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本編
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佑は恋愛をしたくないわけではない。もう恋愛はしないと、心に決めているだけだ。
昔はそんなことは無かったと思う。
人並みに片思いだけれど好きな人もいた。もちろん、告白はしていないけれど。
大学生になって彼氏が欲しいと思った時期もあった。
友達同士の間で繰り広げられる会話といえば、彼女の話か昨日寝た子の話。男子大学生が話す内容と言ったらそんなことくらいしかないのかと思ってしまうほど、下世話な話題が飛び交っていた。
そんな話を聞いていたら、恋愛の一つや二つくらい楽しみたいと思うものである。
その頃には自分は同性が恋愛対象だということは自覚していたし、どこで相手を見つけたらいいのかもなんとなくだが知っていた。
だから思い切って大学三年の時に足を踏み入れたのだ。いわゆる発展場に。
訪れた店は思っていたよりもフランクな所で、尻込みしていた自分が可笑しくなるほど、佑はその店に通うことに夢中になった。
早く相手が欲しいと露骨に焦っていた佑は、声をかけてくれる人と流れのままに関係を持つことも多かった。
自分で言うのも癪だが、顔が可愛いらしいので声をかけてくれる人が比較的多かったのも事実だ。
そんなことで付き合うということは俗にいう、ーーー好きな相手ではない。に該当する。
付き合っているうちにこの人のことを好きになれればいい。そんなことを考えながら付き合っていたのに、その彼のことを好きになる日は一向に来なかった。
付き合いながら好きになるなんて、夢のまた夢のようなことを思っていたのは三人目くらいまでで、それから先は体の相性さえ良ければと付き合う基準を割り切るようになっていた。
そのころからだろうな恋愛とはなんだろうと思い始めたのは。もちろん、そんな思考など相手には筒抜けだったわけで、付き合いは大概が秒で終わりを告げる。
そんな時だった。
冷めた俺の恋愛思考に少しの光が刺した。
俺にも初めてーーー好きな人。が出来た。大学4年の秋だった。
わかっていたことだが、俺が好きになるということは相手は好きになられる側。今までの自分だ。
佑は必死になって考えた。
好きになってもらうにはどうしたらいいのか。相手は俺のことをどのくらい好きになってくれるのだろうか。っていうか今の俺の事ってどのくらい好きなのかな。ちょっと仲良い友達くらい!? 恋人一歩手前!?
そんなことを考えてながら彼と付き合い始めて1年ほどが経っていた。
それほどの期間一緒にいるはずなのに、なんとなく感じていた相手との距離感。全然縮まらない。物理的な距離感とかじゃなくて、心の距離感だ。
そんなある日。唐突に告げられたひと言。
ーーー『俺さぁ、結婚するんだよね』
えっ、誰と? 今の世では男と男は結婚ができない。
ああ、そうかと瞬時に悟った……。コイツは結果、女が好きだったのだと。
最終的に俺は女に負けるのだと。
この出来事が、最終的な決定打だった。
それから佑は恋愛などしなければいいと、心から思ってしまったのだ。
「変なこと、思い出したな」
会社からの帰り道。佑はイヤホンから流れてくる音楽とは関係なく、頭の中で学生時代の出来事が脳裏に浮かんでいた。
家に着き、ジャケットだけを脱ぎ捨てBGMの如く見もしないテレビを付けて無音の室内を賑やかす。冷蔵庫を開け缶ビールを2本取り出し、棚の中からつまみを幾つか引っ張り出す。テーブルであぐらをかきながら、ビールとピーナッツを頬張った。
このなんでもない会社帰りの日常。
目に見えるものは何も変わらないのに、俺の頭の中だけが変化しているみたいだ。
屋島に出会ってからというもの、なぜか学生時代のことをよく思い出すようになった。
佑が恋愛をしなくなった理由。それを思い出させようとするように。
「もう……、恋なんてしない」
部屋でひとりビールを飲みながら誰に聞かせるわけもなく、佑は心の声を口にしていた。
昔はそんなことは無かったと思う。
人並みに片思いだけれど好きな人もいた。もちろん、告白はしていないけれど。
大学生になって彼氏が欲しいと思った時期もあった。
友達同士の間で繰り広げられる会話といえば、彼女の話か昨日寝た子の話。男子大学生が話す内容と言ったらそんなことくらいしかないのかと思ってしまうほど、下世話な話題が飛び交っていた。
そんな話を聞いていたら、恋愛の一つや二つくらい楽しみたいと思うものである。
その頃には自分は同性が恋愛対象だということは自覚していたし、どこで相手を見つけたらいいのかもなんとなくだが知っていた。
だから思い切って大学三年の時に足を踏み入れたのだ。いわゆる発展場に。
訪れた店は思っていたよりもフランクな所で、尻込みしていた自分が可笑しくなるほど、佑はその店に通うことに夢中になった。
早く相手が欲しいと露骨に焦っていた佑は、声をかけてくれる人と流れのままに関係を持つことも多かった。
自分で言うのも癪だが、顔が可愛いらしいので声をかけてくれる人が比較的多かったのも事実だ。
そんなことで付き合うということは俗にいう、ーーー好きな相手ではない。に該当する。
付き合っているうちにこの人のことを好きになれればいい。そんなことを考えながら付き合っていたのに、その彼のことを好きになる日は一向に来なかった。
付き合いながら好きになるなんて、夢のまた夢のようなことを思っていたのは三人目くらいまでで、それから先は体の相性さえ良ければと付き合う基準を割り切るようになっていた。
そのころからだろうな恋愛とはなんだろうと思い始めたのは。もちろん、そんな思考など相手には筒抜けだったわけで、付き合いは大概が秒で終わりを告げる。
そんな時だった。
冷めた俺の恋愛思考に少しの光が刺した。
俺にも初めてーーー好きな人。が出来た。大学4年の秋だった。
わかっていたことだが、俺が好きになるということは相手は好きになられる側。今までの自分だ。
佑は必死になって考えた。
好きになってもらうにはどうしたらいいのか。相手は俺のことをどのくらい好きになってくれるのだろうか。っていうか今の俺の事ってどのくらい好きなのかな。ちょっと仲良い友達くらい!? 恋人一歩手前!?
そんなことを考えてながら彼と付き合い始めて1年ほどが経っていた。
それほどの期間一緒にいるはずなのに、なんとなく感じていた相手との距離感。全然縮まらない。物理的な距離感とかじゃなくて、心の距離感だ。
そんなある日。唐突に告げられたひと言。
ーーー『俺さぁ、結婚するんだよね』
えっ、誰と? 今の世では男と男は結婚ができない。
ああ、そうかと瞬時に悟った……。コイツは結果、女が好きだったのだと。
最終的に俺は女に負けるのだと。
この出来事が、最終的な決定打だった。
それから佑は恋愛などしなければいいと、心から思ってしまったのだ。
「変なこと、思い出したな」
会社からの帰り道。佑はイヤホンから流れてくる音楽とは関係なく、頭の中で学生時代の出来事が脳裏に浮かんでいた。
家に着き、ジャケットだけを脱ぎ捨てBGMの如く見もしないテレビを付けて無音の室内を賑やかす。冷蔵庫を開け缶ビールを2本取り出し、棚の中からつまみを幾つか引っ張り出す。テーブルであぐらをかきながら、ビールとピーナッツを頬張った。
このなんでもない会社帰りの日常。
目に見えるものは何も変わらないのに、俺の頭の中だけが変化しているみたいだ。
屋島に出会ってからというもの、なぜか学生時代のことをよく思い出すようになった。
佑が恋愛をしなくなった理由。それを思い出させようとするように。
「もう……、恋なんてしない」
部屋でひとりビールを飲みながら誰に聞かせるわけもなく、佑は心の声を口にしていた。
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