生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
517 / 722

第517話 人生の終わり

しおりを挟む
「……本当に、九条とは面会せずとも良いのですか? 後から偽物であったと難癖をつけられても困るのですが……」

「大丈夫です。私にはこの眼がありますから。プラチナ……しかも、魔法系適性なら一目瞭然ですので」

 盲目にとって魔力は顔のようなもの。色、形、輝きの強さに総容量。それは泉のように湧き出し、漣のように揺れ動く。
 そこから読み取れる情報も十人十色。盲目は異端審問官として、善悪様々なものを見てきた実績がある。
 その眼に見抜けぬ物はない……と、言っても過言ではないのだが、そんな彼女に見抜けないものがあるとすれば、それは見た事のないものだけだ。

「噂をすれば……。時間ですな」

 東西に1つずつ設置されている舞台入場口。東側の鉄格子が甲高い音を立て開かれると、その暗がりから姿を見せたのは、質素な囚人服に身を包んだ九条であった。
 西日を見上げ、眩しそうに目を逸らすのは、日よけとして自分の手が使えないから。
 逃げ出さぬようにと手枷は当然、足枷には重りとして鉄球まで付けられている。
 顔色があまり良くないのは、数日とは言え罪人として地下牢へと幽閉されていた所為だろう。

「へぇ……あれが九条ですか……。うーん……禁呪を操るくらいですから、それ相応のものをお持ちかと思いましたが、驚くほどではありませんねぇ」

 眩しさに慣れた九条が辺りを見渡すと、何かに気付いて頭を下げる。
 その方向はリブレスの来賓席。その後すぐに北側へと視線を移し、申し訳なさそうにしながらも笑顔を見せた。
 それに対し、何かを言いかけたエドワードであったが、その袖を引いたのは隣のヴィオレ。
 唇を噛み締め、悔しそうにしながらも黙って腰を下ろした。

「ふーむ……。確かに死霊術の資質には優れているようですが、泡沫夢幻さんと比べたらそうでもないような……。それよりも、なんでしょう……あの形状……」

 よく見えるようにと、目を凝らすような仕草をする盲目。
 それは貴賓席から身を乗り出してしまうほどだが、近づけば見やすくなるというものではなく、気分的な問題だ。

「魔力の質は人間だけど……入れ物はどちらかというと……獣人に近い……? 竜種のようにも見えるけど……リザードマンではないし……。いや、やっぱり人間かな?」

 それは、盲目でも見たことがない不思議な魔力の形状だった。
 何かが混ざっているようにも見えるそれは、混血である獣人やハーフエルフに良く見られるものだが、その色はどちらとも違う別物だ。
 もっと強力な種族。例えるなら竜種に見られる色合いなのだが、内包する魔力は人間のもの。
 とは言え、何物にも例外は存在する。そもそもプラチナまで上り詰める者は少なく、更に言うなら九条はハイブリッド適性という希少種だ。
 その謎に満ちた魔力形状に、一旦は訝しんだ盲目だったが、そういうものなのだろうと深くは考えなかった。
 そんなことよりも、別の事に気を取られていたのだ。

(……なんで、あんなに落ち着いているんだろう……)

 盲目は職業柄、人の死を嫌というほど見てきた。その中には平静を装う者もいたが、心の底では誰もが死を恐れていたのだ。
 その魔力の淀みは、荒れ狂う波のように激しく乱れる。それが死に直面した者の反応なのだが、九条は違っていた。
 目の前には、断頭台。それが己の命を刈り取る物だとわかっているのに、内包された魔力は乱れることなく穏やかだった。

(死を受け入れているから? それとも、プラチナだから?)

 確かに異例ではあった。
 誰かに連行されるでもなく、泣き叫び許しを請う訳でもない。九条は自らの意思でそこへ立っていたのだ。

「頭のネジが外れているとはよく言うけど、まさか恐怖を感じないタイプ……?」

 九条が断頭台の前に立つと、その横にはレイヴン公が並び立ち、持っていた書面を広げその罪状を読み上げる。

「この者はヴィルザール教の戒律に反し、禁呪とされる術法を行使した。それは神への冒涜であり、教会の尊厳を傷つける行為は極めて深刻。よって、罪人はこれに対する責任を負うべきであり、その命を以て神への償いとする。この審判は、教会法に基づく崇高なものであり、社会の安全を確保するための適切な処置である」

 それを聞いている間、九条は反省しているかのように俯き、ジッとしてた。

「九条……すまない……。こんな事の為に連れてきた訳ではないのに……」

「仕方ありませんよ。悪いのは自分ですから……」

 小声で悔やむレイヴンに、バツが悪そうに微笑む九条。
 たった一言ではあったが、それは心の底からの謝罪であり、たった一言ではあったが、それはレイヴンの罪悪感を僅かに払拭した。
 降霊の為などではなく、処刑の為に呼び出された――。レイヴンが九条を騙したとも捉えられ、罵倒されてもおかしくない状況。
 死に逝く者に言葉は不要。しかし、そんなレイヴンでさえ自責の念に駆られ、己の信念を曲げてでも九条に頭を下げようと、執行人を名乗り出たのだ。

 九条は、自らの足で断頭台の置かれた舞台へ登って行くと、躊躇することなく跪き、これ見よがしに凹んでいる窪みにその首を乗せた。

「……何か、最後に言い残す事はあるか?」

「そうですね……。バイアス公には言ってあるのですが、ミアのことをよろしくお願いします」

「……しかと心得た……。安心して逝くがよい」

 最後の瞬間が近づくにつれ、九条の心は静寂と悟りに包まれていく。
 深く息を吸い込み目を閉じた九条は、走馬灯のようにこの世界でのことを思い返していた。
 今日、この日に1つの人生が終わりを告げ、新たな人生が始まる。ある意味、九条にとっては3度目の人生だ。
 今度はもう少し上手く立ち回れますようにと最後の祈りを捧げると、断頭台の刃が落ち、九条の意識は暗闇へと消え去った。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月中旬出棺です!! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...