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25 永然の説明
しおりを挟む「え!?じゃあ、ここってゲームの中に転生したわけじゃ無かったのか!?」
と、万歩は驚いた。
愛希からそう聞いていたらしい。
「違いますね。前回説明し損ねましたが、あのゲームは永然の未来視が形になったものなだけであって、神浄外は現実ですよ。正確には神浄外に転生した、ですね。」
「な、なぁんだっ!俺てっきりBLの世界に来たのかと!なぁーんだぁ~。」
万歩は銀狼の勇者なのだから、神獣八体と恋愛するのかとビクビクしていた。朱雀紅麗は女性だが、あの人は美人すぎるしなんか怖い。怖い美人程怖いものはない。かと言って残りは全て男性で、そうなると恋愛攻略を進めるにはBLの道しかない。進めないとバッドエンドで全員死亡だよ!?と、朝露から言われ続けていて、内心どうしていいか分からなかった。
隣で聞いていた雪代が不思議そうに首を傾げる。
「でも前に聞いた時、BLって男性同士の恋愛って言ってただろ?なら間違ってな…っモゴっ!」
雪代の口は万歩によって塞がれた。
二人が戻った事で、永然を交えて、呂佳が珀奥である事は伏せて説明をしたのだ。
万歩と雪代は未来視に主要人物として出てきているので、知っていた方がいいだろうという永然の判断だった。
万歩が神獣と結ばれ枝を授かると永然が霊亀で無くなるという事も伏せた。それを知れば万歩に余計な重圧が掛かるからだ。
それと雪代は妖魔討伐で死亡エンドが多かったので、そこは自衛してもらわなければならない。
「それで、万歩は誰かしらと恋愛しなければならないのですか?未来視からは現状は大きく外れていますが、そこは変わらないのですか?」
聞かれて永然は少し目を瞑る。
「そう、だな。まだ神力が満ちてないから深くは見れないが………。銀狼が神獣と結ばれて生命樹の枝を授かるのは神の意志になるからな……。」
万歩の顔ががーーーんと青褪めた。
永然が申し訳なさそうにする。
銀狼を選ぶのは霊亀である永然の役目だ。
「な、何で俺は銀狼になったの?」
霊亀の役目について学舎で習ってはきたが、霊亀が銀狼を選ぶ基準が何なのかは、霊亀本人にしか分からない。
「……………基本は性格などを見て勘で選ぶのだが、今回は呂佳の魂と共に持って来れる者にした。」
永然は珀奥の魂を探していた。そして見つけて、望和が死亡する未来を見て、共にトラックに轢かれる伊織を選んだのだ。
「うっ、望和と一緒にいたから………。じゃあ、しょうがない……。」
一緒にいなければ来れなかったというなら、万歩はこれについては文句を言わない事にした。
「では、僕から金の枝を奪った朝露についてですが、今あの子は達玖李に利用されています。」
そーだなと永然も顔を顰める。
あの何もない空間は、向こうとこちらの狭間の空間になるのだが、未来視が効かない。
そこを突かれてしまったとしか言いようが無かった。
「何で白虎様がそんな事をしてんの?」
白虎は神浄外の西外側を守る守護神獣だ。
何の為にそんな事をしているのか分からない雪代が質問した。
「達玖李は野心が強い。」
永然の言葉に、呂佳も頷く。
「過去に麒麟が誕生しない年月が千年程ありました。その時麒麟領を統治したのが白虎達玖李なのですが、彼は麒麟の生命樹が神山になるのを邪魔していました。」
「はぁ!?」
「そんな事していーのか!?」
万歩と雪代は驚く。
「ただの獣人の罪は問うのに、神獣同士は黙秘される。」
「神獣八体はお互い牽制し合い監視し合う立場でもあります。過度な統治を施す場合は、他の神獣が罪を問い、殺す事も可能です。特に獣の王麒麟と同じ属性の白虎は本能が強いのか、昔から牽制し合うのだと言います。なので白虎が麒麟の生命樹を処分しても神罰が降らなかったようです。」
「いやいや、まだ卵にすらなってないのに防ぎようがねーじゃん。」
雪代が呆れたように言った。
「そこは他の神獣が諭すなり何なりするべきだが、戦闘特化の白虎に盾つける奴が当時の青龍だけだったんだ。天凪は傍観者だし、後は諭しに行って消されればどうしようもない。それに同じ西側を護る白虎がやってるならいいんじゃ無いかという奴もいてな。」
「じゃあ那々瓊様はどうやって生まれたんだ?」
万歩の問い掛けに永然は呂佳を見た。
「たまたま枝を持ち帰った者がいて、たまたま育ててくれた人がいたんですよ。」
呂佳はすらっと真実を混ぜて嘘をついた。
二人はへー良かったなぁと信じている。
永然はお茶を啜った。
「では、本題の那々瓊を助ける手立てですが、いい案とは何ですか?」
呂佳が今一番聴きたかった内容だ。
その為にここまで来た。
「あるだろう。お前にうってつけの神力が宿る身体が。」
呂佳はハッとする。
「あれは、既に死んだ身体ですよ?しかも何百年経ってると思ってるんですか?」
「神浄外では死体は土葬する。その意味は、死んだ身体でも神力を宿すからだ。土に返す事で、神力を神浄外に還す意味合いで土葬する。あの身体は那々瓊が大事に大事に保護する為に神力注ぎまくってるぞ。」
「妖力は?神罰は?」
「死んだ時点で終了だろう?後は那々瓊が自分の神力入れまくってるから妖力なんかとっくの昔に吹き飛んでた。」
永然が見つけた時には既に妖力は無かった。
那々瓊は獣の勘で元珀奥の死体を浄化保存していたのだ。
「勝手に使って怒りませんか?」
「大丈夫だ。」
むしろ喜ぶだろうと永然は思っている。
あの身体は元々珀奥の身体なので、呂佳の魂と必ず融合する。後は取り込んでみてどうなるかだ。
「では戻りましょう!」
やる気を出した呂佳に、永然は待ったを掛けた。
「ちょっと待て。先にこの雨をどうにかしよう。………天凪っ!雨を止めてくれ!」
永然が叫ぶと外の雨音が止んでくる。
天凪が寝ている永然を守る為に降らせていたので、起きたならば不要だった。
「来る時も止めてもらえば良かったんじゃ?」
雪代が文句を言う。
それはどうだろうかと呂佳は思う。
毎度毎度この雨は降るのだ。
霊亀領に湿気が多いのは、永然が好んでいるのではなく、天凪の所為ではないかと思ってしまう。兎に角天凪は育ての親である永然に過保護だった。
「すまないな。」
永然が申し訳なさそうに謝った。
「なんか天凪様の意外な一面。」
天凪の下で暮らしている万歩は驚いている。
万歩から見た応龍天凪は、常に微笑んではいるが何を考えているか分からない人だ。裏では色々と暗躍していそうな裏ボスという感じだ。違うだろうけど。
麒麟那々瓊は見た目優しいお兄さんだが、切れると怖そうだなと思っている。沸点がどこにあるのか未だに掴めない。何で呂佳が仲良いのか分からないし、何故呂佳を舐め回してたのか分からない。ただライバルだ。
他の神獣達もそこそこ顔見知りにはなったが、誰一人仲良くなったという印象がなかった。
先程、銀狼の勇者は神獣と誰かの伴侶にならなきゃならないと言われたけど、全くそんな雰囲気になった神獣はいない。
いや、いなくていい!
どーせなるなら呂佳がいい。
でもライバルがなんか怖い那々瓊様かぁ~……。
「那々瓊様って呂佳の事好きなの?」
思わず尋ねる。
呂佳は、え?と首を傾げた。
これには永然が食い付いた。
「はっ、そういえば耳や尻尾を舐められたと言ったな。」
「それはっ、永然はどういう育て方をしたのですか!?」
恥ずかしかったんですよ!と呂佳は永然に詰め寄った。
「普通に育てた。」
「ばかな!?」
呂佳はぐいっと永然の服を引っ張り、コソコソと二人で話す。
「親の耳を舐め回したり、尻尾の付け根の匂い嗅いだり、子供がする事じゃないでしょう!?」
「いや、那々瓊は立派な大人なんだが?」
親にする行為じゃないと理解してて、何故その先の意味に進まないのか。
「天凪は俺にそんな事してこないぞ?」
「ええ!?……そういえば、そう、ですね???」
呂佳が悩み出したところで放置する事に決めた永然は、質問を無視されて落ち込む万歩と、それを慰めている雪代へ、行くぞと促した。
呂佳は珀奥の時から家族に飢えているが、本人はそれに気付かないふりをしている。その所為か分からないが、恋愛ごとに疎い。
自分が好意を持たれている事に気付かないのだ。
珀奥の容姿なんてそれはもう人目を引いて凄かったのに、その視線を何か鬱陶しいモノと捉え、山に篭ってしまう。
なのに寂しいから少ない友人は欲しがって、永然が仲良くなろうと直球で言ったら友人になれる。
この銀狼の勇者も可哀想にと思わずにはいられない。側から見るとよく分かるのだが。
「さて、帰るか。」
外に出ると雨は止んでいたが、樹々に降り積もった露が未だポタンパタタタタと降っていた。
「天凪ー、水も減らしてくれると助かるが?」
どこで聞いているのか、土を濡らしていた水がサァーと引いていく。
カラカラではない程度に程よく土は乾燥し、苔むした緑がフカァと地面を覆っていた。
空を覆う枝や葉の合間から、陽の光が筋となって落ちて、あたり一面を幻想的に輝かせていた。
薄くかかるも靄に光が反射する様は、森の中から妖精が出てきそうな程に神秘的だった。
全員でおおっと感動する。
「森を出たら少し道具を買い足してから行こうか。」
「この分なら半分程度の工程で戻れそうですね。」
来た時の泥濘を思い出し、永然に対する対応と、その他に対する天凪の対応の違いに、文句を言いたくなってきた呂佳だった。
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