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19.単調な道では女の子トーク。
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「そう言えば若葉」
再び走りながら、あたしは彼女に問いかけた。
ただ走っているだけだと、何となく頭がぼうっとしてくる。ただでさえ単調な道だ。
周囲は網状になった壁。時には完全にコンクリートの壁の時もある。
景色が見えないのが、これほど嫌になることはない。冬なら風よけとか、まだいい方に考えられなくもないが、今は夏なのだ。
「なあに?」
頭が退屈しているのは同様な彼女も問い返す。
「聞こう聞こうと思って忘れてたんだけど、若葉の婚約者の、松崎くんのおにーさんって、何研究してるの?」
うーん、と彼女は一度首をかしげる。
「仕組みとかそういうのはさっぱり判らないんだけど」
「そんなの、あたしだって聞いても判らないわよ」
「だってさつきさん私より頭いいじゃない」
「そんなこと。だって若葉、あたしはあんたのように料理も裁縫もできないよ」
「私にはそれが不思議だけど」
だからそうやって、まじめに首をかしげるなってゆうの。
「たまたまあたしは、そういうことはしないとこで育ったらしいから。そのかわり、そうでない、こいつらの様な知識は、たまたまあっただけだよ。どっちがどうってことはない。ただ才能の方向が違うだけなんだわ」
「才能の方向」
若葉は少しばかり言葉を止める。
「そうなのかしら」
「そうよ。そうに決まってる」
「そうなのよね。うん」
「何、何か思うことあるの?」
うん、と彼女はうなづく。
「何かね、いつも忙しそうだから、せめて私が手伝えることがあればいいのに、って言うと、彼が言うの。『お前はお前らしくいるのが俺は嬉しい』って」
は、と思わずあたしはため息をつき、ハンドルに頭を乗せる。足は動かしたまま。
「若葉~ それって大のろけじゃん…」
「そ、そうかしら」
「そうかしらじゃないって言うの! それがのろけ以外の何だって言うのよ」
お?
ふと前方に目をやると、松崎の動きが一歩遅れている。聞いてるな、とあたしは思った。まあいい。
「のろけ…… なのかなあ」
まだ言ってる。
「だってそうじゃない。あんたの彼は、あんたがどういう女の子であっても好きなんだ、ってことでしょ?」
「そ、そうなの?」
「そうだってば。それに、あんたは確かにそういう手伝いはできないかもしれないけど、夜食とか、届けてるんでしょ?」
「うん。私にできるのはそのくらいだし」
「あんたの料理は美味しかったもの。夜食だって、あんたが作るんでしょ?」
「うん」
当然のことのように、彼女はうなづく。
「だったらそれで彼は元気が出るんならいいじゃない。皆一人一人ができることなんて、たかが知れてるんだから、自分のできることを精一杯するしかないじゃない」
「そう…… なのよねえ。うん。でも、さつきさん、それだけでいいのかしら、とこっちに出てから、時々思うの」
「それだけで?」
「あたし、東永村しか知らないような女だから。それはそれでいいと思ってたんだけど」
「外の世界は魅力的だった、ということ?」
「とも限らないんだけど」
気抜けするなあ、もう。
「何って言うんだろ。確かに、私はさつきさんが言ったように、料理とか裁縫とか…… そうじゃなかったら、村の仕事とか、とにかくそういうものは確かに人並みにはできるけれど、もしかして、外で育ってたら、もっと別なことができたんじゃないか、って何か、思ってしまって」
あたしは首をゆっくりと横に振る。違うの? と彼女は問いかける。
「どこだって、大して変わらないよ。今のこの日本じゃ」
「さつきさんは見てきたの?」
うん、とあたしはうなづく。
そう、確かに見てきたのだ。色んな管区の、色んな学校を十二人で持ち回りしているのだ。
だけど、基本的な図式はまるで変わらない。ちょっと都市のなごりがあるところ以外は、それこそ若葉が育ったように、女の子の大半は村の農業の仕事と家事、それしかない。
他の選択肢はほとんどない。と言うか、考えつかないのだ。
もちろん、機械好きだったり、特別に武術の技が強いとか、継承しているとか、もしくはどうしても初等中等の先生になりたい! という場合は学校に上がれるけれど、そういう女子は滅多にいなかった。
たまに見かけたけれど、それは本当に好きな場合だ。そういう場合、男子以上の執着ぶりを見せてくれた。
「何となく」程度の「好き」では、親や村の人々を説き伏せてまで外の学校に上がるほどの才能になってくれないのだ。
「世の中がものすごく大きく変わってしまわない限り、あんたはあんたが今までしてきたことで、充分だと思うよ」
「そうなのかしら」
少し声の雰囲気が落ちる。悲しませたかな、と思いもするけれど、仕方ない。それが今のこの国なのだ。
「それとも、世の中が変わってほしい?」
「うーん」
若葉は少し考えると、首を横に振った。
「そうよね。私はたぶんそれでいいんだと思う。だって、こうやって、今の今まで何の疑問も不満も持ってなかったんだもの。それは私がそれなりに幸せだったってことよね」
「幸せじゃないの! そんなのろけられるなんて」
「あら、さつきさん、あの車の人は違うの?」
ぐ。そう来たか。
思わず言葉に詰まる。痛いところ突いてくれやがって。
「あんた前もそういうこと言ってなかった?」
「違うのかしら?」
「違うってば」
ふうん、と若葉は笑みを浮かべる。
「だってさつきさん、その話する時楽しそうじゃない。あなた私のことのろけてる、って言ったけれど、それこそ、あなたの方がのろけてるって、私思ったもの」
「あのひとは、そういうのじゃないよ。向こうがだいたいそんなこと思ってない」
「じゃさつきさんはそう思ってるの?」
「え?」
「そのひとのこと、好きなんじゃないの?」
ちょっと待て。
再び走りながら、あたしは彼女に問いかけた。
ただ走っているだけだと、何となく頭がぼうっとしてくる。ただでさえ単調な道だ。
周囲は網状になった壁。時には完全にコンクリートの壁の時もある。
景色が見えないのが、これほど嫌になることはない。冬なら風よけとか、まだいい方に考えられなくもないが、今は夏なのだ。
「なあに?」
頭が退屈しているのは同様な彼女も問い返す。
「聞こう聞こうと思って忘れてたんだけど、若葉の婚約者の、松崎くんのおにーさんって、何研究してるの?」
うーん、と彼女は一度首をかしげる。
「仕組みとかそういうのはさっぱり判らないんだけど」
「そんなの、あたしだって聞いても判らないわよ」
「だってさつきさん私より頭いいじゃない」
「そんなこと。だって若葉、あたしはあんたのように料理も裁縫もできないよ」
「私にはそれが不思議だけど」
だからそうやって、まじめに首をかしげるなってゆうの。
「たまたまあたしは、そういうことはしないとこで育ったらしいから。そのかわり、そうでない、こいつらの様な知識は、たまたまあっただけだよ。どっちがどうってことはない。ただ才能の方向が違うだけなんだわ」
「才能の方向」
若葉は少しばかり言葉を止める。
「そうなのかしら」
「そうよ。そうに決まってる」
「そうなのよね。うん」
「何、何か思うことあるの?」
うん、と彼女はうなづく。
「何かね、いつも忙しそうだから、せめて私が手伝えることがあればいいのに、って言うと、彼が言うの。『お前はお前らしくいるのが俺は嬉しい』って」
は、と思わずあたしはため息をつき、ハンドルに頭を乗せる。足は動かしたまま。
「若葉~ それって大のろけじゃん…」
「そ、そうかしら」
「そうかしらじゃないって言うの! それがのろけ以外の何だって言うのよ」
お?
ふと前方に目をやると、松崎の動きが一歩遅れている。聞いてるな、とあたしは思った。まあいい。
「のろけ…… なのかなあ」
まだ言ってる。
「だってそうじゃない。あんたの彼は、あんたがどういう女の子であっても好きなんだ、ってことでしょ?」
「そ、そうなの?」
「そうだってば。それに、あんたは確かにそういう手伝いはできないかもしれないけど、夜食とか、届けてるんでしょ?」
「うん。私にできるのはそのくらいだし」
「あんたの料理は美味しかったもの。夜食だって、あんたが作るんでしょ?」
「うん」
当然のことのように、彼女はうなづく。
「だったらそれで彼は元気が出るんならいいじゃない。皆一人一人ができることなんて、たかが知れてるんだから、自分のできることを精一杯するしかないじゃない」
「そう…… なのよねえ。うん。でも、さつきさん、それだけでいいのかしら、とこっちに出てから、時々思うの」
「それだけで?」
「あたし、東永村しか知らないような女だから。それはそれでいいと思ってたんだけど」
「外の世界は魅力的だった、ということ?」
「とも限らないんだけど」
気抜けするなあ、もう。
「何って言うんだろ。確かに、私はさつきさんが言ったように、料理とか裁縫とか…… そうじゃなかったら、村の仕事とか、とにかくそういうものは確かに人並みにはできるけれど、もしかして、外で育ってたら、もっと別なことができたんじゃないか、って何か、思ってしまって」
あたしは首をゆっくりと横に振る。違うの? と彼女は問いかける。
「どこだって、大して変わらないよ。今のこの日本じゃ」
「さつきさんは見てきたの?」
うん、とあたしはうなづく。
そう、確かに見てきたのだ。色んな管区の、色んな学校を十二人で持ち回りしているのだ。
だけど、基本的な図式はまるで変わらない。ちょっと都市のなごりがあるところ以外は、それこそ若葉が育ったように、女の子の大半は村の農業の仕事と家事、それしかない。
他の選択肢はほとんどない。と言うか、考えつかないのだ。
もちろん、機械好きだったり、特別に武術の技が強いとか、継承しているとか、もしくはどうしても初等中等の先生になりたい! という場合は学校に上がれるけれど、そういう女子は滅多にいなかった。
たまに見かけたけれど、それは本当に好きな場合だ。そういう場合、男子以上の執着ぶりを見せてくれた。
「何となく」程度の「好き」では、親や村の人々を説き伏せてまで外の学校に上がるほどの才能になってくれないのだ。
「世の中がものすごく大きく変わってしまわない限り、あんたはあんたが今までしてきたことで、充分だと思うよ」
「そうなのかしら」
少し声の雰囲気が落ちる。悲しませたかな、と思いもするけれど、仕方ない。それが今のこの国なのだ。
「それとも、世の中が変わってほしい?」
「うーん」
若葉は少し考えると、首を横に振った。
「そうよね。私はたぶんそれでいいんだと思う。だって、こうやって、今の今まで何の疑問も不満も持ってなかったんだもの。それは私がそれなりに幸せだったってことよね」
「幸せじゃないの! そんなのろけられるなんて」
「あら、さつきさん、あの車の人は違うの?」
ぐ。そう来たか。
思わず言葉に詰まる。痛いところ突いてくれやがって。
「あんた前もそういうこと言ってなかった?」
「違うのかしら?」
「違うってば」
ふうん、と若葉は笑みを浮かべる。
「だってさつきさん、その話する時楽しそうじゃない。あなた私のことのろけてる、って言ったけれど、それこそ、あなたの方がのろけてるって、私思ったもの」
「あのひとは、そういうのじゃないよ。向こうがだいたいそんなこと思ってない」
「じゃさつきさんはそう思ってるの?」
「え?」
「そのひとのこと、好きなんじゃないの?」
ちょっと待て。
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