〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
22 / 43

22 かつてのハイロール男爵家に関する資料が来る

しおりを挟む
 ミュゼットからのいつもの手紙。
 ずいぶん大きくて厚さがあるな、と思っていたら、中にもう一つ封筒が入っていた。

「カムズ・キャビン?」

 その名を思い出すのに少しかかった。
 オラルフ弁護士の同業者だ。

「ご依頼の資料、ある程度集まりましたのでお送りします。オラルフは近々ロルカ子爵の蟄居が解ける関係で忙しいので自分が代理に」

 と短い手紙だけで、あとは本当に資料ばかりだった。
 しかし資料と言ってもこれだけ大量に書き写しするのはさぞ大変だったろう。
 私は思わず拝みたくなってしまった。
 その上、資料中にハイロール家の関係者が出てくれば、そこには朱が入っているという具合。
 よく出来たひとだなあ、と私は思った。
 資料は主に、今から四~五十年前のハイロール男爵家についての件だ。
 図書館に保管されている新聞記事からの書き写し、ハイロール男爵家及びその親戚筋の一家総出の旅行許可書などがある。
 新聞記事に、当時は相当なっていたらしい。
 男爵家一族郎党は、まとめて東の国へ移住することを公言していたのだから。
 そしてそこから珍しい品物を本国に送る事業を始める、と当人談が載せられていた。
 これが最初の頃。
 最後の方では、男爵家の家人が行方不明に! 現地の暴動に巻き込まれたか! といった見出しの記事もあった。
 ここでキャビン氏は「扇情的な新聞の記事なので、話半分で」と付け加えていた。
 そして更に幾らかの年月が経った後、ハイロール新男爵帰国、という記事があった。
 この新男爵、というのが父ということになる。
  そしてかつての事業の知己を伝手に、新規事業を興す予定、とあった。
 だが戻ってきたのは、父一人で、やはり他の一家及び親戚筋は現地に置き去りということらしい。
 「扇情的な新聞」はその「予想」や「結末」を物語仕立てにしてどぎつく書き立てていた。

 曰く、当時の現地の暴動に巻き込まれて現地民に殺された。
 曰く、現地民と恋仲になった一人のために皆がばらばらになってしまった。
 曰く、そこまで行ったはいいが、向こうで意見が対立して、共に行動することが無くなってしまった。
 曰く、当地の禁忌に触れて大変なことになってしまった……

 まあ色々と想像したものだ。
 そんな怪しい場所から一人、身分証明を持って戻ってきたのが父だということだ。
 「戻ってきた新男爵」というタイトルの記事はこう書いている。
 父らしき青年は、向こうに少年の頃から居たのでこちらの綺麗な言葉になかなか馴染めない、とぼやいていた。
 だが幾つかの向こうの国の言葉や、向こうで知り合った別の国の知り合いから覚えた沢山の言葉を使えることから、東の国の貿易に加え、ドイツ方面にも興味がある、と答えている。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

押し付けられた仕事は致しません。

章槻雅希
ファンタジー
婚約者に自分の仕事を押し付けて遊びまくる王太子。王太子の婚約破棄茶番によって新たな婚約者となった大公令嬢はそれをきっぱり拒否する。『わたくしの仕事ではありませんので、お断りいたします』と。 書きたいことを書いたら、まとまりのない文章になってしまいました。勿体ない精神で投稿します。 『小説家になろう』『Pixiv』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。 民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。 しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。 第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。 婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。 そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。 その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。 半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。 二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。 その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

処理中です...