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4.琥珀の悔恨と、母の誓い
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心身ともに限界を超えていたはずなのに、イザベラはエドワードに言わずにはいられなかった。
「どうして……もっと早く言ってくださらなかったのですか? 私たちが、幼い頃に出会っていたことを」
震える声で尋ねるイザベラに、エドワードは痛みを堪えるように答えた。
「君の幸せを、私が壊すわけにはいかなかったからだ。愛する男と結ばれ、隣国で睦まじく暮らしていると聞き及んでいた。結婚してまだ1年の王太子妃に、過去の感傷を語って君を惑わせたくはなかった」
エドワードは視線を落とし、自嘲気味に言葉を継ぐ。
「人質としてこの国に来て間もなく、君の懐妊が分かった。……その時、私の中にあった微かな希望は完全に潰えたよ。だから、あえて君を避けていたんだ」
「陛下……」
「だが、イザベラ。正直に言おう。本当は、君の姿をずっと陰から見守っていた」
驚きに目を見開くイザベラに、彼は懺悔するように語りかける。
「窓辺で寂しげに外を眺める姿も、中庭で花に水をやる姿も……。本当なら一刻も早く真実を話し、君を本国へ送り返すべきだった。だが、私にはできなかった。どんな形であれ、君を近くに置いておきたかったんだ。すまない、イザベラ。私の身勝手だ」
エドワードの真っ直ぐな瞳に、イザベラの目から再び涙がこぼれ落ちた。
「私は……バーストの言葉を信じていました。けれど、あの人は私を欺き、金貨と引き換えに私を売った……」
イザベラは、足元で不安そうに服を掴む息子バーストンを抱きしめた。そして、涙を拭い、確かな意志を持ってエドワードを見据えた。
「国王陛下。私とこの子を、この国に置いてはいただけないでしょうか。もはや私たちに、戻る場所はございません」
エドワードは慈しむように微笑み、力強く頷いた。
「いつまででもいてくれて構わない。いや、心から歓迎しよう。イザベラ、君はもう人質ではない。わが帝国は、グラスト王国との協定を、今この瞬間を以て破棄する」
「え……? ですが、先ほどの馬車には金貨5,000枚が積み込まれていたのでは?」
「あの金は、今後そなたたちの身に一切干渉させないための『手切れ金』だ。その代わり、原油の出るエンゼル領は二度と返さぬ。わが帝国が全力で君たちを守り抜こう」
エドワードが差し出した手を見つめ、イザベラはその温もりの中に偽りがないことを確信した。彼女は迷うことなく、その手を取った。
「お願いします、エドワード様。どうか、私たちをこの国に置いてください」
その日、イザベラはオルカス帝国に留まることを決意した。しかし、彼女の瞳に宿ったのは、ただの諦念ではない。息子バーストンのために、彼こそが正当な後継者であることを証明し、バーストたちの裏切りを白日の下に晒すという、新たな炎だった。
(バースト……。私はあなたに売られた。けれど、あなたの知らぬ場所で、私たちはもう一度立ち上がる。いつか必ず戻り、すべてを明らかにしてみせるわ)
それは愛する息子の未来を守らんとする、母としての強き誓いだった。
時を置かずして、エドワードはグラスト王国へ親書を送った。エンゼルの共同管理を破棄すること。そして、精強なる帝国軍を以て、そのエンゼルの土地を完全に占領したことを。
「どうして……もっと早く言ってくださらなかったのですか? 私たちが、幼い頃に出会っていたことを」
震える声で尋ねるイザベラに、エドワードは痛みを堪えるように答えた。
「君の幸せを、私が壊すわけにはいかなかったからだ。愛する男と結ばれ、隣国で睦まじく暮らしていると聞き及んでいた。結婚してまだ1年の王太子妃に、過去の感傷を語って君を惑わせたくはなかった」
エドワードは視線を落とし、自嘲気味に言葉を継ぐ。
「人質としてこの国に来て間もなく、君の懐妊が分かった。……その時、私の中にあった微かな希望は完全に潰えたよ。だから、あえて君を避けていたんだ」
「陛下……」
「だが、イザベラ。正直に言おう。本当は、君の姿をずっと陰から見守っていた」
驚きに目を見開くイザベラに、彼は懺悔するように語りかける。
「窓辺で寂しげに外を眺める姿も、中庭で花に水をやる姿も……。本当なら一刻も早く真実を話し、君を本国へ送り返すべきだった。だが、私にはできなかった。どんな形であれ、君を近くに置いておきたかったんだ。すまない、イザベラ。私の身勝手だ」
エドワードの真っ直ぐな瞳に、イザベラの目から再び涙がこぼれ落ちた。
「私は……バーストの言葉を信じていました。けれど、あの人は私を欺き、金貨と引き換えに私を売った……」
イザベラは、足元で不安そうに服を掴む息子バーストンを抱きしめた。そして、涙を拭い、確かな意志を持ってエドワードを見据えた。
「国王陛下。私とこの子を、この国に置いてはいただけないでしょうか。もはや私たちに、戻る場所はございません」
エドワードは慈しむように微笑み、力強く頷いた。
「いつまででもいてくれて構わない。いや、心から歓迎しよう。イザベラ、君はもう人質ではない。わが帝国は、グラスト王国との協定を、今この瞬間を以て破棄する」
「え……? ですが、先ほどの馬車には金貨5,000枚が積み込まれていたのでは?」
「あの金は、今後そなたたちの身に一切干渉させないための『手切れ金』だ。その代わり、原油の出るエンゼル領は二度と返さぬ。わが帝国が全力で君たちを守り抜こう」
エドワードが差し出した手を見つめ、イザベラはその温もりの中に偽りがないことを確信した。彼女は迷うことなく、その手を取った。
「お願いします、エドワード様。どうか、私たちをこの国に置いてください」
その日、イザベラはオルカス帝国に留まることを決意した。しかし、彼女の瞳に宿ったのは、ただの諦念ではない。息子バーストンのために、彼こそが正当な後継者であることを証明し、バーストたちの裏切りを白日の下に晒すという、新たな炎だった。
(バースト……。私はあなたに売られた。けれど、あなたの知らぬ場所で、私たちはもう一度立ち上がる。いつか必ず戻り、すべてを明らかにしてみせるわ)
それは愛する息子の未来を守らんとする、母としての強き誓いだった。
時を置かずして、エドワードはグラスト王国へ親書を送った。エンゼルの共同管理を破棄すること。そして、精強なる帝国軍を以て、そのエンゼルの土地を完全に占領したことを。
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