生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
516 / 722

第516話 運命の日

しおりを挟む
 夕日が輝き、その光が大きなコロシアムを包み込む中、この辺りでは見慣れない鎧に身を包んだ屈強な兵士たちに囲まれた2人の女性が、豪華な椅子へと腰掛けた。
 その流れるような動きは気品に溢れ、優雅な仕草が2人の美しさをより一層引き立たせる。
 ピンと伸びたエルフ種特有の耳は、透き通りそうなほどの透明感。にも拘らず、内面から溢れる情熱と知性は近寄りがたい雰囲気をも漂わせていた。

「やれやれ。国葬だからと来てみれば、まさか九条の処刑が前座とは……」

 ここは、王都スタッグの城郭内にあるグリフィス円形闘技場。主に貴族同士の決闘や、兵の鍛錬などに使われるが、罪人を裁く場所としても利用されている。
 その一角。東西南北に分かれた4つの貴賓席の1つには、リブレス連合国より女王エルメロードとその護衛でプラチナプレート冒険者でもあるイーミアルが招待されていた。

「まぁ、見え見えの責任逃れでしょうね。アドウェール王を亡くした直後とあっては、他国との余計なトラブルは避けたい……と言ったところでしょう」

 コロシアムの中心には既に断頭台が置かれていて、今日の日の為に研ぎ澄まされたであろう刃が、生贄の到着を待ちわびているかのように怪しい輝きを放っている。

「陛下だったら、どうします? 私に禁呪使用の疑いが掛けられたとしたら……」

「うーん……そうねぇ……。折角取り返せた仮面の解析も進まないし、そんな無能なら飼っていても仕方ないかなぁ……」

「それは私の所為じゃないですよね!? 私は監督しているだけで、研究は国選の錬金術師たちの仕事。それなのにアイツら文句ばっかりで……。元はと言えば、陛下にも責任があるんですからね! ギルドは非協力的で、碌な錬金術師が国に入ってこないんですから……」

「冗談だ。そんなにムキなるなイーミアル。……しかし、あの仮面が自在に扱えるようになれば、向かう所敵なしなんだがなぁ……」

 背もたれに寄りかかり頬杖をつきながらも、チラリと視線を空へと向けたエルメロード。
 その先にあるのは、自分達が乗ってきた飛翔魔導船。それは、まだ完成には至っていなかった。
 スタッグ王立魔法学院との共同研究により、魔力を圧縮し液体化する技術は確立した。
 それは、希少となってしまったマナポーションの代替えにと研究されていた物の副産物。
 すぐに気化してしまい、マナポーションとしての実用化にはほど遠かったが、リブレス独自の研究により開発された疑似ダンジョンコアによって、魔力の貯蔵が可能となった。
 それを飛翔魔導船に搭載することにより、世界樹から離れての飛行も可能となったが、燃費は変わらず悪いまま。
 約1年、リブレスが心血を注ぎ魔力を疑似ダンジョンコアに蓄えても、スタッグとフェルヴェフルールの往復分で全てを使い切ってしまう計算だ。
 そこで、九条がフードルから取り返したネロの仮面から無限の魔力を取り出そうと試みてはいるのだが、その成果は芳しくないといった状況である。

「せめて、仮面の事を知る魔族を捕らえることが出来れば、少しは違ったんでしょうが……」

「お前の追っていたフードルは、九条に倒されてしまったからな。その九条なら降霊もあるいはと期待していたが、この始末……。中々思うようにはいかんなぁ……」

「ひとまず、飛翔魔導船の初号機をお披露目出来ただけでも成果はあったと考えましょう。我々がそこから降りた時のアルバート殿の顔ときたら……。実に滑稽でした」

「確かに傑作ではあったが、一応はスタッグの次期国王だ。笑ってやるな。……それよりも……実に豪華な顔ぶれじゃないか。シルトフリューゲルの皇帝がまだのようだが、この後の首脳会談が楽しみだ」

 エルメロードとイーミアルがいる場所はコロシアム南側。北側にはグランスロードの姫君である獣人のヴィオレとエドワードが着席し、東側にはドワーフの王が鎮座している。
 そのどちらもが眉間にシワを寄せる仏頂面だが、西側の席にはまだ誰も姿を見せていない。
 当然、そこにはアルバートが着席するものだと思われていたが、それだけではなかった。

「ほう。異端審問官か。その姿を直に見るのは初めてだな」

 アルバートとバイアスが姿を見せると、その後方からぬるりと現れたのは黒い法衣の女性。
 目元を隠すかのように深く被ったフード。腰から垂れ下がる幾つのも鎖は、拘束具でもあり武器でもある。
 とは言え、それは噂に過ぎず、実際に使われている所を見た者は少ない。


 アルバートだけが席に着くと、その両脇に並び立つバイアスと盲目。
 貴賓席だけあって見晴らしは良く、一般の客席には多くの貴族達が集まっていた。

「随分と大事にしましたねぇ。別に九条の処刑を見世物にしろとは言っていませんのに……」

 少々不満気な盲目に対し、ムッとした様子のバイアス。

「確かにそうですが、これは戒律違反には厳正な対処をするという我々スタッグ王国側の総意です。我々は一切関与していないという覚悟の表れであると、お考えいただきたい」

「なるほどぉ。ただの見せしめに大層な解釈をしているようですが、そうでもしないと私達が信用できないということですねぇ?」

「ハハハ、何を仰いますやら。むしろ教会が、我々の潔白を世間に広める手間を省いたのですよ」

「ふむ。流石はバイアス公爵様。隙がありませんねぇ……」

 表面上はどちらも笑顔。そんな2人が交わす高度なやり取りに、アルバートが入り込む余地はない。
 バイアスの計画は完璧。アルバートはただ見ているだけで良かったのだが、どこか物足りなさも感じていた。
 九条の処刑が決定し、胸のつかえが取れた。自分の起こした過ちが世に出ることが無くなったと安堵し、代わりに出てきたのが次期国王としての自覚である。

(折角国賓が集まっているのだ。ここで僕の威厳を示しておくのも悪くない……。何時までも、バイアス公を頼るわけにもいかないしな……)

 アルバートが思い描く強い王。それは何者にも厳格で、情などに流されない決断力に優れる者。

(お父様は優しすぎた。国民に施しているだけではダメだ。これからは民が王を支え、王が国を発展させてこそだろう。その為には、まず教会を牛耳らなければ……)

 その計画の第一弾。まずは教会から更なる信頼を得ようと、アルバートは秘密裏に動いていた。

(魔法書などくれてやればいい……。それで教会の目を欺けるなら、安いものだ……)
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...