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王妃の罠
しおりを挟む側近から、セドリックの様子を聞いたマーガレット王妃は、部屋で怒り狂っていた。彼女は、赤茶色の髪に赤い目をした美人だが、その顔は怒りのあまり醜い姿になっていた。
「きいいいいいいいいいいいいいいい。何なのよ!あの異世界人は!!!」
ハンカチを噛みながら、思いっきり地団太を踏む。
(異世界から来たよくわからない男が、セドリックを治してしまうなんて!!!最悪だ。レオンが皇帝になるはずなのに、セドリックが王から認められてしまうかもしれない)
第一皇子レオンは、マーガレット王妃と国王レイバーンとの子供である。第二皇子セドリックは、側室クリスティーナとレイバーンの子供であり、クリスティーナはセドリックを産むと同時に亡くなっている。
普通にいけば、時期国王になるのは、マーガレットの息子のレオンである。しかし、レオンよりも、セドリックの方が優秀なのである。勉強、剣術、社交性……全てにおいてセドリックの方が秀でているのだ。また、セドリックの容姿は、クリスティーナに似て美しく、そのこともマーガレットを不快にさせた。そのためマーガレットは、セドリックが小さい頃から彼を虐めてきた。
セドリックが回復してしまうと、レオンの立場が危うくなる。
(このままじゃまずいわ。早くセドリックをどうにかしないと……)
イライラしたように、右足のかかとで絨毯を踏みながら考える。
(セドリックは、今、手術後だわ。このまま毒殺しても、手術の後遺症で死んだことにできるかもしれない。そうだ。今が最大のチャンスだわ)
マーガレットは、信頼できる側近キルドを部屋に呼び寄せ、耳元で「毒入りのクッキーを作りなさい」と命じたのだ。
* *
セドリックの自室で、賢吾は簡単な検査を行っていた。
「痛みはどうなりましたか」
「おかげさまで大丈夫です」
「なるほど。ただ、抗生物質はしばらく飲んでもらいましょう」
その時、コンコンとドアが叩かれ、セドリックが許可するとメイドが入ってきた。
「クッキーの差し入れです」
「誰からだ?」
「メイド達からです。手術の成功を祝って、プレゼントだそうです」
「ありがとう。いただこう」
セドリックが、さっそく食べようとすると、賢吾がバスケットを奪い取った。
「ダメですよ。あなたは、手術後なんだから、もっと消化にいいものを食べなければいけません」
「じゃあ、賢吾が食べてもいいぞ」
「私は、クッキーは口の中がぱさぱさになるから、嫌いです」
賢吾という男は、偏食家であった。
甘いものがダメとか、魚がダメとかいうタイプではなく、クッキーがダメとか、カレーの中のニンジンが嫌いとか、白身魚の刺身が嫌いとか、妙に細かいこだわりがあったのだ。
「しかし、このまま捨てるのはもったいないな」
賢吾は、顎に手を当てながら考え込む。
その時、ドアがコンコンとノックされる音がした。セドリックが「入れ」と声をかけると、第一皇子であるレオンが入ってきた。セドリックの兄であるが、母親はセドリックとは違う人みたいだ。
レオンは、赤茶色の髪に赤の瞳をしたイケメンで、優しそうな雰囲気をしている。
「セドリック。大丈夫か」
「兄上。お見舞いに来てくださったのですね。ありがとうございます」
彼は、手術前にもセドリックの部屋によく来ていたし、兄弟の仲はそんなに悪くなさそうだ。
「そうだ。ちょうどクッキーをもらったばかりです。俺は、手術後で消化に悪いものは、食べられないから、よかったら食べてくれませんか」
「ありがとう」
レオンが、クッキーに手を伸ばした。彼の母親の陰謀を知らずに……。
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