと同じ記念品のようね。
 大拍手の中、レオニ―からその箱を受け取る。

【では、受賞の一言をお願いいたします。
 まずは、セルジュークさまから】

 レオニーから拡声器を渡されるアスラーン。
 彼はそれを持ったあと、わたくしと視線を合わせた。と、同時に、

『絶対お前を嫁にするからな』

 急に脳内に響いたアスラーンの声。

 え? えぇ?! なに?

 彼、口を動かしていなかったわよ?!
 なのに、彼の声が聞こえた……いいえ。わたくしの脳内にその声が響いたの。
 まるで耳元に囁かれたように、でもはっきりと。

 これは、なに? どういった現象なの?

 アスラーンは拡声器を観客へ向けて構えた。わたくしは顔には出さず、静かにパニックに陥っていた。

【あー、この度は……栄えある? 最も活躍した学生? とやらに選んでいただき、誠に、ありがとうございます。
 三年間、この学園で学び、学友と切磋琢磨できたこと、私には貴重な経験でした】

 拡声器を通しても良い声なのね、アスラーン。

【ですが、――私は、最終試験に落第しまして。留年と相成りましたので、来年度も居残ります!】

 はーーーーーーーぁ?
 なに言ったの、この人?!?!

 留年ですって? 居残りって言った?

【そして剣術試合に出ます!
 目指すは“四年連続優勝”です!
 騎士科学生諸君へ告ぐ!
 俺を倒して四年連続優勝を阻止しろ!
 再戦を、俺は待ってるぜ!】

 な、なんですってぇ?

 会場中がおおおおおおーーーーーー! という歓声に包まれたわ。

 多分、主に騎士科学生から。
 そうよね、アスラーンは専科クラスなのよ。
 それが専門職にあたる騎士科学生よりも強いなんて、本来騎士科学生にとっては屈辱のはずなのよ。

 リベンジチャンスに燃えている騎士科学生たちと、笑顔で振りかざした拳を見せ合うアスラーン。

 でも、でもね、アスラーン。
 わたくし留年なんて、そんな大事なこと、ひとことも聞いていないわよ?!

『言ってないからな、すまん』

 即座にいらえが。またしても脳内に。さっきからなんなの?

 アスラーンは、わたくしにピタリと視線を合わせた。そして拡声器は観客席に向けたまま、ついっとわたくしの右手を取った。

【俺は、ほぼ一年まえに、噴水広場で君に求婚した。
 そのときは即刻振られた。
 当然だ。俺はあのとき“自国の国益になるから”という理由で求婚したのだから】
『違う。一目で欲しくなったからだ』

 拡声器を通して語られる声と前後して、脳内に響くアスラーンの声。

【だが、断られても君のことを諦められなかった。
 なぜなら、この学園で過ごし、君と言う人間を知れば知るほど、君に惹かれたのだから】
『これは本当。そして決定打はあの夜の大聖堂』

 脳内にはアスラーンの声と共に夜の大聖堂で月夜に輝くステンドグラスの映像が映し出された。

【俺は何度でも乞い願う。
 アンネローゼ姫、君を愛している。
 君が望むならどこの国の国王の首でも獲ってこよう。
 君の望むままに、世界の版図を変えてみせよう。
 なんなら、俺の国が属国になっても構わない】
『そうする価値がおまえにはある』

 アスラーンがわたくしの前に、片膝立てて跪く。

【アンネローゼ姫。
 君に恋焦がれるあまり、学業が疎かになり留年するような男になりさがった俺だけど、どうか、俺を正式な婚約者にしてくれ】
『もう一年、一緒にいたかったから試験は名前だけ書いて提出した!』

 この男。
 どうしてくれよう。

 さきほどから突っ込みたい案件が山のようにあるわよ!
 留年のこと。
 この脳内に木霊こだまするアスラーンの声のこと。

 それと三度目の公開求婚!
 求婚自体は四度目だけど!
 その内容でさらりと物騒なこと言っていたし!
 いつわたくしが他国の王の首を所望したの?

『年末パーティーで』

 あれは、彼らを追い払う為にわざとやった無茶ぶりよ!
 そんなこと分かってるでしょうに!!

「ローゼ? 返答、どうするの?」

 レオニーが拡声器を通さない、囁くような声でわたくしに問い掛けたことでハッとしたわ。

 今、わたくし心の声でアスラーンと会話していた?

 会場中がアスラーンの公開求婚に固唾を呑んで見守っているみたいな雰囲気をビシバシと感じるわ。
 みんな、わたくしがどんな返事をするのか待っている。

「わたくしは……」

 なんて応えればいいの?
 混乱してきたわ……一気に色々なことが重なって、わたくしでは処理しきれないわっ。

『おまえが一番に望むことを。アンネローゼ』




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