《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖

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3.黄金の対価と、琥珀色の再会

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 エドワードの口から第二夫人と子供の存在を知らされたイザベラは、その場に崩れ落ちそうになった。
 
 しかし、足元にしがみついてきた息子バーストンの温もりが、彼女を現実に繋ぎ止める。エドワードに支えられ、椅子に座らされたイザベラは、深く呼吸を繰り返して冷静さを取り戻した。
 
「……ありがとうございます、国王陛下。おかげさまで、この3年間抱き続けてきた疑問が、ようやく解けました」
 
 イザベラは震える指で涙を拭うと、静かに立ち上がった。
 
「失礼ながら、国王陛下。一つ伺いたいことがございます。わが国グラスト王国は、オルカス帝国に領地を奪われた。それは真実でしょうか?」
 
 エドワードは少し驚いたように、イザベラを見つめた。
 
「なぜ、今さらそんなことを聞く?」
 
「夫バーストからはそう聞かされていたのです。オルカス帝国は好戦的で、エンゼルという地を奪われたのだと。だから、さらなる戦火を避けるため、和睦の証として私を人質に出すのだと……」
 
 エドワードは痛ましそうに目を細め、小さく溜息をついた。
 
「イザベラ。そなたが人質になった理由は、和睦のためではない」
 
「では、一体何なのですか?」
 
「エンゼルという領地は、我々が奪ったわけではない。結論から言えば、わが国とグラスト王国の間で、円滑な貿易を行うための『共同管理区域』とすることで利害が一致したのだ」
 
「共同管理区域……?」
 
「そうだ。エンゼルは元々、何もない枯れた土地だった。だが、そこから『燃える水(原油)』が発見されたのだ。その利権を分かち合う際、互いに裏切らぬよう人質を出すことが決まった」
 
 エドワードは言葉を続ける。取り決めでは、3年ごとに交代で人質を出すか、あるいは金貨5,000枚を差し出すことになっていたのだという。
 
「それではなぜ、私とバーストンは国へ戻れないのですか?」
 
 エドワードは、どこか言いにくそうに視線を逸らした。
 
「グラスト王国側から申し出があったのだ。『あと3年間、今の体制を延長したい』とな。……先ほど去っていった馬車が見えただろう? あれには、これから3年分の対価として、わが帝国が支払った金貨5,000枚が積み込まれていた」
 
「…………っ」
 
「グラスト王国は、そなたを連れ戻す代わりに、金を受け取る道を選んだ。わが国としても人質を出すよりは金で解決するほうが都合がよく、閣僚たちはこの条件を歓迎している」
 
 呆然とするイザベラの脳裏に、あの夜のバーストの声が蘇る。
 
『君に子供がいれば守ることもできたのだが……。すまない、君を庇いきれなかった』
 
 すべて、真っ赤な嘘だった。バーストは私を邪魔に思い、カミラを呼び戻すために私を追放した。その上、私を人質として売ることで、金貨まで得ていたなんて。
 
 イザベラは、自嘲気味に笑った。
 
「グラスト王国は、故郷を離れ嫁いできた私を追い出し、その身代金として3年間で金貨5,000枚を……。そして今日、追加の5,000枚を受け取ったのですね? 合計で1万枚……」
 
「イザベラ……」
 
「ふふっ……まるで、わが国は金の亡者ですね。私は、ただの『金に換わる人質』だったというわけですわ」
 
 あまりに惨めな境遇に、イザベラの肩が細く震える。エドワードはその震えを止めるように、そっと彼女の肩に手を置いた。
 
「そなたは覚えていないかもしれない。だが、思い出してほしい。幼い頃、私と君は一度会っているんだよ」
 
「え……?」
 
「私が訪問団の一員として、君の故郷エリシオン王国を訪れた時のことだ。中庭で、迷子になっていた私と一緒に遊んだのを覚えていないか?」
 
 イザベラの記憶の底、霧がかかっていた場所に一筋の光が差し込む。あの日の優しい、琥珀色の瞳。
 
「……あ。思い出しましたわ。あの時の……エドくん……?」
 
「ああ。ベラちゃん。やっと気づいてくれたか」
 
 エドワードの表情が、一瞬だけ少年のように和らぐ。
 
「では、なぜ、私がこの国へ来た時に教えてくださらなかったのですか?」
 
「……君はもう、幸せそうな『他人の妻』だったからだ。君への想いを再び燃やしてしまえば、外交問題にもなりかねない。だから、心を鬼にして会わないようにしていたんだ。だが……もう、その必要もなくなった」
 
 幼い頃、城の中庭で出会った男の子。互いの素性も知らず、「エドくん」「ベラちゃん」と呼び合った。
 
『いつか必ず、僕がベラちゃんを迎えに行くから』
 
 別れ際、指切りをしたあの少年が、今、目の前の国王として立っている。
 
 あまりに過酷な夫の裏切りと、あまりに奇跡的な運命の再会。
 
 たった1日で起きた激動に、イザベラの心身は限界に達していた。彼女は糸が切れた人形のように、ゆっくりと瞳を閉じた。

    
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