5 / 6
5.統合の戴冠と、真実の愛
しおりを挟む
オルカス帝国の宮殿の1室で、エドワードは窓の外に広がる冬の夜空を眺めていた。そこへ、静かにイザベラが歩み寄る。
「エドワード様、お考え事ですか?」
「いや……ただ、君とバーストンのことを考えていた。イザベラ、君の決意は固いか?」
イザベラは迷うことなく、深く頷いた。
「はい。私はこの子のために、正当な後継者としての地位を取り戻したい。そして、バーストとグラスト王国の裏切りを、白日の下に晒したいのです」
エドワードは振り返り、慈しむように微笑んだ。
「わかった。私が力を貸そう。君たちのために、グラスト王国との戦の準備を進める。……もはや、話し合いで解決する段階は過ぎた」
「戦に……なるのですね」
「ああ。すでにエンゼルの地を武力で占領したことで、彼らとは一触即発の状態だ。何より、バーストは君を金貨で売った男だ。バーストンを正当な後継者と認めるはずもない。ならば、力ずくで分からせるしかないのだ」
イザベラは胸を打たれた。彼は私たちのために、自国を危険に晒すことさえ厭わない。
「ありがとうございます。ですが、あなたにそこまでの負担を強いるわけには……」
「犠牲などではない。これは、私が君と交わした幼い日の約束を果たすための、正当な行いだ。それに、バーストンは私の息子も同然だ。君たちのためなら、私は何だってしよう」
エドワードはイザベラを引き寄せると、愛おしげにその唇を塞いだ。幼い日の純粋な約束が、長い時を経て、今この瞬間に真実の愛として結ばれた。
「……イザベラ、君宛てに手紙が届いている」
エドワードが懐から取り出した封筒の差出人は、バーストだった。中には非情な離縁状が同封されていた。イザベラは迷わず署名し、その日のうちに送り返した。
バーストとの離婚手続きは完了したが、彼もグラスト王国も、バーストンの存在を無視し、認知することはなかった。
❖
それから3年。イザベラとエドワードは正式に結婚し、二人の絆はより強固なものとなっていた。
バーストンはエドワードを実の父のように慕い、日々、彼から剣術や帝王学を学んだ。その瞳には、母を守るという強い光が宿る、文武両道の少年に成長していた。
そして、ついにその時が訪れる。オルカス帝国は、グラスト王国に対し宣戦布告を行った。
「グラスト王国は、わが妃イザベラを欺き、金貨のために不当に追放した。さらには正当な後継者を邪悪な策略によって排除した。我々は彼らの名誉を回復し、その不正を正すために起つ!」
エドワードの宣戦布告は大陸中に衝撃を与えた。グラスト王国は慌てて各国の王族に援軍を求めたが、エドワードが事前に送っていた密書により、バーストの卑劣な行いはすべて露呈していた。どの国も、グラスト王国に味方する者はいなかった。
孤立無援となったグラスト王国は、圧倒的な武力を誇る帝国軍の前に敗北し、無条件降伏した。
❖
エドワードは王都を占領し、国王ボンベル、バースト、そしてバーストの妻カミラを捕らえた。グラスト王国の玉座の間で、エドワードとバーストが対峙する。
「バースト、覚えているか。君は第一夫人であるイザベラを金貨で売った。君の傲慢さと嘘が、この国の破滅を招いたのだ」
「エドワード、貴様……イザベラをそそのかしたな! 私は彼女を愛していた。彼女も私を愛していたんだ! 私の妻だったんだ!」
見苦しく叫ぶバーストの前に、イザベラが静かに姿を現した。
「バースト様。私を愛していたとおっしゃいましたね? ならば、なぜ私を売ったのですか? なぜ私を欺いたのですか?」
バーストが言葉を詰まらせる。イザベラの隣には、凛々しく成長したバーストンが立っていた。
「バースト様。この子は、あなたの息子です。あなたが認めずとも、グラスト王国の正当な後継者なのです」
バーストは絶句した。目の前の少年は、自分と同じ髪の色を持ち、かつての自分に生き写しだったからだ。己が捨てた「価値」の大きさを突きつけられ、バーストは力なく膝をついた。
❖
国王ボンベルは退位し、バーストは全ての王族特権を剥奪された。彼はカミラとは別々に、王城の1室に幽閉され、二度と表舞台に立つことはなかった。
そして、エドワードは統合帝国の樹立を宣言した。
「この瞬間を以て、両国は合併し、オルカス・グラスト帝国が誕生する。そして、わが妃イザベラの長子であり、正当な血統を持つバーストンを、統合帝国の皇太子に指名する!」
イザベラとエドワードの息子として、そして旧王国の継承権を持つ者として、バーストンは両国の未来を背負う立場となった。イザベラはついに、愛する息子の未来を守り抜き、自らの誇りを取り戻したのだ。
戴冠式のまばゆい光の中で、イザベラの顔には、これまでの苦難が嘘であったかのような、穏やかで幸福な笑みが浮かんでいた。
「エドワード様、お考え事ですか?」
「いや……ただ、君とバーストンのことを考えていた。イザベラ、君の決意は固いか?」
イザベラは迷うことなく、深く頷いた。
「はい。私はこの子のために、正当な後継者としての地位を取り戻したい。そして、バーストとグラスト王国の裏切りを、白日の下に晒したいのです」
エドワードは振り返り、慈しむように微笑んだ。
「わかった。私が力を貸そう。君たちのために、グラスト王国との戦の準備を進める。……もはや、話し合いで解決する段階は過ぎた」
「戦に……なるのですね」
「ああ。すでにエンゼルの地を武力で占領したことで、彼らとは一触即発の状態だ。何より、バーストは君を金貨で売った男だ。バーストンを正当な後継者と認めるはずもない。ならば、力ずくで分からせるしかないのだ」
イザベラは胸を打たれた。彼は私たちのために、自国を危険に晒すことさえ厭わない。
「ありがとうございます。ですが、あなたにそこまでの負担を強いるわけには……」
「犠牲などではない。これは、私が君と交わした幼い日の約束を果たすための、正当な行いだ。それに、バーストンは私の息子も同然だ。君たちのためなら、私は何だってしよう」
エドワードはイザベラを引き寄せると、愛おしげにその唇を塞いだ。幼い日の純粋な約束が、長い時を経て、今この瞬間に真実の愛として結ばれた。
「……イザベラ、君宛てに手紙が届いている」
エドワードが懐から取り出した封筒の差出人は、バーストだった。中には非情な離縁状が同封されていた。イザベラは迷わず署名し、その日のうちに送り返した。
バーストとの離婚手続きは完了したが、彼もグラスト王国も、バーストンの存在を無視し、認知することはなかった。
❖
それから3年。イザベラとエドワードは正式に結婚し、二人の絆はより強固なものとなっていた。
バーストンはエドワードを実の父のように慕い、日々、彼から剣術や帝王学を学んだ。その瞳には、母を守るという強い光が宿る、文武両道の少年に成長していた。
そして、ついにその時が訪れる。オルカス帝国は、グラスト王国に対し宣戦布告を行った。
「グラスト王国は、わが妃イザベラを欺き、金貨のために不当に追放した。さらには正当な後継者を邪悪な策略によって排除した。我々は彼らの名誉を回復し、その不正を正すために起つ!」
エドワードの宣戦布告は大陸中に衝撃を与えた。グラスト王国は慌てて各国の王族に援軍を求めたが、エドワードが事前に送っていた密書により、バーストの卑劣な行いはすべて露呈していた。どの国も、グラスト王国に味方する者はいなかった。
孤立無援となったグラスト王国は、圧倒的な武力を誇る帝国軍の前に敗北し、無条件降伏した。
❖
エドワードは王都を占領し、国王ボンベル、バースト、そしてバーストの妻カミラを捕らえた。グラスト王国の玉座の間で、エドワードとバーストが対峙する。
「バースト、覚えているか。君は第一夫人であるイザベラを金貨で売った。君の傲慢さと嘘が、この国の破滅を招いたのだ」
「エドワード、貴様……イザベラをそそのかしたな! 私は彼女を愛していた。彼女も私を愛していたんだ! 私の妻だったんだ!」
見苦しく叫ぶバーストの前に、イザベラが静かに姿を現した。
「バースト様。私を愛していたとおっしゃいましたね? ならば、なぜ私を売ったのですか? なぜ私を欺いたのですか?」
バーストが言葉を詰まらせる。イザベラの隣には、凛々しく成長したバーストンが立っていた。
「バースト様。この子は、あなたの息子です。あなたが認めずとも、グラスト王国の正当な後継者なのです」
バーストは絶句した。目の前の少年は、自分と同じ髪の色を持ち、かつての自分に生き写しだったからだ。己が捨てた「価値」の大きさを突きつけられ、バーストは力なく膝をついた。
❖
国王ボンベルは退位し、バーストは全ての王族特権を剥奪された。彼はカミラとは別々に、王城の1室に幽閉され、二度と表舞台に立つことはなかった。
そして、エドワードは統合帝国の樹立を宣言した。
「この瞬間を以て、両国は合併し、オルカス・グラスト帝国が誕生する。そして、わが妃イザベラの長子であり、正当な血統を持つバーストンを、統合帝国の皇太子に指名する!」
イザベラとエドワードの息子として、そして旧王国の継承権を持つ者として、バーストンは両国の未来を背負う立場となった。イザベラはついに、愛する息子の未来を守り抜き、自らの誇りを取り戻したのだ。
戴冠式のまばゆい光の中で、イザベラの顔には、これまでの苦難が嘘であったかのような、穏やかで幸福な笑みが浮かんでいた。
205
あなたにおすすめの小説
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます
ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ!
そんな私に好都合な相手が。
女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。
妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。
民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。
しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。
第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。
婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。
そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。
その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。
半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。
二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。
その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。
寵愛していた侍女と駆け落ちした王太子殿下が今更戻ってきた所で、受け入れられるとお思いですか?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるユーリアは、王国の王太子と婚約していた。
しかしある時彼は、ユーリアの侍女だった女性とともに失踪する。彼らは複雑な事情がある王国を捨てて、他国へと渡ったのだ。
そこユーリアは、第二王子であるリオレスと婚約することになった。
兄と違い王子としての使命に燃える彼とともに、ユーリアは王国を導いていくことになったのだ。
それからしばらくして、王太子が国へと戻ってきた。
他国で上手くいかなかった彼は、自国に戻ることを選んだのだ。
そんな彼に対して、ユーリアとリオレスは言い渡す。最早この国に、王太子の居場所などないと。
第三王女の婚約
MIRICO
恋愛
第三王女エリアーヌは王宮で『いない者』として扱われていた。
メイドからはバカにされ、兄や姉からは会うたび嫌味を言われて、見下される。
そんなある日、姉の結婚パーティに参加しろと、王から突然命令された。
姉のお古のドレスと靴でのパーティ出席に、メイドは嘲笑う。
パーティに参加すれば、三度も離婚した男との婚約発表が待っていた。
その婚約に、エリアーヌは静かに微笑んだ。
短いお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる