59 / 64
二章 士官学校
魔力循環③
しおりを挟むその日、ジェイデンは久しぶりにディア達と一緒に寮の食堂で夕食をとった。
「夕食の時間に間に合うなんて、久しぶりだよね」
お腹を空かせた寮生達で賑わう食堂に顔を見せたジェイデンとセオドアに、ディアが嬉しそうに声を掛ける。
「今日は校舎の点検があるから、早く帰れと言われたんだ」
ジェイデンはやる気なさげにテーブルに肘をついたまま答えた。
行儀がいいとは言えない態度だが、北では粗野な男たちに混じって暮らしていたジェイデンである。
ここ最近の、貴族らしい振る舞いに少々疲れ、東寮では猫を被るのはやめると先日セオドアに宣言したばかりだ。もちろん、セオドアは首を縦には振らなかったが。
それでも、気心のしれた友人たちと過ごす時間にまで水を差すつもりはセオドアにはない。
「合格を貰ったけど、魔術操作がまだまだなのは変わらないからな」
「そっかぁ。頑張ってるね」
ルイスに合格をもらってからも、放課後は自主的に訓練室に通い詰めている2人である。
「最近、寮で姿を見ないから心配してたのよ」
アマーリエがそう言って優しい目でジェイデンを見た。
「毎日通い詰めだもんね。少しは休むことも大事だよ」
ディアも気遣うような言葉をかけるが、その手は大盛りの肉煮込みに伸びている。
良く煮込まれた骨付き肉は柔らかく、少し濃い目の味付けがたまらない。
今夜のメニューの中でも、グリトンの自慢の一品だ。
「これ美味しーい。幸せ…」
あっという間に皿を空にしたディアは、ラリサがたっぷりよそったスープを掬う。
目を閉じて味わうディアの幸せそうな顔につられて、ジェイデンとセオドアも肉煮込みに手を付けた。
「確かにうまいな」
「ああ、うまい」
セオドアの言葉に、ジェイデンも頷く。
香辛料がきいていて、食欲をそそる味だ。
「そういえば、魔力合わせはどうなってるの?」
「まだやってない。俺は三日後の授業で他の生徒と合流してからになるな」
ちょうど担当教官もルイスだ。
「あら、一緒に授業が受けられるの?」
ジェイデンは頷いて、同じく苦笑いのセオドアと顔を見合わせた。
「魔力循環の合格をやっともらえたからな」
「セオドアさんも?」
「俺も他の生徒と合流はするが、相手と学年が違うから、放課後だろうな」
メイソンが、セオドアに聞く。
「相手、誰なんです?」
「隣のクラスのマーゴット・パウエル」
セオドアが口を開くよりも早く、ジェイデンが食事の手を止めずに答える。
「赤毛の、まあまあの美人?」
「そうだったか?」
確かに見事な赤毛だったが、その印象が強く顔つきまで覚えていないジェイデンだ。
呆れたような顔でアマーリエが「けっこう人気あるのに、マーゴットって」と付け加える。
「ついてるね、彼女」
ヒュウッと口笛を吹き、ディアが面白げにそう言った。
揶揄うような様子に、アマーリエが「やめなさいよ」と嗜める。
「だってあの問題児のグエルの代わりがセオドアさんだよ?僕が女子ならヴィーネ様に感謝しちゃうね」
ヴィーネは愛と豊穣の女神で、恋人達に守護を与える存在として広く信仰されている。
「グエルって誰だ?」
ジェイデンは初めて聞く名前だ。
それにはセオドアが答えた。
「マーゴット嬢の前の相手だ」
セオドアは知っていたらしい。
「素行不良で停学になってるのよ。賭博好きで身を滅ぼした馬鹿ね」
賭場での借金が嵩み、取り立て屋が学校まで乗り込んできたらしい。
もともと成績もあまり良くなく、その場で停学処分が決まった問題児だ。
「実家は金持ちなんじゃなかったか?帝国商人相手に商売してる成金だろ、たしか」
「どうでもいいわよ、そんなの」
メイソンの言葉に、アマーリエは興味なさげにそう話を切る。
話題を変えるようにジェイデンにそういえばと話しかけた。
「ジェイデンは補習でルイス先生と一緒だったんでしょ?なんで合わせをしなかったの?」
「監督役の教師が不在だとできないんだと」
魔力の暴走時に対処できる教師の同席がないと、魔力合わせは禁じられている。
ジェイデンとルイスの場合、ルイスが当事者となるためもうひとり教師が必要だ。
「ああ、そうだったわね」
アマーリエが納得する。
「2年前くらいに、暴走して訓練室の結界ごと破壊した生徒がいるんだよ」
ディアはすごいよね、と食事の手を止めずに言った。
相当魔力量の多い生徒でないと、結界の破壊はできないはずなのだ。
「有名人だろう。確か今は近衛騎士団の…」
メイソンが口を挟む。
「え、それって今は研究所で働いているジェイナー卿のことじゃなかった?」
それにアマーリエが反応したが、今度はディアが「違うよ」と別の卒業生の名を口にした。
「近衛騎士団のヴィクトル様も、研究所のジェイナー卿もすごいけど別の話」
「ディア、詳しいわね…」
「聞きたい?ふふ、こういう噂話って大好物」
にまりと笑ったディアが、小声で「まだまだ情報はあるよ」と声をひそめる。
それから逸話持ちの元生徒たちの噂話に花が咲き、ジェイデンとセオドアは聞き役に徹した。
284
あなたにおすすめの小説
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる