公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

魔力循環①

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side 王都(本編)






王都の士官学校ではジェイデンとセオドアが補習の最中だ。

課題図書を週末を費やして読み終え、筆記試験を終えたばかりの2人は、これから実技を学ぶところ。

ジェイデンたちがいるのは四隅に守り石が置いてある、魔力操作専用の訓練室。
壁には防衛魔法の魔術紋が描かれ、結界術で部屋を覆っている。
そのため魔法の暴走が起こっても、部屋が破壊されることはない。

「まずは少ない魔力を体内循環させる訓練を行う」

課題図書である自身の著書の一頁を指差しながら、ルイスが言った。
そこには身体図の挿絵があり、身体中を巡る魔力の流れが描かれている。

「想像するんだ。指先の一本一本まで、全てに魔力を満たすように」

それでいて、魔力量は灯りの魔法を発動できるぎりぎりの少なさで、と彼は続ける。


灯りの魔法は魔法の中でも一番容易く、多くの平民も発動できる生活魔法の一つである。
つまりは最弱の魔法を、最低限の魔力で発動できる程度の魔力ということだ。

言うのは容易いが、実践するのは大変だ。
2人とも、これまで体内の魔力の流れなど気にしたことはなかったが、意識すると余計に調整が難しい。







「ジェイデン、まだ多い。もっと魔力を絞って!」

無茶を言うなと怒鳴り返したくなるのを堪えながら、ジェイデンは自身の中で暴れ回る魔力を持て余し、悔しさに唇を噛んだ。

ジェイデンは元々の魔力量が多いため、魔力を絞る段階で躓いてしまっている。

いつも魔法を使う要領で魔力を循環させると、体内を暴走させてしまう。
これまで彼は、生まれ持った魔力量のおかげで魔法の分野で苦労をした事がなく、これが初めての挫折であった。

そんなジェイデンに、そのままでは自分との魔力循環は不可能だとルイスは言い放つ。

圧倒的な魔力量で相手を蹂躙してしまうからだ。

魔力循環を成功させるためには、魔力量を相手と拮抗させることできなければならない。

地味だが、繊細な操作が求められている。

「…くっ」

奥歯を噛みしめながら、ジェイデンは必死に魔力を絞る。
気を抜くと、ぎりぎりまで抑えている魔力が溢れそうになるのを、なんとか無理矢理押さえ込んだ。
額には汗が滲んでいる。

「そう、そのまま続けて」

ルイスはジェイデンにそう声をかけて、今度はセオドアに目を移した。
こちらも真剣な表情で魔力の巡りを調整している。

「君は…。そう、そのまま足の先まで魔力を流して」

足の指まで魔力が循環していないと指摘され、セオドアは眉をしかめた。
魔力を絞れるところまで少なくしているからか、足元へと意識しても膝のあたりで巡りが滞ってしまう。

セオドアは魔道具作りの経験から、魔力を絞ることには慣れていた。
指先に魔力を集め、細く紡ぐことは得意だったが、今回は範囲を全身に拡げるようにとルイスに指示されている。

しかも今回は、魔力の放出先である魔道具が存在しない。
自身の中で循環させる事は、こちらも初体験であった。

「…駄目か」

どうやっても膝下まで魔力を届けることができず、集中力が切れてセオドアはその場に座り込んだ。
練れていた魔力も同時に霧散する。

床から立ち上がれず、肩で息をしているセオドアへとルイスは淡々と告げる。

「今日の課題ができてからじゃないと、相手との魔力循環は難しいよ。放課後に訓練室を使えるよう申請をしておこう。しばらく、毎日取り組む必要がある」

補習の最後にそう言って、ルイスは時計に目を遣った。

「じゃあ二人とも、頑張って。たまには覗きに来るから」

そう言って、ルイスはひらひらと手を振りながら退室して行った。


訓練室の前の廊下には、次の生徒の気配がしている。

授業に追いつくために、彼らは優先的に訓練室を使用をさせてもらっているが、そもそも放課後に訓練室の利用を希望する生徒は多い。


ルイスが出て行った直後、ジェイデンも膝が折れるように床にどさりと腰を下ろした。

同じく床に座ったままのセオドアと顔を見合わせ、お互いに苦い表情で目線が合う。

「…これは、想像よりも大変だな」

「ああ。確かに練習あるのみだ」





彼らは放課後、許された時間を最大限に使い毎日練習に励むこととなった。



そしてジェイデンとセオドアがルイスに合格点をもらえたのは、春が間近に迫った頃だった。













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