あたしがいるのは深い森~鎖国日本の学生エージェント

江戸川ばた散歩

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18.旧高速道路を自転車で走ろう

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「暑いよなー」
「暑いーっ!」
「こるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ! 判ってることをいちいち言うんじゃねーっ!」

 巻き舌発音が上手いな、遠山。
 前方を抜きつ抜かれつしながら、野郎三人は走る。
 そしてそれを後ろで呆れて見ている三人。あたしと若葉と森田。元気やねえ、などとのんびりした声を上げながら、森田は平然とペダルを漕いでいる。
 出発したのは、まだ夜明け頃だった。
 涼しくていいなー、などと口々に言っていたのだが、太陽が上がるにつれて、口から文句が飛び出してきた。
 かごがあるあたし達の自転車には、その中に一週間分の軽い食料、野郎どもは背中に荷物をくくりつけての出発だった。
 水だけは一日分だった。途中で補給が必要だった。

「となると、今日中に豊橋に着けないと辛いなあ」

 松崎は出発前、地図を見ながら頭をかいた。
 東永村に行く道はいくつかあった。山側を通っていく方が、地図上では楽そうに見える。

「だけど迷うかもしれないぜ?」

 そう言ったのは高橋だった。そうだな、と松崎も同意する。

「車じゃないから、迷って引き返したりすると、その分時間と体力が消耗する。若葉お前、一週間かかったって言ったろ?」
「うん」
「距離的には、一週間もかかる距離じゃあない。この地図にある道を、旧県境の静岡地区からこっちの名古屋地区まで行くのに、三日四日で済ませることもできるっていうし」
「それは自転車で、か?」

 遠山は厳しい目で問いかける。

「や、徒歩。もちろんそれはほとんど平地だってこともあるし、でも、昔、うちの部の先輩が、耐久訓練か何かで、そういうことやったことがあるって言ってた」

 なるほど、と皆でうなづく。

「だから、目標は三日、かな。とにかく最初の日に、豊橋まで行く。で、水やら体力は蓄えて、あとの二日で東永村まで行くように。着いてしまえば、俺や若葉が村で食料とか水とかは何とかできるし」
「どう見ても、二日目三日目はきつそうだよなあ」
「上りやしな」
「けど、行かなきゃならない」

 あたしはそう締めくくる。男達もそれにはうなづいた。
 そして今、旧高速道路の上を走っている。この道が一番単純で、迷うことなく愛知地区の東端である豊橋あたりまで行けるのだ。
 行ってこいよ、と手を振る級友達を後にして、あたし達は夜明けとともに、東へと向かった。
 けど三日か。あたしは内心つぶやく。
 結局あれから、久野さんに電話をしていない。
 もちろん、行ったからすぐにその場所が見つかるとも思っていないけれど、もしその時に何かが起こったら。ふと不安がよぎる。
 いや、仕事上で必要なんだから、電話しなくちゃならないはずなんだけど。

 いかんいかんいかーん!

 ぶるぶる、と頭を振る。下手な考えは休むに似てるんだよ。ほら若葉が不思議そうな顔してる。とにかく前!



 時計を見ながら、三時間に一度くらい休憩を取る。
 昔はサービスエリアとして使われていたところがちょうど良かった。使用者は滅多にないとはいえ、水道が死んでいないのが助かる。
 ただ、トイレの水洗は生きてるものも死んでるものもあって、ほとんどバクチ状態だ。下手に死んだものに当たってしまうと、野郎どもはともかく、あたし達は辛い。
 ほこりまみれになったガラス。割れているのが大半だ。
 例えば台風。例えば地震。飛んできた石ころに割られたり、振動でひびが入ったり。時には飛んできた鳥が勢いよくぶつかって壊れたのかもしれない。
 そんな天災に襲われても、もうそこを維持管理しようとするところはない。
 水道が生きてるのは、そこをごくごくたまに通る、あたし達みたいな自転車や徒歩の者のためだろう。そう思いたい。
 そんなサービスエリアの、屋根があるところへ入り、日陰でほっと一息つく。

「誤算だったのは、これだよなあ」

 松崎はやや悔しそうに言う。

「旧高速ってのは、全然木陰のように休めるとこがねーんだよなあ…何つーか、退屈だしさ」
「そりゃあそうだよ。だいたいこうゆう道路ってのは、速く行くためのもので、景色を楽しんだりするものじゃないから」
「高橋はよぉ、車作って、何したいんだ?」

 手持ちのコップに入れた水を、ごくごくと喉を鳴らしながら遠山は呑む。一息ついて、首から下げていたタオルで口をぬぐいながら、そう問いかけた。

「へ?」

 いきなり何だ、と言いたげに高橋は口を曲げる。

「何で?」
「や、作ることができたとしてもよ、乗るのって、それこそどっかのお偉い連中だけじゃねーか、と思ってさ」
「いいじゃねーか。俺の勝手」
「や、そういうことを言ってるんじゃねーよ」
「じゃあどういうこと言ってるんだよ」

 何だろう。遠山自身、何を高橋に聞きたいのか、よく判っていないように、あたしには見えた。
 止めようか。そう思っていると、森田がふらりと立ち上がり、水筒に水をいっぱいくんできた。そしてその中身を二人の頭にぶちまける。

「何するんだよ!」

 二人の声がそろった。

「暑いんやから、頭冷やし。疲れるだけや」

 ふうん、とあたしは感心する。
 正直、森田がいてくれて助かった。彼は別に何かを率先してやるということはないけれど、すぐに一触即発の雰囲気になりそうな二人の間を、よく和らげてくれる。
 実際、ふてくされた様な顔はしつつも、二人ともとりあえず頭は冷えたようだ。

「お前、技術部だろ? そこで毎日楽しそうに部員連中と、車の研究とかしてるじゃねーか」
「お前だって、地学部でやってるじゃん。俺は知らなかったけど」
「部員はお前のとこの様にはいねーよ」
「そうなのか?」
「いねーよ。星やら石ころやらの研究よりは、皆お前らの様な機械関係に行っちまう」
「だけど仕方ねーだろ。皆それが好きなんだから」
「それが悪いとは言ってねーよ。ただ」
「ただ?」

 ごろん、と遠山は冷たいコンクリートの上に寝ころぶ。そして何でもねえよ、と付け加えた。
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